かに座

黄道十二星座の一つ

かに座(かにざ、蟹座、Cancer)は、黄道十二星座の1つ。トレミーの48星座の1つでもある。星座のほぼ中央にあるM44(プレセペ星団、プレセペ散開星団)が有名である。

かに座
Cancer
Cancer
属格 Cancri
略符 Cnc
発音 [ˈkænsər]、属格:/ˈkæŋkraɪ/
象徴 the Crab
概略位置:赤経 9
概略位置:赤緯 +20
広さ 506平方度[1]31位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
76
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 β Cnc(3.520
メシエ天体 2
確定流星群 Delta Cancrids
隣接する星座 やまねこ座
ふたご座
こいぬ座
うみへび座
しし座
こじし座(角で接する)
テンプレートを表示
ポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスの『Uranographia』にあるかに座に該当するザリガニ座

主な天体 編集

恒星 編集

かに座は最も明るいβ星で3.520等、他は4等星以下と全体に暗い星からなる星座である。

以下の恒星には、国際天文学連合によって正式に固有名が定められている。

  • α星:アクベンス (Acubens[2]) という固有名を持つ。
  • β星:タルフ(Tarf)は、かに座で最も明るい恒星。蟹の脚の先端にある。
  • γ星:アセルス・ボレアリス (Asellus Borealis[2]) は、5等星。
  • δ星:アセルス・アウストラリス (Asellus Australis[2]) は、4.2等星、K0型。γ星とδ星は、プレセペ星団を飼い葉桶と見なし、そこから飼い葉を食む驢馬(ロバ) (Aselli) と考えられたため、この名前がある。
  • ε星:連星系で、Aa星にMelephという固有名が付けられている。
  • ζ星:少なくとも4つの恒星からなる連星系。ζ1星には、ラテン語で甲殻類の殻を意味する言葉に由来するテグミン (Tegmine[2]) という固有名が付けられている。
  • λ星:Piautos
  • ξ星:A星にNahnという固有名が付けられている。
  • 55番星:バイエル符号ではρ1星。G型主系列星の主星Aと赤色矮星の伴星Bからなる連星系で、主星Aには5つの太陽系外惑星が発見されている。55番星Aにはコペルニクス (Copernicus[2]) という固有名が付けられている。
  • HD 73534:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でブータンに命名権が与えられ、主星はGakyid、太陽系外惑星はDrukyulと命名された[3]

その他の特徴ある恒星として以下のものがある。

星団・星雲・銀河 編集

  • M44(プレセペ星団):散開星団。アラビア名はアンナトラ(An natra)。実視等級3.7等。M44はε星として扱われる。γ星、δ星、θ星、η星の作る四辺形と中心のM44の領域は、中国の星座では二十八宿鬼宿(和名:魂緒(たまを)の星)に当たり、積尸気(ししき あるいは せきしき)と呼ばれる、屍体の山から立ち上る精霊(魄)が集まる姿とされる。
  • M67:散開星団。
  • NGC 2775渦巻銀河

なお、M1「かに星雲」はその形がカニに似ていることから命名されたものであって、かに座ではなくおうし座にある。

その他 編集

アステリズム 編集

トレミーの48星座は、一部の星座を除けばバビロニア天文学英語版エジプト天文学英語版に遡れる。エジプト天文学では、かに座ではなく復活と不死性を持つ聖なる甲虫スカラベであった。バビロニアでは、MUL.AL.LULと記述され、カミツキガメザリガニ、カニなど甲殻を持つ水棲動物の星座の意味であった。領土を霊的に守る境界標では、カニは一切使用されず陸亀、水中の亀のイメージが使用されている。

12世紀の資料では、水中甲虫とされた。9世紀のアラブ占星術師アブー=マーシャル英語版の著書『Flowers of Abu Ma'shar』でそう書かれている。1488年にラテン語に翻訳された際にザリガニとなり、ドイツ語に翻訳された際にはそれに倣った。17世紀のヤコブス・バルチウスを含む天文学者らはロブスターであると記述した。

神話 編集

 

ゼウスの子、勇者ヘーラクレースヘルクレス座)は、誤って自分の子を殺した罪を償うため、12の冒険を行うことになった。そのうちの1つがヒュドラーうみへび座)の退治である。化け蟹カルキノス (古希: καρκίνος)[注 1]は、最初はヘーラクレースとヒュドラーの戦いを見ていたが、しだいに同じ沼に住んでいる友人であるヒュドラーが形勢不利になったため、飛び出してヘーラクレースの足を挟んだ。しかし、彼はカルキノスを振り払い踏みつぶした。一部始終を見ていた女神ヘーラーは、勇敢なるカルキノスを哀れに思って、天に上げて星にした[4][5][6]

なお、別のパターンとして以下のような説もある。ゼウスの妻である女神ヘーラーは、ゼウスの愛人の子であるヘーラクレースを快く思っておらず、巨大な化けを使いに出した。化け蟹ははさみでヘーラクレースの脚を切ろうとした。しかし、ヒュドラーとの格闘中の彼は、まったく気づかずに化け蟹を踏み潰して殺した。この捨て身の勇気を認められ、化け蟹は天に昇りかに座となった[6]

またエラトステネースに帰されている『カタステリスモイ』によれば、かに座のなかには、ギガントマキアーにおいてディオニューソスヘーパイストスサテュロスたちが騎乗し、嘶きによって巨人たちを恐怖させ撃退した驢馬たちと、これを養う飼い葉桶を表す星々も含まれていると言われる[5]

関連項目 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 古代ギリシャ語で「蟹」を指す一般名詞。なお、現代ギリシャ語では(特に毛蟹を指す場合)καβούρι と呼ぶ。

出典 編集

  1. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2016年10月6日閲覧。
  3. ^ Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2019年12月29日閲覧。
  4. ^ Ian Ridpath. “Star Tales - Cancer”. 2014年2月4日閲覧。
  5. ^ a b 伝エラトステネス『星座論』(4) おとめ座・ふたご座・かに座”. 2022年8月31日閲覧。
  6. ^ a b 長島晶裕/ORG『星空の神々 全天88星座の神話・伝承』新紀元社、2012年。ISBN 978-4-7753-1038-0 

座標:   09h 00m 00s, +20° 00′ 00″