アトラス山脈

アフリカ大陸北西部マグリブにある褶曲山脈

アトラス山脈(アトラスさんみゃく、アラビア語: جِـبَـال الْأَطْـلَـس‎、ベルベル語ⵉⴷⵓⵔⴰⵔ ⵏ ⵓⴰⵟⵍⴰⵙ)は、アフリカ大陸北西部のマグリブにある褶曲山脈である。サハラ砂漠地中海大西洋の海岸部とを分離している。モロッコアルジェリアチュニジアにまたがり、全長は約2500 kmである。山脈の最高峰は、モロッコ南西部にあるツブカル山(標高4167 m)である[1]

アトラス山脈
最高峰のツブカル山
最高地点
山頂ツブカル山
標高4,167 m (13,671 ft)
座標北緯31度03分43秒 西経07度54分58秒 / 北緯31.06194度 西経7.91611度 / 31.06194; -7.91611座標: 北緯31度03分43秒 西経07度54分58秒 / 北緯31.06194度 西経7.91611度 / 31.06194; -7.91611
地形
北アフリカにおけるアトラス山脈の位置(赤色)
モロッコの旗 モロッコアルジェリアの旗 アルジェリアチュニジアの旗 チュニジア
地質
岩石の年代Precambrian
プロジェクト 山

アトラス山脈には主にベルベル人が住んでいる[2]。一部のベルベル諸語では、「山」のことをアドラ(adrar)またはアドラス(adras)と言い、地名学においてこれらの語はアトラスと同根語と考えられている。

アトラス山脈には多くの動植物が生息しており、それらのほとんどはアフリカ内でのみ見られるが、一部はヨーロッパでも見られる。これらの種の多くは絶滅の危機にあり、いくつかはすでに絶滅している。

3000 m級の高地(モロッコ)では雪が降る。スキー・リゾート地として開発されている場所も存在する[3]

地質 編集

 
北アフリカにおけるアトラス山脈の位置

アフリカの大部分の基盤岩先カンブリア時代に形成され、アトラス山脈よりはるかに古い。アトラス山脈は、次の3つの段階で形成された。

古生代( – 約3億年前)、ゴンドワナ大陸(現在のアフリカ大陸・南アメリカ大陸など)とローラシア大陸(現在のヨーロッパ大陸・北アメリカ大陸など)の衝突によりアンティアトラス山脈(小アトラス)が形成された。アンティアトラス山脈は、元々はアパラチア造山運動英語版で形成された山脈の一部と考えられている。この山脈は、現在のアフリカ大陸と北アメリカ大陸が衝突したときに形成され、かつては今日のヒマラヤ山脈に匹敵する巨大な山脈だった。今日、この山脈の残骸は、アメリカ合衆国東部滝線地域で見ることができる。後に形成された北アメリカのアパラチア山脈にもいくつかの名残が見られる。

第2段階は、中生代( – 約6600万年前)に起こった。 それは、上記の大陸のリフトと分裂による、地殻の広範囲にわたる拡大からなる。この拡張により、現在のアトラス山脈を含む多くの厚い大陸内堆積盆地が形成された。現在のオートアトラス山脈英語版(高アトラス)の表面を形成している岩の大部分は、当時は海の底に堆積していた。

 
アトラス山脈付近のプレートの境界

最後に、古第三紀新第三紀(約6600万年 – 約180万年前)に、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸がイベリア半島の南端で衝突したことにより地面が隆起し、今日のアトラス山脈が形成された。このような収束型境界では、一方のプレートが他方の下に潜り込む場合には沈み込み帯が形成され、2つのプレートに大陸性地殻英語版が含まれる場合には大陸衝突が起こる。アフリカとヨーロッパの衝突の場合、収束型境界が高アトラスの形成、ジブラルタル海峡の閉鎖、アルプス山脈ピレネー山脈の形成に部分的に関与していることは明らかである。しかし、アトラス地域においては、沈み込みの性質や、一般に大陸衝突に関連する地球の地殻の厚さといった証拠は存在しない。アトラス山脈の地質学的な特徴の中で最も顕著なものは、山岳地帯の高さにもかかわらず地殻が薄いことと、地殻短縮である。最近の研究では、マントルにおけるプロセスが高・中アトラスの隆起に寄与した可能性があることが示唆されている[4][5]

天然資源 編集

 
山脈の景色

アトラス山脈は天然資源が豊富である。鉄鉱石水銀岩塩リン酸塩大理石無煙炭天然ガスなどの資源が産出する。

地理 編集

 
高アトラスと小アトラスの衛星写真。上が南。左中央にグルミマ英語版の街が見える。

アトラス山脈は以下の4つの地域に分類される。

アンティアトラス山脈 編集

アンティアトラス山脈(小アトラス)は、モロッコの南西の大西洋岸から北東に向かってワルザザート高地に至り、東にタフィラルト英語版まで続く約500 kmの山脈である。南はサハラ砂漠に接している。アンティアトラス山脈の最東端はジュベル・サジェロ山脈英語版であり、その北にオートアトラス山脈(高アトラス)が隣接している。この山脈の最高峰は、火山起源の山塊であるDjebel Siroua(標高3304 m)である。アンティアトラス山脈の南側に沿って、低いジェベル・バニ山脈が走っている[6]

オートアトラス山脈 編集

 
オートアトラス山脈(モロッコ)

オートアトラス山脈(高アトラス)はモロッコ中央部にあり、大西洋岸からモロッコとアルジェリアの国境まで東方向に伸びている。北アフリカで最も高いツブカル山(標高4167 m)、その東のムグーン山英語版(標高4071 m)など、4000 mを超える山が複数ある。東西の端では高度が急激に低下し、大西洋岸およびアンティアトラス山脈につながっている。

カヴァニャック堰堤の近く[7]には水力発電ダムがある。このダムによってできた人工湖であるララ・タクルクスト英語版湖では、地元の住民が漁業を行っている。

 
ララタケクスト湖のパノラマ写真。水力発電ダムは右端にある。

モワヤンアトラス山脈 編集

モワヤンアトラス山脈(中アトラス)は全域がモロッコ国内にあり、アトラス山脈の主稜線の最北端である。南にムールーヤ川英語版ウムエルビア川英語版を隔てて高アトラスがあり、北にセブー川英語版を隔ててリーフ山地がある。山脈の西にはモロッコの主要な海岸沿いの平野があって多くの主要都市があり、東にはサハラ砂漠とテルアトラス山脈の間にある不毛の高原がある。山脈の最高峰は、ジュベル・ブー・ナスール英語版(標高3340 m)である。中アトラスは、他の南の山脈よりも多くの雨が降り、沿岸平野にとって重要な集水域であり、生物多様性にとって重要である。この山脈には、世界のバーバリーマカクの大半が生息している。

 
アトラス山脈の積雪(2018年1月9日)

サハラアトラス山脈 編集

サハラアトラス山脈は全域がアルジェリア国内にあり、アトラス山脈の東部に位置する。アトラス山脈の主稜線ほどは高くない。山脈の最高峰はDjebel Aissa(標高2236 m)である。この山脈にはある程度の降雨量があり、北部の高原地域よりも農業に適している。

テルアトラス山脈 編集

 
高アトラスの典型的なベルベル人の村のパノラマ写真

テルアトラス山脈は、延長1500 kmを超える山脈で、アトラス山脈に属し、モロッコからアルジェリア、チュニジアまで地中海の海岸に沿って伸びている。アルジェリア国内では、ハウツ高原英語版をはさんで北のテルアトラス山脈と南のサハラアトラス山脈の2列になっている。東に向かって徐々に接近し、東アルジェリアで合流する。西端はモロッコ国内で中アトラスにつながっている。

オーレス山地 編集

 
オーレス山地

オーレス山地は、アトラス山脈の最も東の部分であり、アルジェリアチュニジアにまたがる。

動植物 編集

 
雄のバーバリライオン。1893年にアルフレッド・ピース (第2代準男爵)英語版がアルジェリアで撮影。[8]

この山脈の植物相には、アトラス杉英語版[9]ライブオーク英語版のほか、アルジェリアオーク英語版などの多くの半常緑のオークが含まれる。特にアトラス杉の全世界の個体数の75%が集まる中アトラス山脈の一部は2016年、ユネスコの「アトラス杉生物圏保護区」に指定された[10]

この地域に生息する動物には、バーバリーマカク[11]、バーバリーヒョウ[12]、バーバリーシカ、バーバリーシープ、アトラスマウンテンアナグマ、エドミガゼル英語版ホオアカトキアルジェリアゴジュウカラカワガラスアトラスクサリヘビ英語版サーバルヒメチョウゲンボウ[10]などがある。

アトラス山脈に生息していたアトラスグマ[13]キタアフリカゾウ英語版、キタアフリカオーロックスキタハーテビーストなど、多くの動物が絶滅している。バーバリライオン[8]は、野生では絶滅しているが、飼育されているバーバリライオンがいる。

脚注 編集

  1. ^ Atlas Mountains - Students | Britannica Kids | Homework Help” (英語). kids.britannica.com. 2017年7月7日閲覧。
  2. ^ “Atlas Mountains: Facts and Location | Study.com” (英語). Study.com. http://study.com/academy/lesson/atlas-mountains-facts-and-location.html 2017年7月7日閲覧。 
  3. ^ “世界の一風変わったスキーリゾート”. AFPBB News (フランス通信社). (2012年12月28日). https://www.afpbb.com/articles/-/2918260?pid=10035104 2012年12月29日閲覧。 
  4. ^ UAB.es[リンク切れ] Potential field modelling of the Atlas lithosphere
  5. ^ UAB.es[リンク切れ] Crustal structure under the central High Atlas Mountains (Morocco) from geological and gravity data, P. Ayarza, et al., 2005, Tectonophysics, 400, 67-84
  6. ^ Des Montagnes du Sarho aux dunes de Merzouga
  7. ^ フランス語: L'INGÉNIEUR CAVAGNAC, un nom bien connu des Anciens de Marrakech....
  8. ^ a b Pease, A. E. (1913). The Book of the Lion John Murray, London.
  9. ^ Gaussen, H. (1964). Genre Cedrus. Les Formes Actuelles. Trav. Lab. For. Toulouse T2 V1 11: 295-320
  10. ^ a b Atlas Cedar (Cèdre de l'Atlas) Biosphere Reserve, Morocco” (英語). UNESCO (2018年10月). 2023年1月25日閲覧。
  11. ^ Van Lavieren, E. (2012). The Barbary Macaque (Macaca sylvanus); A unique endangered primate species struggling to survive. Revista Eubacteria, (30): 1–4.
  12. ^ Emmanuel, John (September 1982). “A Survey of Population and Habitat of the Barbary Macaqu Macaca Sylvanus L. In North Morocco”. Biological Conservation 24 (1): 45–66. doi:10.1016/0006-3207(82)90046-5. 
  13. ^ Bryden, H. A. (ed.) (1899). Great and small game of Africa Rowland Ward Ltd., London. Pp. 544–608.

関連項目 編集