アレック・ワイルダーAlec Wilder,本名 Alexander Lafayette Chew Wilder, 1907年2月16日1980年12月24日)は、アメリカ合衆国作曲家クラシック音楽の作曲を行う一方、ポピュラー音楽の分野でも多くの歌曲を残した。

ニューヨーク州ロチェスターの富裕な名士の家に生まれるが、ティーンエイジャーの頃に家族と絶縁した。作曲はほぼ独学で、1920年代の一時期、地元のイーストマン音楽学校に通ったが中退した。なお後の1973年にイーストマン音楽学校から名誉学士号を得ている。生涯独身で、孤独を好み、長くニューヨークでのホテル住まいを送った。

11のオペラをはじめとしてクラシック音楽の作曲を行い、自ら八重奏団を結成した。作風はジャズの影響を強く受けている。

一方で1930年代後期からポピュラー音楽分野で頭角を現し、フランク・シナトラペギー・リートニー・ベネットら当代のポピュラー歌手たちと親交を結び、ポピュラー音楽の作曲家・編曲家として活躍した。特にシナトラとの親交は深く、1940年代、ワイルダーが自身のクラシック作品をレコード録音させてもらえず悩んでいた際、シナトラは人気スターとしての知名度で「自分が(名目上)ワイルダー作品の指揮をする」という企画を持ち上げて録音を実現させ、ワイルダーを助けたこともある。

ポピュラー歌曲では、ワイルダー以外と手を組んだことのない作詞家ウィリアム・エングヴィック(William Engvick)との作品が多いが、自ら作詞も手がけた。1940年代に手がけた曲は「I'll Be Around」「While We're Young」などジャズの分野でスタンダードとなった作品が少なくない。晩年にはサド・ジョーンズのインストゥルメンタル曲「ア・チャイルド・イズ・ボーン」の作詞も行っている。

また批評家としての著述も手がけており、1972年に発表した「American Popular Song: The Great Innovators, 1900–1950」は、20世紀前半におけるアメリカのポピュラー音楽作家の作品とその曲・詞について詳細に分析・批評した大著である。本書の著述に際しては、アメリカのポピュラー作曲界における巨匠アーヴィング・バーリンの作品に対しても容赦ない批評を下し、バーリン本人を激怒させた逸話も残している(このためバーリン作品の楽譜は収録できなかったという)。アヴァンギャルド(avant-garde 前衛)の逆で「デリエール・ギャルド」(derriere-garde 「後衛」の意か)と自ら評する保守的ポリシーの持ち主でもあった。

作品 編集

オペラ 編集

  • 低地の海(1952)
  • 日曜日の行楽(1953)
  • 長い道のり(1955)
  • 風車についての真実(1973)
  • タトゥー伯爵夫人(1974)
  • オープニング(1975)

ミュージカル 編集

  • ピノキオ(1957)
  • ヘンゼルとグレーテル(1958)

映画音楽 編集

声楽曲 編集

  • 子供たちの平和への祈り - 児童合唱とナレーションと吹奏楽のための(1968)

管弦楽曲 編集

  • テナーサックスと弦楽のための組曲第1番(1928)
  • 交響的小品(1929)
  • コールアングレと弦楽のためのアリア(1945)
  • フルートと室内オーケストラのためのアリア(1945)
  • オーボエと弦楽のためのアリア(1945)
  • クラリネットとオーケストラの組曲(1947)
  • チューバとオーケストラのための組曲第1番(1966)
  • テナーサックスと弦楽のための組曲第2番(1966)
  • トランペット協奏曲(1980)

室内楽曲 編集

  • ジャズ組曲(1951)
  • 木管五重奏曲第1番(1954)
  • ホルンとピアノのためのソナタ第1番(1954)
  • 木管五重奏曲第2番(1956)
  • 木管五重奏のための組曲(1956)
  • ホルンとピアノのためのソナタ第2番(1957)
  • フルートとボンゴ第1番(1958)
  • フルートとボンゴ第2番(1958)
  • 木管五重奏曲第3番(1958)
  • 金管五重奏曲第1番(1959)
  • 木管五重奏曲第4番(1959)
  • 木管五重奏曲第5番(1959)
  • チューバとピアノのためのソナタ第1番(1959)
  • 木管五重奏曲第6番(1960)
  • アルトサックスとピアノのためのソナタ(1960)
  • チューバとピアノのための組曲第1番(1960)
  • 金管五重奏曲第2番(1961)
  • クラリネットとピアノのためのソナタ(1963)
  • ホルン、チューバ、ピアノのための組曲第1番(1963)
  • 木管五重奏曲第7番(1964)
  • ヴィオラとピアノのためのソナタ(1965)
  • ホルンとピアノのためのソナタ第3番(1965)
  • 木管五重奏曲第8番(1966)
  • 木管五重奏曲第10番(1968)
  • コントラバスとピアノのための小組曲(1968)
  • ファゴットとピアノのためのソナタ第1番(1968)
  • ファゴットとピアノのためのソナタ第2番(1968)
  • 木管五重奏曲第9番(1969)
  • 金管五重奏曲第3番(1970)
  • 木管五重奏曲第11番(1971)
  • ホルン、チューバ、ピアノのための組曲第2番(1971)
  • 金管五重奏曲第4番(1973)
  • ファゴットとピアノのためのソナタ第3番(1973)
  • 金管五重奏曲第5番(1975)
  • 木管五重奏曲第12番(1975)
  • チューバとピアノのためのソナタ第2番(1975)
  • 金管五重奏曲第6番(1976)
  • 木管五重奏曲第13番(1977)

ポピュラー歌曲 編集

  • Moon And Sand(1941/作詞 William Engvick/Morty Palitz)
  • I'll Be Around(1942/自作詞)
  • While We're Young(1943/作詞 William Engvick)
  • Trouble Is a Man(1946/自作詞)
  • The Winter Of My Discontent(1954/作詞 Ben Ross Berenberg)
  • A Child Is Born(1975)サド・ジョーンズ(Thad Jones)の曲に作詞
  • Blackberry Winter(1976/作詞 Loonis McGlohon)
  • A Long Night(1980/作詞 Loonis McGlohon)

参考文献 編集

  • Wilder, Alec, American Popular Song: The Great Innovators, 1900–1950, ed. James T. Maher. (New York: Oxford Press, 1972; paperback ed., Oxford Press, 1975), xxxix, 536 pp.
  • Wilder, Alec, David Demsey editor, Letters I Never Mailed Annotated Edition (University of Rochester Press, 2006).
  • Stone, Desmond, Alec Wilder In Spite of Himself: A Life of the Composer (New York: Oxford University Press, 1996), 244 pp.
  • Demsey, David and Ronald Prather, Alec Wilder: A Bio-Bibliography (Greenwood Press, 1993) Bio-Bibliographies in Music, No. 45.
  • Zeltsman, Nancy, ed., Alec Wilder: An Introduction to the Man and His Music (Newton, MA: Margun Music, 1991).

外部リンク 編集