オーブン: oven, 英語発音: [ʌvən])は、熱した空気または壁面などから発する赤外線によって食品を加熱し、焼いて、または乾燥を行う閉じた空間の調理器具である。日本語では天火(てんぴ)と称する。オーブンの最も一般的な用途は調理陶芸であるが、調理用の大きなものや陶芸用を「」、(金属の)加熱や工業分野で使われるオーブンは「」や「工業用オーブン」という。近年は、世界中の数多くの家庭で調理および食品の加熱にオーブンが使われている。

『パンを焼く女』(ジャン=フランソワ・ミレー画、1854年)に描かれたオーブン。

歴史 編集

 
古代ギリシアの持ち運び式オーブン

インダス文明の集落では、紀元前3200年までに粘土煉瓦家屋のオーブンが最初に使われた[1][2]

料理歴史家によると、ギリシャ人パン焼きの調理技術を確立したと信じられている。正面から出し入れするパン焼きオーブンが古代ギリシアで初めて作られた。ギリシャ人はパンの様々な生地、形状、および他の食品と共に供する様式を作りあげた。パンが家庭外で職人により調理され販売されるようになると、商売職業としてのパン焼きが発展した。これは、最も古い食品加工の専門職の1つである。

ギリシャ人はまた、甘いパン、フリッタープディングチーズケーキペイストリー、およびウェディングケーキの先駆者でもある。これらの料理は象徴的な形で調理され、特別な行事儀式において供された。西暦300年までに、ギリシャ人は70種類以上のパンを発明した。

現代の調理用オーブン 編集

 
現代のイタリアなどの屋外設置式のオーブン。レンガモルタルなどで作られており、上部に煙突が付いている。
 
現代の本格的なピザ屋の厨房に設置されているオーブンの内側。オーブンの内側の隅で薪を燃やしオーブン内全体を数百度に保つという方式であるので、燃えている薪のすぐ右側にピザが見えている。ピザを直接置くことになるオーブンの底面には、火山の溶岩が冷えたものを切り出したものが用いられていることが多い。日々の過熱・冷却にも耐え、割れないからである。

広く調理という観点から概観すると、現代では一般的なオーブンというのは、「焼き料理と加熱に使用する調理器具」という位置づけがされていることが多い。オーブンを用いた調理としては例えば、肉料理キャセロールパンピザ、またケーキ・焼き菓子などの焼き料理がある。

ガス式、電気式の登場
 
現代の米国やヨーロッパの家庭に普及しているオーブン。調理台がシステム化されており、オーブンは焜炉の下に組み込まれている。熱源はガスや電気がもっとも普及している。前面が耐熱ガラス製で内側が見えるようになっているものが一般的。
 
現代風のオーブンの内側。内部は金属板で覆われている。
現代でも古代以来のを用いたオーブンも特定の分野で用いられ続けているが、現代ではむしろガス式または電気式のほうが広く世界中に普及している。焜炉に組み込まれるオーブンの場合、燃料は焜炉の火口と同じ場合と異なる場合がある。焜炉、グリル、オーブンが三段に組み込まれている機器などもある。
様々な調理法
オーブンでは様々な調理法を使用できる。最も一般的なものは下火からの加熱である。これはパン焼きおよびローストで用いる。グリルでは天火(てんぴ)で炙り焼ができる。より早くより均等に調理するため、コンベクション・オーブン(「ファン・オーブン」、「ターボ・オーブン」とも)では小さなファンで庫内の熱風を循環させる。ロティサリー(=回転焼き、 (Rotisserie)できるオーブンもある。焼き目・焦げ目をつけることに特化した天火は「サラマンダー」と呼ばれグラタンの調理などに用いられる。
 
ベルトコンベア式コンベクション・オーブン。下段に見える丸網にピザを載せて熱風で焼き上げる。

オーブンはまた、火力調節も様々である。複数の温度での燃焼を保つオーブンがある一方、最も簡易なオーブン(例えば、アーガクッカー)では火力調節が全くできない。より一般的なオーブンにはサーモスタットがあり、調整した温度に合わせて自動的にオーブンを点火消火させる。最も高い設定にすると、直火焼きの原理が可能となる。タイマー付きのものでは、調理時間を設定し、自動的にオーブンを点火・消火させることができる。高級なオーブンは、より複雑なコンピュータ制御による様々な調理法が可能であり、特別な部品の測定温度で、食品が希望する焼き加減になると自動的にオーブン調理を終了させる。

庫内の清掃洗浄を補助する機能を有するオーブンもある。「連続洗浄」オーブンは庫内表面を触媒で覆い、食品からのはね汚れ、垂れ汚れを常に分解(酸化)させる。「自動洗浄」オーブンは熱分解(高温加熱)で汚れを酸化させる。スチームオーブンは蒸気で汚れを浮かし、洗浄を容易にする。特別な方法がない場合、オーブン用合成洗剤を使うか旧来の擦り洗いをする。

一般に箱型で密閉できる形をしており、食品をのせた天パン(てんぱん=天火用Pan)を内部の棚にセットして、上下からの熱と内部にこもる食品からの水蒸気で蒸し焼きにする。そのため、食材を裏返さずとも、均一な加熱調理ができる。天パンを複数使うことで一度に大量の料理を作ることができるが、特に小さいオーブンでは、庫内の熱対流を妨げ無いよう、1枚のみとするのが望ましい。

グラタンローストビーフローストチキンなどの料理や、焼き菓子、パンケーキなどに広く用いられる。

今では見ることがなくなってきたが、コンロの上に直接載せて使うオーブン(レンジトップ・オーブン)もある。オーブンを設置することができなかった家に人気であったが、収納に場所を取ることや、ガスコンロの側に安全装置が付けられてレンジトップに非対応になって来ていること、オーブンレンジの普及により家庭からは姿を消しつつある。簡易なものがキャンプなどのアウトドアクッキングで用いられることがあり、構造が簡単なため燻製器と同様に自作するアウトドア愛好家も多い。

産業・工業・技工などでの使用 編集

調理以外にも、オーブンは様々な目的で使用されている。

  • はガラスや金属を溶かして加工するために作られ、使われる。高炉は金属製錬(特に製)で用いる特殊な炉であり、燃料として精製コークスなどの高温燃焼材を使用する。
  • は高温のオーブンであり、木材乾燥、セラミックスセメント製造に使用し、無機物(粘土、カルシウムやアルミニウム岩の形)を変成してガラス化でより固くさせる。セラミックス窯では陶器が作られ、セメント窯ではセメントの原料(砕く前の状態)のクリンカーを作る(食品製造、特に麦芽の乾燥焙煎に使われる乾燥オーブンもあり、窯と呼ばれる)。
  • オートクレーブ圧力鍋と同様の機能を持つオーブンに類似した装置で、水溶液を水の沸点より高い温度に上げてオートクレーブの中身を加熱殺菌する。
  • 工業用オーブンは調理用と類似しており、炉や窯での高温を必要としない様々な用途に使用できる。

脚注 編集

  1. ^ History of THE INDUS CIVILIZATION
  2. ^ Dales, George (1974), “Excavations at Balakot, Pakistan, 1973”, Journal of Field Archaeology 1 (1-2): 3–22 [10], doi:10.2307/529703 

関連項目 編集