カーリング精神

カーリング競技の基本理念

カーリング精神(カーリングせいしん、The Spirit of Curling)とは、カーリング競技の基本理念。また、これを述べた文章。すべてのルールやジャッジを支えるものとして、競技者の間で尊重されており、カーリング競技規則の冒頭に前文として掲載されている。

概要 編集

競技において、自らを律し、フェアに参加すべきことを述べたものである。原文は英語であり、競技各国によって自国語に訳されている。

原文 編集

Curling is a game of skill and of tradition. A shot well executed is a delight to see and it is also a fine thing to observe the time-honoured traditions of curling being applied in the true spirit of the game.

Curlers play to win, but never to humble their opponents. A true curler never attempts to distract opponents, nor to prevent them from playing their best, and would prefer to lose rather than to win unfairly.

Curlers never knowingly break a rule of the game, nor disrespect any of its traditions. Should they become aware that this has been done inadvertently, they will be the first to divulge the breach.

While the main object of the game of curling is to determine the relative skill of the players, the spirit of curling demands good sportsmanship, kindly feeling and honourable conduct. This spirit should influence both the interpretation and the application of the rules of the game and also the conduct of all participants on and off the ice.

日本語訳 編集

カーリングは、技量と伝統のスポーツである。うまくいったショットを見ることは喜びであり、カーリングの真の精神が実践されているこのゲームの由緒ある伝統を目にすることは同じく素晴らしいことである。

カーラーは勝つためにプレイするのであって、決して対戦相手を貶めるためにプレイするのではない。真のカーラーは、決して相手の気をかき乱そうとはせず、また相手が最善を尽くそうとすることを妨げようとせず、そして不当に勝つくらいならむしろ負けることを選ぶだろう。

カーラーは決して故意にこのゲームのルールを破らず、またその伝統のどのひとつをもを見下さない。万一、不注意にもそのようなことを為してしまったと気づいたならば、誰に言われるまでもなく、自ら違反を申し出るものである。

カーリングというゲームの主たる目的はプレイヤー間の相対的な技量を明らかにすることであるが、一方でカーリングの精神は、善きスポーツマンシップ、温情、そして高潔な振る舞いを求める。この精神は、ルールの解釈や適用のしかたに生かすべきであるのみならず、アイスの上にあるとなきとにかかわりなく、すべての参加者の行動の指針となるべきものである。

解説 編集

ここに述べられている理念の背景として、カーリングがイギリス(スコットランド)発祥のスポーツの例に漏れず、プレイヤーを審判の監視でがんじがらめにするよりも、その自発的・自律的なフェアプレーにゆだねること(セルフジャッジ)を美徳とする競技であるということが挙げられる。

最後のよりどころとしてルールは存在するが、その解釈や適用は第一義的にはプレイヤーにゆだねられる。プレイヤー間の意見が食い違い、紛争が生じて初めて審判が介入するのがカーリング競技の基本的なありかたである。このような考え方、あるいは美意識は、文中ではtradition(伝統、しきたり、掟)として言及される。したがってtraditionにあたる部分は、「昔から受け継がれてきた美徳」「美しき伝統」などと読みかえることも可能である。ただし、明文化されたruleと、暗黙のうちに共有されるべきtraditionを対置している面にも注意を要する。

またタイトルなどにみられる語spiritは、日本語では「精神」と訳されることが多いが、「すべての源泉となる抽象的本質」といった含意をもち、その点類似の言葉soul(魂、生命力)やmind(思考)、heart(心、感情)と異なる。この意味において、文中にある「精神」の語は「理念」「心がまえ」などに置き換えて読んだ方が理解しやすい面もある。しかし日本の競技者の間で「精神」という訳語が定着しているので、本項ではこの語を用いた。

関連項目 編集