イヌイット群 (衛星)

土星の衛星のグループ

イヌイット群(いぬいっとぐん、Inuit group)とは、土星の外部衛星(現在の軌道長半径が1000万kmより大きいもの)のうち、軌道傾斜角が比較的大きく(現在45~47°)、軌道離心率が比較的小さな(現在e<0.48)順行軌道をとるグループである。

概要 編集

 
イヌイット群の衛星のアニメーション
       キビウク ·        イジラク ·        パーリアク ·        シャルナク ·       タルクェク

2018年現在、このグループに属する天体は7個発見されている[1][2]

これらのうち、シャルナクは推定直径が 40 km であり、イヌイット群の衛星の中では最大である[3]

イヌイット群の衛星の固有名は、国際天文学連合 (IAU) の命名委員会で、イヌイット(イヌイト)神話巨人怪人などから命名されている。このうち、イジラクとパーリアクは Michael Arvaarluk Kusugak が著したイヌイットに関する物語の登場人物の名前が由来となっている[4][5]

物理的特徴と起源 編集

 
土星の不規則衛星の軌道要素を示した図。横軸は軌道長半径、縦軸は軌道傾斜角である。黄色の線は近土点から遠土点までを表しており、軌道離心率の大きさに対応している。イヌイット群の衛星は図の上の方に固まっているのが分かる。

初期の観測では、イヌイット群の衛星はどれも一様に淡い赤色の表面を持ち、色指数では B-V=0.79、V-R=0.51 程度と、ガリア群と同程度だと考えられていた[6]。また赤外線でのスペクトルもどれも似ているとされた。しかし最近の観測では、イジラクはパーリアク、シャルナク、キビウクよりも明確に赤い色を示すことが明らかになった[7]。イジラクのスペクトルに見られる特徴は、土星の不規則衛星に見られるものよりは太陽系外縁天体に見られるものに類似している。さらに、パーリアク、シャルナク、キビウクのスペクトルは 0.7 µm 付近に水和物の存在を示唆する弱い吸収が見られるのに対し、イジラクではその特徴が見られないことも分かっている[7]

イジラクを除いたイヌイット群のスペクトルの一様性からは、これらの衛星は共通の起源を持ち、単一の天体が破壊された破片である可能性が示唆される[6][8][7]。しかし単一の天体起源だとすると現在の軌道要素はばらつきが大きいため、これを説明する何らかの機構が必要である。近年ではイヌイット群の衛星は永年共鳴を起こしているものがあると報告されており、これによって衝突破壊後の破片の軌道要素が現在の値まで進化した可能性がある[9]。また、キビウクとイジラクは古在共鳴の状態にあると考えられている。そのため軌道離心率が上昇する間は軌道傾斜角が減少する、あるいはその逆の変化を周期的に行っている[9]

出典 編集

  1. ^ Scott S. Sheppard. “Saturn Moons”. Carnegie Science. 2019年11月2日閲覧。
  2. ^ 観測成果 - すばる望遠鏡が土星の衛星を新たに 20 天体発見 - すばる望遠鏡”. すばる望遠鏡. 国立天文台 (2019年10月7日). 2019年11月2日閲覧。
  3. ^ Jet Propulsion Laboratory (2015年2月19日). “Planetary Satellite Physical Parameters”. Jet Propulsion Laboratory Solar System Dynamics. ジェット推進研究所. 2018年12月25日閲覧。
  4. ^ NASA (2017年12月5日). “In Depth | Ijiraq – Solar System Exploration: NASA Science”. アメリカ航空宇宙局. 2018年12月25日閲覧。
  5. ^ NASA (2017年12月5日). “In Depth | Paaliaq – Solar System Exploration: NASA Science”. アメリカ航空宇宙局. 2018年12月25日閲覧。
  6. ^ a b Gladman, Brett; Kavelaars, J. J.; Holman, Matthew; Nicholson, Philip D.; Burns, Joseph A.; Hergenrother, Carl W.; Petit, Jean-Marc; Marsden, Brian G. et al. (2001). “Discovery of 12 satellites of Saturn exhibiting orbital clustering”. Nature 412 (6843): 163–166. doi:10.1038/35084032. ISSN 0028-0836. 
  7. ^ a b c Grav, T; Bauer, J (2007). “A deeper look at the colors of the saturnian irregular satellites”. Icarus 191 (1): 267–285. arXiv:astro-ph/0611590. doi:10.1016/j.icarus.2007.04.020. ISSN 00191035. 
  8. ^ Grav, Tommy; Holman, Matthew J.; Gladman, Brett J.; Aksnes, Kaare (2003). “Photometric survey of the irregular satellites”. Icarus 166 (1): 33–45. arXiv:astro-ph/0301016. doi:10.1016/j.icarus.2003.07.005. ISSN 00191035. 
  9. ^ a b Ćuk, Matija; Burns, Joseph A. (2004). “On the Secular Behavior of Irregular Satellites”. The Astronomical Journal 128 (5): 2518–2541. arXiv:astro-ph/0408119. doi:10.1086/424937. ISSN 0004-6256. 

関連項目 編集