ご当地ナンバー

日本の車体登録番号の特別制度

ご当地ナンバー(ごとうちナンバー)は、自動車に付ける日本のナンバープレート(番号標)のうち、「新たな地域名表示ナンバープレート」の通称。国土交通省が、ナンバープレートに表示する地名について、対象市町村の区域を限って、新規の自動車検査登録事務所の設置によらずに、独自の地名を定められるよう新たに開始した制度、およびこれに基づき2006年平成18年)10月10日以降、新たな地名を表示して払い出された番号標を指す。

豊田」ナンバーの日産車

地域おこしや観光客誘致を目的に実施する地域が多く、2022年5月時点で46地域が導入している[1]

概要 編集

導入基準 編集

国土交通省は2004年(平成16年)11月30日、それまでの懇談会審議、省内整理案公表と意見募集の結果を踏まえ、「今般、地域振興や観光振興等の観点から、ナンバープレートの地域名表示を弾力化し、自動車検査登録事務所の新設の有無にかかわらず、新たな地域名表示を認めることとする」とし、これによる「新たな地域名表示ナンバープレート」として、次のような要綱の下に適用地域の募集を行うこととした。

対象となり得る地域の基準 編集

  • 地域特性や経済圏などに関して、他の地域と区分された一定のまとまりのある地域であり、一般に広く認知された地域であること。
  • 原則として、単独の市町村ではなく、複数の市町村の集合であること。
  • 当該地域において、登録されている自動車の数が10万台を超えていること。
  • 対象となる地域が、当該都道府県内における他の地域名表示の対象地域と比較し、人口、登録されている自動車の数等に関して、極端な不均衡が生じないものであること。

地域名の基準 編集

  • 行政区画旧国名などの地理的名称であり、当該地域を表すのにふさわしい名称であること。また、当該地域名が全国的にも認知されていること。
  • 読みやすく、覚えやすいものであるとともに、既存の地域名と類似し混同を起こすようなものでないこと。
  • ナンバープレートに表示された際に十分視認性が確保されるよう、原則として「漢字」で「2文字」とすること。やむを得ない理由があるとして例外を認める場合であっても最大で「4文字」までとし、ローマ字は認めないものとすること。

加えて、「複数の運輸支局、自動車検査登録事務所の管轄にまたがる地域名表示については、各種の行政事務、自動車検査登録システムへの影響等について慎重に検討を行う必要があり、当面は認めないこととする」との一文も盛り込まれた。

導入の手続き 編集

要綱を満たす地域の市町村が住民の意向を踏まえた上で、都道府県を通じ地方運輸局に要望すること。

導入条件の緩和 編集

2017年(平成29年)5月30日に国土交通省は、地方版図柄入りナンバープレートの導入に合わせて追加のご当地ナンバー募集を始めると発表した。その中で従来より条件を緩和し、「対象地域内の登録自動車数が10万台を超えていること」あるいは「地域内に複数の自治体があり、登録数がおおむね5万台を超え、地域名表示が相当程度の知名度を有すること(観光著名地等)」を条件とした。緩和を受けて翌6月には島根県出雲市が出雲ナンバーを、千葉県松戸市が松戸ナンバーを申請することを明らかにし、以降は申請を検討する地域が増加した。

応募地域 編集

2005年(平成17年)5月末の締切までに全国20の地域が応募した。同省は当初「5地域程度」の新規制定を目論んでいたが、「地域の熱意を感じた」として、このうち「富士山」(静岡県富士市および山梨県富士吉田市など)と「奄美」(鹿児島県奄美市など14市町村)を除き、現時点で対象となりうる基準を満たしている18地域について導入を認めることとした。先行して17地域が2006年10月10日から、残る「つくば」に関しては茨城県の新県税システム導入に合わせて2007年(平成19年)2月13日から導入され、運用されている。

管轄する国土交通省の地方支分部局が複数にまたがるために一旦導入見送りとなった「富士山」について、両県は2005年(平成17年)11月に第8次構造改革特区要望として同省へ再申請した結果、同省は2007年(平成19年)3月1日に導入を発表し[2]2008年(平成20年)11月4日より交付を開始した。2県にまたがる初の地域名表示で、管轄する地方支分部局も中部運輸局静岡運輸支局関東運輸局山梨運輸支局に分かれたままでの運用となる[3]

全国各地から追加の強い要望があることを踏まえ、2013年(平成25年)2月26日に第2弾を公募。第1弾の応募地域のうち唯一未導入となった「奄美」を含む、全国11地域が応募した[4]。審査の結果、「飛鳥」(のち第3弾で実現)を除く10地域(盛岡平泉郡山前橋越谷川口世田谷杉並春日井、奄美)のご当地ナンバーが認められ、2014年(平成26年)11月17日より交付を開始した[5][6]。地域振興に重点が置かれ、単一自治体でのご当地ナンバー導入が増加した。また、奄美ナンバーについては、対象地域が奄美自動車検査登録事務所管轄の全域となり、当該事務所払出のナンバーが全てご当地ナンバーとなった。

これまで、ご当地ナンバー導入が構想されたものの実現に至っていないものとしては、渡良瀬秩父浦和館山町田鎌倉横須賀燕三条雪国魚沼軽井沢佐久東美濃熊野博多などが挙げられる。

埼玉県さいたま市の旧浦和市エリアでは県庁所在地であった旧市時代より創設が取り沙汰されており、近年においても浦和レッズ高級住宅街として知名度が高く浦和ナンバー創設を市議会でも取り上げられている。

三陸沿岸都市会議では復興支援・地域活性化のために「三陸ナンバー」創設を提唱したが断念している。

三重県2016年(平成28年)5月下旬に第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催され、その終了直後の同年7月に「伊勢志摩ナンバー」導入を国土交通省に要望し、翌年の第3弾募集のきっかけとなった。

2017年(平成29年)5月には募集要件の緩和が発表され、第3弾の募集を始めた。2018年(平成30年)5月に以下の17地域に決定し、2020年令和2年)5月11日より交付を開始した。[7]

第4弾の募集に先立ち、東京都江戸川区が「江戸川ナンバー」の導入に向けて2022年(令和4年)9月15日から10月31日までアンケートを行い[8]、賛成が反対を上回りかつ賛成とどちらでもよいが7割以上だったことから同ナンバー導入の意向を表明した[9]

2023年(令和5年)4月21日に第4弾として以下の6つの新地域および1地域への編入の申し込みがあったと公表された[10]。しかし、彦根については、甲良町の全世帯で導入に関するアンケートを行ったところ反対が過半数を占めたため、甲良町と彦根市との話し合いの結果、導入を断念することが決まった[11]

新地域
編入

ご当地ナンバーに対する批判 編集

一方で、ご当地ナンバーに対して以下のように主張する批判もあり、裁判に至ったケースもある。

プライバシー侵害につながる 編集

ピンポイントで地域住民の居住地を晒している。都道府県単位でない狭い地域を表示することは、車の所有者の在住市町村を回りに知らせることになる。鈴鹿市と亀山市のみの「鈴鹿」ナンバー(約61,000台)どころか「地域内に複数の自治体がある」という条件からも逸脱した下関市だけの「下関」ナンバー(約47,000台)など、単一自治体でのご当地ナンバーはピンポイントで在住市町村を晒している。ご当地ナンバーが導入されるとその地域で登録される自動車はご当地ナンバーしか払い出せなくなるため、地域住民のプライバシーの侵害となる。またストーカー被害に遭っているときやあおり運転などの交通トラブルの際に(インターネットが普及した現代では)個人宅を特定されやすくなる。

「世田谷」ナンバーが導入された東京都世田谷区では、区議会議員と区民132人が区と保坂展人区長を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす事態に至った[12]。世田谷区でも反対の理由として、居住地が特定される、車上荒らしの標的にされる、税金の無駄遣いである、様々な意見を持つ住民のニーズが反映されていない、区内の商店街で働く人が賛成の署名を強要されたなどの意見が挙げられている[12]

また、群馬県伊勢崎市でも「伊勢崎」ナンバーの導入を検討し、2017年と2022年の2度に渡って、市民アンケートを行ったが、ご当地ナンバー導入により自身の居住地が知られてしまう懸念が強いことから、いずれのアンケートでも反対意見が強く、導入が見送られている[13]

2019年以降、新型コロナウイルス(COVID-19)が流行する事態が発生したことで県外などの他地域ナンバーの自動車への破壊行為などの嫌がらせを行う自粛警察が社会問題となったが、居住地をピンポイントで晒しており県内であっても嫌がらせされやすくなるとの指摘が識者から出されている[14]

ご当地ナンバー一覧 編集

  • ご当地ナンバーの地域名は以下の46箇所である。
  • 登録台数の単位は「台」。主に2015年(平成27年)9月末の保有台数[15]
  • 導入次「1」の地域については、第1弾として2006年(平成18年)10月10日から導入された。
  • 導入次「1-1」の地域については、第1弾として認められたが、茨城県の新県税システム導入に合わせる為、他の地域に遅れて2007年(平成19年)2月13日から導入された。
  • 導入次「1-2」の地域については、一旦見送られたが、第8次構造改革特区として認められ、第1弾の追加として2008年(平成20年)11月4日から導入された。
  • 導入次「2」の地域については、第2弾として2014年(平成26年)11月17日から導入された。
  • 導入次「3」の地域については、第3弾として2020年(令和2年)5月11日から導入された。
  • 2014年(平成26年)11月導入の地域では、2015年(平成27年)12月現在で盛岡(4万7301台)、前橋(4万6738台)、郡山(4万4370台)、川口(3万9245台)の順に普及率が高い[16]
導入次 新地域名 旧地域名 ご当地
ナンバー
対象地域
車両数
ご当地
ナンバー
保有
車両数
対象市町村
3 知床 北見 - - 北海道斜里郡斜里町小清水町清里町
釧路 - - 北海道野付郡別海町標津郡中標津町標津町目梨郡羅臼町
3 苫小牧 室蘭 - - 北海道苫小牧市
3 弘前 青森 - - 青森県弘前市中津軽郡西目屋村
2 盛岡 岩手 約317,000 47,401[16] 岩手県盛岡市八幡平市滝沢市紫波郡紫波町矢巾町
2 平泉 約112,000 29,612[16] 岩手県奥州市一関市胆沢郡金ケ崎町西磐井郡平泉町
1 仙台 宮城 439,236 224,923 宮城県仙台市
1 会津 福島 127,555 51,629 福島県会津若松市喜多方市南会津郡下郷町只見町檜枝岐村南会津町耶麻郡猪苗代町西会津町磐梯町北塩原村河沼郡会津坂下町柳津町湯川村大沼郡会津美里町金山町三島町昭和村
2 郡山 約163,000 44,370[16] 福島県郡山市
3 白河 - - 福島県白河市西白河郡矢吹町西郷村泉崎村中島村
1 那須 宇都宮 121,550 52,943 栃木県那須塩原市大田原市那須郡那須町
1 高崎[注 1] 群馬 231,675 107,011 群馬県高崎市安中市
2 前橋 約300,000 46,738[16] 群馬県前橋市北群馬郡吉岡町
1 成田 千葉 163,868 73,449 千葉県成田市富里市山武市香取郡神崎町多古町山武郡芝山町横芝光町
3 船橋 習志野 - - 千葉県船橋市
3 市川 - - 千葉県市川市
1 野田 190,115 100,680 千葉県柏市我孫子市
3 松戸 - - 千葉県松戸市
3 市原 袖ヶ浦 - - 千葉県市原市
1 川越 所沢 215,955 102,375 埼玉県川越市坂戸市鶴ヶ島市入間郡毛呂山町越生町
2 川口 大宮 約184,000 39,245[16] 埼玉県川口市
2 越谷 春日部 約150,000 28,208[16] 埼玉県越谷市
2 杉並 練馬 約100,000 22,983[16] 東京都杉並区
3 板橋 - - 東京都板橋区
2 世田谷 品川 約200,000 37,608[16] 東京都世田谷区
3 江東 足立 - - 東京都江東区
3 葛飾 - - 東京都葛飾区
1-1 つくば 土浦 516,295 214,371 茨城県つくば市つくばみらい市守谷市古河市桜川市常総市下妻市筑西市坂東市結城市猿島郡五霞町境町結城郡八千代町
3 上越 長岡 113,358 - 新潟県上越市糸魚川市妙高市
1 諏訪[注 2] 松本 98,165 40,862 長野県諏訪市岡谷市茅野市諏訪郡下諏訪町富士見町原村
1 金沢 石川 263,372 131,341 石川県金沢市かほく市河北郡内灘町津幡町
1 岡崎 三河 199,602 104,336 愛知県岡崎市額田郡幸田町
1 豊田[注 3] 243,490 127,085 愛知県豊田市
1 一宮[注 3] 尾張小牧 161,348 81,990 愛知県一宮市
2 春日井 133,673 33,022[16] 愛知県春日井市
1 伊豆 沼津 165,398 81,026 静岡県熱海市三島市伊東市下田市伊豆市伊豆の国市賀茂郡河津町西伊豆町東伊豆町松崎町南伊豆町田方郡函南町
1-2 富士山 316,114 87,568 静岡県富士宮市富士市御殿場市裾野市駿東郡小山町
山梨 山梨県富士吉田市南都留郡富士河口湖町西桂町忍野村山中湖村鳴沢村道志村
1 鈴鹿[注 1] 三重 118,149 60,942 三重県鈴鹿市亀山市
3 四日市 - - 三重県四日市市
3 伊勢志摩 - - 三重県伊勢市鳥羽市志摩市多気郡明和町度会郡玉城町度会町南伊勢町
1 和泉 263,384 132,877 大阪府堺市
3 飛鳥 奈良 - - 奈良県橿原市磯城郡田原本町三宅町高市郡高取町明日香村
3 出雲 島根 - - 島根県出雲市仁多郡奥出雲町飯石郡飯南町
1 倉敷 岡山 253,029 118,026 岡山県倉敷市笠岡市井原市浅口市浅口郡里庄町小田郡矢掛町
1 下関[注 3][注 2] 山口 98,567 47,432 山口県下関市
3 高松 香川 - - 香川県高松市
2 奄美[注 4] 鹿児島 約81,000 12,693[16] 鹿児島県奄美市大島郡瀬戸内町龍郷町喜界町徳之島町天城町伊仙町和泊町知名町与論町大和村宇検村

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b 国土交通省から、対象地域内において住民に対するアンケートの賛成率が50%を下回った市町村があることから、当該市町村の住民に対して一層の理解と賛同を得るよう努力を求めるという意見がついた地域。
  2. ^ a b 国土交通省から、対象地域の登録自動車数が要綱の10万台をわずかに超える台数にとどまっていたことから、対象地域の拡大による台数の増大が図られるよう努力を求めるという意見がついた地域。
  3. ^ a b c 国土交通省から、当初の要望地域一円が市町村合併により単独市となったことを考慮して、要綱「原則複数の市町村の集合」の例外としたが、対象地域の拡大が図られるよう、努力を求めるという意見がついた地域。
  4. ^ 地域全体で登録されている自動車数は10万台に届いていないが、離島という地理的事情が考慮され例外的に認められた。

出典 編集

  1. ^ ご当地ナンバー 成果あった?要件広げ募集中「走る広告塔」⇔廃止も可能に 46地域が導入「国は効果検証を」『東京新聞』朝刊2022年5月30日(特報面)
  2. ^ 富士山ナンバーの導入について 国土交通省報道発表資料 2007年(平成19年)3月1日/2013年(平成25年)8月5日閲覧。
    この発表文中で「今後の更なる拡大については(中略)19ナンバーの導入効果、影響、自動車ユーザーの評価などについて一定期間見極めた上で、関係省庁等の意見も聞きながら改めて検討することといたします」とされた。
  3. ^ 富士山ナンバーの交付開始について 国土交通省報道発表資料 2008年(平成20年)4月15日/2013年(平成25年)8月5日閲覧。
  4. ^ 「ご当地ナンバー(第2弾)審査会」の開催について 国土交通省報道発表資料 2013年(平成25年)7月24日/同日閲覧
  5. ^ ご当地ナンバー(第2弾)の導入地域の決定について 国土交通省報道発表資料 2013年(平成25年)8月2日/同日閲覧
  6. ^ ご当地ナンバー(第2弾)の導入時期について。ご当地ナンバー(第2弾)の導入時期について (PDF) 」国土交通省報道発表資料。2014年(平成26年)5月16日2014年(平成26年)5月17日閲覧。
  7. ^ つけて走って広げよう、地域の魅力!〜地方版図柄入りナンバープレートのデザイン決定〜地域名表示の追加 (PDF) 」。国土交通省報道発表資料。2018年(平成30年)5月22日2018年(平成30年)5月22日閲覧
  8. ^ 「江戸川」ナンバー導入についてアンケートを実施しています、江戸川区
  9. ^ 「江戸川ナンバー導入」のアンケート結果、江戸川区
  10. ^ “ご当地ナンバー”で地域の魅力を発信! ~ 6地域から新たな地域名表示(ご当地ナンバー)の導入申込み ~」「001602793.pdf (PDF) 」。国土交通省報道発表資料。2023年(令和5年)4月21日。2023年(令和5年)11月17日閲覧
  11. ^ 彦根市と甲良町 「彦根ナンバー」の導入断念 申請取り下げへ”. 滋賀 NEWS WEB. 日本放送協会 (2023年7月27日). 2023年7月29日閲覧。
  12. ^ a b とうとう裁判沙汰、「世田谷ナンバー」...何がそんなにイヤ? Jタウンネット2014年(平成26年)10月29日
  13. ^ 「伊勢崎ナンバー」導入見送りへ 市民アンケートで過半数が反対”. 群馬テレビ (2022年11月11日). 2022年11月12日閲覧。
  14. ^ 不人気ご当地ナンバー、あの“自粛警察”の取締りには好都合”. レスポンス. 2020年6月23日閲覧。
  15. ^ ご当地ナンバーの保有台数 (PDF) 国土交通省報道発表資料。2016年(平成28年)4月3日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g h i j k 2015年12月末現在

関連項目 編集

外部リンク 編集