エレボン英語: elevon)またはテールロン英語: tailerons)は飛行機の操縦に用いる動翼の一つである[1]

エレボン

無尾翼機(水平尾翼を有しない航空機)において用いられる[1]補助翼: aileron)と昇降舵: elevator)の役割を兼ね備えたものであり、語自体も二つの語を組み合わせた造語である[1][2]

主翼後縁に取り付けられており、左右の動翼を同一の方向に動かすことでエレベーター(昇降舵)として、それぞれ逆の方向に動かすことでエルロン(補助翼)として機能する[1]。同時に両方(補助翼と昇降舵)の機能を使用する際は両方の方向を合成した位置に動かす[2]

エレボンの仕組み自体は、第二次世界大戦頃には既に知られており、ナチス・ドイツ全翼機ホルテン Ho229やアメリカのノースロップ N-1M英語版[3]の動翼に採用されていた。

応用例 編集

運用航空機 編集

 
展示された後期型RAFマーキングのバルカンB.2(1984年)

エレボンを採用した最初の実用航空機の1つは、イギリス空軍Vフォースによって運用された戦略爆撃機であるアブロ バルカンであった。バルカンB.1と呼ばれた当初の量産機は、エレボンが存在せず、代わりにデルタ翼に沿って4つのインボードエレベーターと4つのアウトボードエルロンの配列で飛行制御を行っていた[4]。その後、大幅な設計変更を行ったバルカンB.2でエレボンを採用し、すべてのエレベーターとエルロンを8本のエレボンに変更した[5]。 低速飛行時には、エレボンが6個の電動3姿勢エアブレーキと密接に連動して作動する[6]

エレボンを採用した別の初期の航空機は、アメリカ空軍が運用した迎撃機であるコンベアF-102デルタダガーである[7]。F-102の導入から数年後、コンベアは初期の超音速戦略爆撃機であるB-58 ハスラーにもエレボンを装備している[8]

従来型の無尾翼デルタ機では、主翼後縁にフラップを設けられず、離着陸時の機首上げ姿勢のため、エレボンを上げ舵にすると、揚力が減少することが短所となっていた[9]ミラージュ2000では、静的安定性緩和とフライ・バイ・ワイヤを導入し、エレボンを下げ舵にしても、機首上げが可能となり、運動性が向上した[9]。また、カナード(先尾翼)の設置もこの改善に有効であり、ミラージュミランやクフィールをはじめとした、カナード付きデルタ翼機では、失速特性の改善及び機首上げモーメントを向上がなされている[10]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c d 日本航空. “航空実用事典”. 2019年6月1日閲覧。
  2. ^ a b デルタダガーの開発と、そのシステム,松崎豊一,世界の傑作機 No81 コンベアF-102デルタダガー,文林堂,2000年,P18-33,ISBN 978-4893190789
  3. ^ Northrop N1M”. NATIONAL AIR AND SPACE MUSEUM. 2019年6月2日閲覧。
  4. ^ Pilot's Notes pt. 1, ch. 10, para. 1(a).
  5. ^ Aircrew Manual pt. 1, ch. 7, para. 7.
  6. ^ Aircrew Manual pt. 1, ch. 7, para 70.
  7. ^ Peacock, Lindsay (1986年). “Delta Dart: Last of the Century Fighters”. NASA. 2020年7月30日閲覧。 [リンク切れ]
  8. ^ Spearman, M Leroy (1984年6月). “Some aerodynamic discoveries and related NACA/NASA research programs following World War 2”. NASA. 2023年2月22日閲覧。
  9. ^ a b 世界の名機シリーズ ダッソーミラージュ2000,イカロス出版,2011年,P23,ISBN 978-4863203686
  10. ^ バイオグラフィー・オブ・ミラージュIII,浜田一穂,世界の傑作機 No70 ダッソー・ミラージュIII,文林堂,1998年,P18-29,ISBN 978-4893190673

参考文献 編集

  • 「ラジコン技術」No.635(電波実験社)2005年8月号 P.152〜P.159