キマイラ

ギリシア神話の怪物

キマイラ古希: Χίμαιρα, Chimaira) は、ギリシア神話に登場する怪物である。

キマイラ

概要 編集

ラテン語ではキマエラ(Chimæra, Chimaera)、ヨーロッパのいくつかの言語ではキメラ(Chimera)といい、英語ではキメラ、キメイラ、またはカイメラ(Chimera)、フランス語ではシメール(Chimère)という。名前の意味は「牝山羊」である[1]

テューポーンエキドナの娘。ライオンの頭と山羊の胴体、(または竜[2])の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く[3]。山羊の頭を持つ女性の姿で表されることもあり、『イーリアス』では前半身がライオンで中程が山羊、後部が大蛇となっている[4]。また、後代の絵画や彫刻では蛇の尾を持ち、胴から山羊の頭が飛び出したライオンの姿で表された[4]リュキアに住み、カーリアアミソーダロスに育てられたが、ペーガソスに乗る英雄ベレロポーンにより背中に矢を射られて退治された(の塊を口に放り込まれ、火炎の熱で溶けた鉛で殺されたとする説も)。

父親のテューポーンが嵐の精であった様にキマイラも嵐の雲の化身と考えられた[2]

この怪物は生物学におけるキメラの語源となった。

 
ギュスターヴ・モローの絵画『キマイラ』。1867年。フォッグ美術館所蔵。

中世のキリスト教寓意譚では、主に「淫欲」や「悪魔」といった意味付けを持って描かれた。12世紀の詩人マルボート英語版によれば、様々な生物の要素を併せ持つ事から女性を表すとされている。この他、ライオンの部分を「恋愛における相手への強い衝動」、山羊の部分を「速やかな恋の成就」、蛇の部分を「失望や悔恨」をそれぞれ表すとされたり、その奇妙な姿から「理解できない夢」の象徴とされた。一般には、怪物の総称や妄想、空想を表わす普通名詞ともなっている[5]

また、フランスの画家ギュスターヴ・モローはしばしばこの名をタイトルとしながらも、翼を持ったケンタウロスの美青年など、独自の設定を課した怪物を描く作品を手がけている。

広義のキマイラ(キメラ) 編集

上述のように、怪物キマイラは生物学の「キメラ」の語源となっている。ここでは、「異質なものの合成」という意味から「キメラ細胞」「キメラ生物」などの用語がつくられた。フランケンシュタインをして「キメラ合成生物」などと表現することもある。

出典 編集

  1. ^ ホメーロス著、呉茂一訳『イーリアス 下』平凡社2003年、541頁。
  2. ^ a b フェリックス・ギラン『ギリシア神話』青土社1991年、新装版、182頁。
  3. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店1960年、106頁。
  4. ^ a b 呉茂一『ギリシア神話』新潮社、1994年、415頁。
  5. ^ 研究社『新英和中辞典』第4版

関連項目 編集