『キートンの大列車追跡(キートンのだいれっしゃついせき、英 : The General)』は、1926年にユナイテッド・アーティスツから公開された長編映画である。別邦題に『キートン将軍』『キートンの大列車強盗』がある[1]

キートンの大列車追跡
The General
監督 バスター・キートンクライド・ブルックマン
脚本 アル・ボースバーグチャールズ・スミス
製作 ジョセフ・M・シェンク
撮影 デヴラクス・ジェニングスバート・ヘインズ
配給 ユナイテッド・アーティスツ
公開 1926年12月31日
上映時間 107分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 サイレント映画
英語字幕
製作費 $750,000
興行収入 $500,000
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南北戦争中に起こった事件「グレイト・ロコモーティヴ・チェイス(アンドリュース攻撃)」を元にした、ウィリアム・ピッテンガー英語版の小説を原作とした映画で、監督はクライド・ブルックマン英語版バスター・キートンである。

当時は批評家や観客からはあまり高い評価をされず興行的にも不振であり[2]、キートンがメトロ・ゴールドウィン・メイヤーと契約するきっかけになったが、後に再評価され、アメリカの映画の中でも偉大な作品とされている(「評価」参照)。

また後年、カール・デイヴィス久石譲などが音楽を担当したバージョンがリリースされている[3][4]

あらすじ 編集

時は1861年。ウェスタン&アトランティック鉄道に勤務する機関士、ジョニー・グレイは、人生の中で愛するものが二つあった。自分の運転する蒸気機関車「将軍号」と、彼のガールフレンドであるアナベル・リーだ。彼はマリエッタ駅に着くと、すぐにアナベルの家に向かう。ジョニーがアナベルの家にいると、アナベルの兄が家に帰って来て、南北戦争の開戦のニュースを告げる。アナベルの兄と父が直ちに軍への入隊を志願したため、ジョニーもアナベルの手前志願するが、受付は機関士として貢献してもらった方が良いとの判断でジョニーの入隊を拒否する。ジョニーには理由を告げられなかったため、事情を知らないアナベルの兄と父から侮蔑され、アナベルからも交際を拒絶されてしまう。

1年後、チャタヌーガのすぐ北に陣を張っていた北軍のサッチャー将軍とアンダーソン大尉は、南部に潜入してビッグシャンティで列車を奪い北進、途中で橋を破壊して南軍の補給を経ちながら帰還する計画を立てる。作戦実行の日、ジョニーはアナベルの乗った「将軍号」を運転していた。ビッグシャンティで停車していた「将軍号」は潜入した北軍兵たちに奪われ、偶然「将軍号」に乗っていたアナベルは北軍兵たちに拉致されてしまう。ジョニーは、アナベルが拉致されたことは知らないまま「将軍号」を追跡する。ビッグシャンティからの緊急連絡の電信は北軍兵に断線されて通信不能になる。途中のキングストンでジョニーは駐屯中の南軍に通報、兵たちを乗せた列車を運転して追跡しようとする。しかし機関車が兵たちを載せた車両と連結されておらず、兵たちは置き去りでジョニーはそれにも気づかず、一路「将軍号」を追う。「将軍号」に乗る北軍兵も追跡に気づき、両者の攻防が始まる。

キャスト 編集

  • ジョニー・グレイ…バスター・キートン
  • アナベル・リー…マリオン・マック
  • アンダーソン大尉…グレン・キャベンダー
  • サッチャー将軍…ジム・ファーリー
  • 南軍の将軍…フレデリック・ブルーム
  • アナベルの父…チャールズ・スミス
  • アナベルの兄…フランク・バーンズ
  • 北軍の将軍…ジョー・キートン、マイク・ドンリン、トム・ナウン

製作 編集

キートンは撮影にあたって、上記の「アンドリュース攻撃」の際に北軍に奪取された蒸気機関車で、映画製作当時はテネシー州チャタヌーガの鉄道駅に保存され展示されていた本物の「将軍号英語版[5]を動かして使いたいと考えたが、所有者に拒否された。また南北戦争時代のジョージア州を表現するには南部のロケ地が大きく変化していたため、より適切な場所としてオレゴン州ウィラメットバレーの小さな町コテージグローブ英語版が選ばれた。2台の機関車、鉄道車両、大砲、1,000着以上の衣装、その他の機材を運び、1926年の夏にクルーと共に滞在した。地元住民がエキストラとして採用され、オレゴン州の500人の州兵が戦闘シーンのために南軍の灰色または北軍の青色の服を着用して参加した[6]

評価 編集

1967年カナダオタワの映画保存協会が世界40か国の批評家のアンケートにより選出した「映画史上のコメディ・ベスト10」では第2位に選ばれた[7]。また、1989年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。

オーソン・ウェルズは本作を「史上最高のコメディ、史上最高の南北戦争映画、そしておそらく史上最高の映画」と評した[8]

ランキング 編集

関連項目 編集

  • 機関車大追跡』 - 同じく「グレイト・ロコモーティヴ・チェイス」を題材としたディズニー映画。
  • マルクスの二挺拳銃』 - マルクス兄弟主演の映画でキートンが脚本に参加している。クライマックスは疾走する蒸気機関車を使ったギャグシーンになっており、『キートンの大列車追跡』を踏襲していることが指摘されている[21]

脚注 編集

  1. ^ allcinema『映画 キートンの大列車追跡 (1926)について 映画データベース - allcinemahttps://www.allcinema.net/cinema/51272023年7月7日閲覧 
  2. ^ Not!, Ripley's Believe It or. “Off The Rails: When Buster Keaton Pulled Off Silent Film’s Most Expensive Stunt” (英語). Lethbridge News Now. 2023年10月15日閲覧。 “The entire production had an initial budget of $400,000 ($5.7 million today) but wound up costing a total of $750,000 to make, and it lost money at the box office by generating just $500,000, according to Offbeat Oregon.”
  3. ^ The General | Faber Music” (英語). www.fabermusic.com. 2023年10月16日閲覧。
  4. ^ 久石譲 meets “THE GENERAL” キートンの大列車追跡<80周年記念リマスター・ヴァージョン>”. 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア. 2023年10月16日閲覧。
  5. ^ The General, Union Station, Chattanooga, Tenn.”. Library of Congress, Washington, D.C. 20540 USA. 2024年1月19日閲覧。
  6. ^ Sean Axmaker. “The General”. silentfilm.org. 2019 San Francisco Silent Film Festival Privacy Terms. 2024年1月19日閲覧。 “Keaton wanted to shoot the film on location in Georgia putting into action the original engine, which was preserved and on display at a railroad station in Chattanooga, Tennessee. The owners (understandably) refused permission. Keaton also discovered that the Southern locations had changed too much to represent Civil War-era Georgia, so set designer Fred Gabourie found the perfect stand-in: Cottage Grove, Oregon, a small town in Willamette Valley with railroad tracks left over from the lumber boom. Keaton hauled two vintage engines, remodeled railroad cars, Civil War artillery, more than one thousand costumes, and all the equipment needed to shoot a film and settled in Cottage Grove with his crew to shoot over the summer of 1926. Locals were recruited as extras and 500 members from the Oregon National Guard were outfitted in Confederate gray or Union blue for the battle scenes.”
  7. ^ 小林信彦「第四部 幼年期の終り;第二章 フリドニア讃歌 『我輩はカモである』作品分析」『世界の喜劇人』新潮社〈新潮文庫〉、1983年11月(原著1973年)。ISBN 978-4-1011-5806-8 
  8. ^ The General” (英語). Independent Cinema Office. 2023年7月7日閲覧。
  9. ^ 小林信彦「第四部 幼年期の終り 第二章 フリドニア讃歌」『世界の喜劇人』新潮社、2016年3月18日。 
  10. ^ The Greatest Films of All Time… in 1962” (英語). BFI. 2023年7月7日閲覧。
  11. ^ The Greatest Films of All Time… in 1972” (英語). BFI. 2023年7月7日閲覧。
  12. ^ The Greatest Films of All Time… in 1982” (英語). BFI. 2023年7月7日閲覧。
  13. ^ Directors’ top 100”. bfi.org.uk. BFI. 2023年1月5日閲覧。
  14. ^ 10年おきに英国で発表される史上最高の映画TOP100!女性監督作が初の1位!日本からは小津、黒澤、溝口のほか宮崎駿作品がアニメーションで唯一の2作品選出に。100作品紹介! - シネフィル - 映画とカルチャーWebマガジン”. cinefil.tokyo. 2023年7月7日閲覧。
  15. ^ 100 Best Films - Village Voice”. www.filmsite.org. 2023年7月7日閲覧。
  16. ^ Cahiers du cinéma’s 100 Greatest Films” (英語). The Pendragon Society. 2022年12月23日閲覧。
  17. ^ The 100 greatest comedies of all time” (英語). www.bbc.com. 2022年12月18日閲覧。
  18. ^ Burgin, Michael; Paste Movies Staff (2018年5月22日). “The 100 Best Comedies of All Time” (英語). pastemagazine.com. 2022年12月24日閲覧。
  19. ^ Kryza, Andy; Huddleston, Tom; de Semlyen, Phil; Singer, Matthew (2022年9月13日). “The 100 funniest comedies of all time” (英語). Time Out Worldwide. https://www.timeout.com/film/100-best-comedy-movies 2022年12月24日閲覧。 
  20. ^ Nicholson, Peter Debruge,Owen Gleiberman,Lisa Kennedy,Jessica Kiang,Tomris Laffly,Guy Lodge,Amy (2022年12月21日). “The 100 Greatest Movies of All Time” (英語). Variety. 2024年1月11日閲覧。
  21. ^ ポール・D.ジンマーマン 著、中原弓彦,永井淳 訳「マルクスの二挺拳銃」『マルクス兄弟のおかしな世界』晶文社、1972年。 

外部リンク 編集