オガサワラオオコウモリ

オオコウモリ科の哺乳類の一種

オガサワラオオコウモリ (Pteropus pselaphon) は、哺乳綱翼手目オオコウモリ科オオコウモリ属に分類されるコウモリ。

オガサワラオオコウモリ
オガサワラオオコウモリ
オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphon
保全状況評価[1][2][3]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 翼手目 Chiroptera
: オオコウモリ科 Pteropodidae
: オオコウモリ属 Pteropus
: オガサワラオオコウモリ
P. pselaphon
学名
Pteropus pselaphon Layard, 1829[4][5]
和名
オガサワラオオコウモリ[4][5][6][7][8][9]
英名
Bonin flying fox[3][4][5]
Bonin fruit bat[3]

分布域

分布 編集

日本北硫黄島父島母島南硫黄島固有種[4]

2008年には聟島で本種と思われるコウモリ類の発見例・鳴き声の報告例があり、他の島から飛来してきたと考えられている[10]

形態 編集

頭胴長(体長)20 - 25センチメートル[5]。前腕長13 - 15センチメートル[4]体重380 - 440グラム[4]。下脛の背面が体毛で被われる[11]。全身は暗褐色で、背や腰・胸部・腹部に光沢のある灰白色の体毛が混じる[5]。南硫黄島の個体群は赤褐色みをおびた明色とする報告例があるが、幼獣は暗色なため昼間にも活動するため日照・あるいは栄養不足による後天的な影響だと考えられている[8]

吻はやや幅広い[11]。上顎の切歯はやや大型で、上顎前方の小臼歯がないかあっても痕跡的[11]

生態 編集

常緑広葉樹からなる自然林に生息する[4]夜行性で、昼間は樹上にぶら下がり休む[4][5]。一方で南硫黄島個体群は、昼間も活動するという報告例もある[7]。南硫黄島の個体群が昼間も活動する理由として、捕食者である猛禽類がいないことや食物が少ないため食物を探す時間を増やしている可能性がある[7]。冬季になると休む際に群れを形成するが、これは多数の個体が集まる事により暖を取るためだと考えられている[4]

食性は植物食で、ヤシ類などのガジュマルグアバ・シマグワ・タコノキバナナなどの果実などを食べる[9]。父島では食性の80 %以上を、外来種や栽培種が占める[6]。2007年に南硫黄島で行われた調査では、シマオオタニワタリAsplenium nidus・ナンバンカラムシBoehmeria nivea var. niveaの葉、タコノキの果実を食べた観察例がある[7]。2017年に南硫黄島で行われた調査では、ハチジョウススキMiscanthus condensatusの茎を食べた例も報告されている[8]。南硫黄島個体群では歯の摩耗度が強い個体が多くみられ、食物不足から未成熟な果実も食べていることが示唆されている[8]。シマオオタニワタリ・ナンバンカラムシ・ハチジョウススキといった草本を食べるのは、食物が不足しても通年自生し歯が摩耗しても食べられるためだと考えられている[8]

繁殖様式は胎生。1 - 3月に交尾を行う[5]。一方で周年繁殖する可能性も示唆されている[4]。南硫黄島では、6月に妊娠したメスの発見例がある[4]。初夏に1回に1頭の幼獣を産むとされる[5]

人間との関係 編集

バナナ・マンゴー・柑橘類などを食害したり、傷つける害獣とみなされている[4][6]

宅地開発による生息地の破壊、食用の狩猟、観光客による撹乱、農作物防護用の網に絡まるなどの理由により生息数が減少した[4]。近年は生息数に大きな変動はない[4]。1996 - 2002年に防護用ネットに少なくとも31頭が絡まり、そのうち3頭は死亡している[6]。父島では外来種や栽培種への依存性が高いため、防除対策が徹底した場合には飢餓に陥る可能性もある[6]。父島では1970年に絶滅したと考えられていたが、1986年に再発見された[3]硫黄島にも分布していたが、第二次世界大戦以降は発見例がない[4]1990年にオオコウモリ属単位で、ワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]。日本では1969年に、種として国の天然記念物に指定されている[4][5][9]2009年種の保存法により、国内希少野生動植物種に指定されている[12]。父島・母島の一部は、小笠原諸島鳥獣保護区に指定されている[4]。父島では1990年に約5頭が確認され、1995年に75頭が確認された[6]。父島での1998 - 2000年における生息数は130 - 150頭、2001 - 2002年における生息数は65 - 80頭と推定されている[6]。母島では最大3頭程度の確認例のみで、絶滅に近いと考えられている[4]。北硫黄島での2001年における生息数は、25 - 50頭と推定されている[3]。南硫黄島では2007年および2017年の調査から、生息数は約100頭と推定されている[8]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[4]

出典 編集

  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> [Accessed 21/01/2021]
  2. ^ a b UNEP (2021). Pteropus pselaphon. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 21/01/2021]
  3. ^ a b c d e Vincenot, C. 2017. Pteropus pselaphon. The IUCN Red List of Threatened Species 2017: e.T18752A22085351. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2017-2.RLTS.T18752A22085351.en. Downloaded on 21 January 2021.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 前田喜四雄 「オガサワラオオコウモリ」『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、38 - 39頁。
  5. ^ a b c d e f g h i 前田喜四雄 「オガサワラオオコウモリ」「日本産翼手目検索表」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修、東海大学出版会、2008年、29頁。
  6. ^ a b c d e f g 稲葉慎・高槻成紀・上田恵介・伊澤雅子・鈴木創・堀越和夫 「個体数が減少したオガサワラオオコウモリ保全のための緊急提言」『保全生態学研究』第7巻 1号、日本生態学会、2002年、51 - 61頁。
  7. ^ a b c d 鈴木創, 川上和人, 藤田卓 「オガサワラオオコウモリ生息状況調査」『小笠原研究』第33号、首都大学東京小笠原研究委員会、2008年、89 - 104頁。
  8. ^ a b c d e f 鈴木創、堀越和夫、堀越宙、飴田洋祐、村田悠介 「南硫黄島のオガサワラオオコウモリ」『小笠原研究』第44号、首都大学東京小笠原研究委員会、2018年、167 - 208頁。
  9. ^ a b c 吉行瑞子 「オガサワラオオコウモリ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、134頁。
  10. ^ 原田知子 「聟島におけるオガサワラオオコウモリ(Pteropus pselaphon)の初観察記録」『小笠原研究年報』第33号、首都大学東京小笠原研究委員会、2010年、95 - 96頁。
  11. ^ a b c 前田喜四雄 「日本産翼手目検索表」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修、東海大学出版会、2008年、159 - 162頁。
  12. ^ 国内希少野生動植物種一覧環境省・2021年1月21日に利用)

関連項目 編集