オウギハクジラ属(扇歯鯨属、Mesoplodon)は、クジラ目ハクジラ亜目アカボウクジラ科に属するの一つ。属名Mesoplodonギリシア語のMeso(中央)-hopla(備える)-odon(歯)に由来する。また、和名の「オウギハ(扇歯)」は、の形状がに似ていることに由来する。野生での観測例が少なく、大型哺乳類としては最も不明な点が多い種類の一つである。

オウギハクジラ属
ヨーロッパオウギハクジラ切手
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
亜目 : ハクジラ亜目 Odontoceti
: アカボウクジラ科 Ziphiidae
亜科 : トックリクジラ亜科 Hyperoodontinae
: オウギハクジラ属 Mesoplodon
学名
Mesoplodon
Gervais1850
本文参照

分類 編集

オウギハクジラ属には14が属し、クジラ目の中では最も大きい属である。同じアカボウクジラ科のタイヘイヨウアカボウモドキ属トックリクジラ属に似ており、3属を合わせてトックリクジラ亜科 (Hyperoodontinae) とすることも多い。

1991年にはピグミーオウギハクジラ (Mesoplodon peruvianus) が、2002年にはペリンオウギハクジラ (Mesoplodon perrini) がそれぞれ新種として発見されており、今後も更に新種が発見されるだろうと考える海洋生物学者も多い。

オウギハクジラ属 Mesoplodon

タイヘイヨウアカボウモドキ (Indopacetus pacificus) をこのオウギハクジラ属に分類することもあるが、1960年代に生物学者ムーア (Joseph Curtis Moore) がタイヘイヨウアカボウモドキ属 (Indopacetus) として分類して以降はタイヘイヨウアカボウモドキ属に分類することが多い。

形態 編集

オウギハクジラ属の体長は3.5mから6mであり、ハクジラ亜目としては小型あるいは中型で、同じアカボウクジラ科トックリクジラツチクジラよりも小さい。 雌は雄と同程度の大きさか、あるいは雄よりも若干大きい。 雄の体表は大胆な配色であり、の生え方に特徴がある。 オウギハクジラ類の一部は下顎が大きなアーチ状になっており、中には公園滑り台の手すりのように上顎との噛み合わせの部分から外側にはみ出す種類もいる。 多くのオウギハクジラ類の歯は下顎に2本あるだけで、牙のような歯を持つ種類もいる。 ただしミナミオウギハクジラは例外であり、上顎に多数(17から22対)の非常に小さな歯を有する。

多くのオウギハクジラ類には多数の噛み傷が見られる事が多い。これはダルマザメによるものや、雄の場合は別の雄と争って傷を負ったケースもある。

背びれは比較的小さく、頭部から測って2/3から3/4くらいに位置する。 寿命、妊娠期間、授乳期間などは不明である。

生態 編集

多くのオウギハクジラ類は観察されることが非常に稀であるため、不明な点が多々ある。一部には、漂着した死骸のみが確認されており、生体での確認例はないといった種類もある。

観測例から推測すると、群を成して行動するのが一般的であり、雌雄に分別れた群れを形成している。また、海上での泳ぎは非常にゆったりとしており、はっきりした潮吹きをしない。尾部を水面上に持ち上げることも稀である。このため発見が難しい。

胃内容物などからの推測では食料はほぼイカのみであり、その生息域から推定するとおそらくは非常に深くまで潜水しているのではないかとされる。

生息数、保護 編集

生息数は不明である。直接には捕鯨の対象とはなっていないが、日本の調査捕鯨によって捕獲されることが時折ある。刺し網による混獲の被害も確認されているが、生息数への影響の有無は不明である。

参考文献 編集

  1. Encylopedia of Marine Mammals, Edited by William F. Perrin, Bernd Wursig and J. G. M. Thewissen, Academic Press, 2002.
  2. Randall R. Reeves, Brent S. Steward, Phillip J. Clapham, and James A. Owell, Sea Mammals of the World, A & C Black, London, 2002.