クロナッツ(Cronut)は、アメリカ合衆国ニューヨークのドミニク・アンセル・ベーカリー(Dominique Ansel Bakery)が販売している、パティシエのドミニク・アンセル(Dominique Ansel)の発案によるクロワッサンドーナツを融合させたペイストリーである[1][2][3]

ドミニク・アンセル・ベーカリーのクロナッツ
断面

このペイストリーは、クロワッサン風の生地をグレープシードオイルで揚げたあと、砂糖をまぶし、中にクリームを詰め、アイシングを施す[4]。この名称はアメリカにおいてはドミニク・アンセル・ベーカリーの登録商標である[5][6]。クリームとアイシングのフレーバーは毎月変わり、固定客を飽きさせないようになっている。2014年にアンセルによるレシピが公開された[7]

ボストン・グローブ』紙はクロナッツを「食のかばん語」と表現した[8]。2013年12月、『タイム』誌は「2013年の新製品ベスト25」の一つにアンセルのペイストリーを認定した[9]

慈善キャンペーン 編集

2013年7月、ドミニク・アンセル・ベーカリーは、クロナッツ製品をニューヨーク市のフードバンクへの寄付につなげる一連の慈善キャンペーンを実施した[10]。この「クロナッツプロジェクト」キャンペーンは、ドミニク・アンセルと広告代理店バートル・ボグル・ヘガティ英語版の3人のインターンが発起人となり、6日間でわずか12個のクロナッツから6000ドル以上の寄付をニューヨーク市のフードバンクにもたらした[11]

2013年9月、ドミニク・アンセル・ベーカリーは、ハンバーガーアイスクリーム店のシェイク・シャックと提携して、クロナッツの残り生地で作った「クロナッツ・ホール」をトッピングしたブラウンバター・カラメル味のフローズンカスタード英語版、「クロナッツ・ホール・コンクリート」を販売した[12]。限定1000個の特製フローズンカスタードを求めて午前4時から数百人の人々が行列を作った。収益はすべてNYPD未亡人・子ども基金とマディソン・スクエアパーク管理委員会に寄付され、その額は5300ドル以上にのぼった[13][14]

2013年10月、シティ・ハーベスト(ニューヨーク市の食糧救援組織)に寄付するため、ドミニク・アンセルとオークショニアを務めるニコラス・ローリー(Nicholas Lowry)およびクエストラブ(Questloveザ・ルーツドラマー)は、公開オークションにおいて1ダースの焼きたてクロナッツを競売にかけ、20分以内に14000ドルを集めた[15][16]

国外への進出 編集

2014年9月17日、ドミニク・アンセルベーカリーは海外最初の店舗として、2015年春に東京の表参道周辺に出店する予定であることを発表した[17][18]

2015年4月、6月20日に表参道に開店する予定であることが発表された[19][20][21]。6月20日、予定通りオープンし、開店前には徹夜組も含めて350人が行列を作り、ドミニク・アンセル自身も店頭で来店客を歓迎した[22]。日本店は、TSIホールディングスとトランジットジェネラルオフィスの共同出資会社が運営しており、2015年の時点で、今後日本国内に「10店程度の展開を計画している」と記されていた[23]2017年3月29日に、三越銀座店内にドミニク・アンセルの日本における2つ目の店舗が開業した[24]。三越銀座店は、ドミニク・アンセルが初めて日本に来た際に最初に訪れた場所だったという[25]。しかし、運営企業の業績低迷を理由に2018年6月に銀座三越店、2019年2月に表参道店をそれぞれ閉店して日本から撤退し、運営企業自体も2021年3月24日付で東京地方裁判所から破産開始決定を受けた[26]

2016年9月には、ロンドンベルグレイヴィアヴィクトリア英語版の間にヨーロッパ初となる店舗が開店した[27]

類似の菓子 編集

マサチューセッツ州ウースターにあるスイートキッチン&バーのシェフ、アリーナ・アイゼンハワーは、クロワッサン生地を揚げたのは自分が最初であると主張しており、「ドサンツ」(dosants)として2006年から提供していたという。また、オハイオ州コロンバスのパン職人ロイ・オーディーノは、1991年から「ドーサンツ」(doughssants)を作っていたと述べている[28]

クロナッツの類似品がピッツバーグ[29]セントルイス[30]ロサンゼルス[31]ジャクソンビル[32]ミネアポリス[33]ニュージーランドオークランド[34]オーストラリア[35][36]、さらには中国にも出現している。サウスカロライナ州チャールストンで見られるよく似たペイストリーは、"Cronut"のかわりに"Kronut"という名称(これは販売しているベーカリーの名前が"Kaminsky's"であることに由来するとみられる)を使っている[33]。コロンバスのオーディーノは1990年代から使っているという「ドースサント(doughssant)」を商標とした[37]カナダバンクーバーにあるベーカリーはフリッサント(frissant)として知られたもののバリエーションだと紹介している[38]。クロワッサンとドーナツを組み合わせたものは、フィリピンでも紹介されていた[39]。クロワッサンとドーナツの組み合わせは、クチュールクロワッサン(1900年代)、バーガーキングが商標登録している「クロワッサンウィッチ」(Croissan’Wich1983年)、プレッツェルクロワッサン(1997年)、クロッククロワッサン(2011年)やヤム!バン(Yummm! Bun、2013年)に続く新たなクロワッサンのバリエーションである[40]。カナダのモントリオールのベーカリーは、中に甘いカスタードクリームを詰めた類似の揚げ菓子をクロネットと名付けている[41]

スイスの小売業者であるミグロスは2013年8月にクロナッツの販売を開始した。アンセルは以前にスイスの商標として「クロナッツ」を登録すると表明していた[42]。2013年10月、ミグロスはドミニク・アンセル・ベーカリーが商標を登録したため、「クロナッツ」の名称を今後使用しないと発表し、商品を「ビッグ・オー」(Big O)に改名した[43]

日本においても、大ヒットを記録した山崎製パン「ドーワッツ」を筆頭に、類似商品が販売されている[44]。日本では2015年3月時点では「クロナッツ」の商標が2社(うち1社はサンマルク)から特許庁に出願がなされていたが[45]、2015年6月現在では出願情報に掲載されていない[46]。なお、ドミニク・アンセルからは国際登録として、英語名の"Cronut"が2014年10月24日付で商標登録されている[45]。日本店のウェブサイトでは「『Cronut®/クロナッツ』のブランドと商品は、日本と海外の両方でドミニクアンセルベーカリーが商標登録しています」と記されている[47]

事件 編集

独占生産の限定品であることから、ドミニク・アンセルによるクロナッツは、闇市場で転売屋により1個100ドルもの値を付けて売られる状態を引き起こしている。店頭での価格は1個5ドルである[48]

2013年にカナダ国立展示場(Canadian National Exhibition)のトロント会場食堂に出店していたエピック・バーガー・アンド・ワッフルズが販売した「クロナッツバーガー」に混入した黄色ブドウ球菌が200人以上に食中毒をもたらした[49]。クロナッツバーガーのトッピングに使われた、トロントのベーカリー「ル・ドルチ」製のメープルベーコンジャムから病原菌の毒素が検出されて明らかになったものである[50]。ドミニク・アンセル・ベーカリーは、食中毒の原因となったクロナッツとは無関係である。

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ http://www.grubstreet.com/2013/05/dominique-ansel-cronut.html Introducing the Cronut, a Doughnut-Croissant Hybrid That May Very Well Change Your Life - Grub Street New York
  2. ^ http://abcnews.go.com/blogs/lifestyle/2013/05/meet-the-cronut-croissant-donut-hybrid-takes-pastry-world-by-storm/
  3. ^ NYで「クロナッツ」大流行-クロワッサンとドーナツ合わせた新スイーツ - ニューヨーク経済新聞2013年6月4日
  4. ^ http://dominiqueansel.com/cronut-101/
  5. ^ http://www.cnbc.com/id/100798325
  6. ^ USPTO. “Cronut”. 2014年1月30日閲覧。
  7. ^ Dominique Ansel's At-Home Cronut
  8. ^ Why we love ‘cronuts’; The devilish pull of the food portmanteau By Ben Zimmer June 09, 2013
  9. ^ [1]
  10. ^ Want A Cronut? Donate To A Food Bank | Fast Company | Business + Innovation
  11. ^ "The Cronut Project". Retrieved October 22, 2013.
  12. ^ NYの人気バーガー店が1日限定「クロナッツアイス」-残り生地トッピングに - ニューヨーク経済新聞2013年9月11日
  13. ^ http://www.nydailynews.com/life-style/eats/cronut-craze-hits-shake-shack-custard-cinnamon-sugar-hole-mix-article-1.1459120
  14. ^ “Hundreds line up at Shake Shack for Cronut Hole Concrete, mix of frozen custard and cinnamon-sugar cronut holes”. New York: NY Daily News. (2013年9月17日). http://www.nydailynews.com/life-style/eats/cronut-craze-hits-shake-shack-custard-cinnamon-sugar-hole-mix-article-1.1459120 2014年4月19日閲覧。 
  15. ^ http://www.grubstreet.com/2013/10/cronut-city-harvest.html
  16. ^ http://gothamist.com/2013/10/23/dozen_cronuts_sold_for_14000_to_ben.php
  17. ^ 元祖「クロナッツ」いよいよ日本上陸へ 2015年春、表参道に誕生 - 東京バーゲンマニア2014年9月17日
  18. ^ ペイストリーショップ「DOMINIQUE ANSEL BAKERY」 日本進出における新会社設立および新事業展開のお知らせ - トランジットジェネラルオフィス(2014年9月17日)
  19. ^ 「ドミニクアンセルベーカリー」日本1号店、オープンは6月20日 - AFP BBニュース(2015年4月20日)
  20. ^ 2015年6月20日(土)、NY発のペイストリーショップ「ドミニクアンセルベーカリー」が日本1号店をオープン! - VOGUE Japanニュース(2015年4月27日)
  21. ^ ドミニクアンセルジャパン
  22. ^ 元祖クロナッツ上陸に大行列 徹夜組含め350人並ぶ - 福井新聞(オリコンスタイル)2015年6月20日
  23. ^ 中小企業動向調査会(編)『業種別業界情報 2016年版』経営情報出版社、2015年、p.388(「フレッシュベーカリー」の箇所)
  24. ^ ドミニクアンセルベーカリージャパンの2号店が銀座三越にオープン - ドミニク・アンセルベーカリージャパン(2017年3月27日)
  25. ^ “NYの行列店「ドミニクアンセルベーカリー」日本2号店は銀座三越に3月オープン”. Fashionsnap.comニュース. (2017年1月27日). https://www.fashionsnap.com/article/2017-01-27/dab-ginza/ 2018年2月17日閲覧。 
  26. ^ “NY発「ドミニクアンセルベーカリー」日本撤退、運営会社が破産”. FASHIONSNAP.com. (2021年3月31日). https://www.fashionsnap.com/article/2021-03-31/dominique-ansel-bakery/ 2021年6月27日閲覧。 
  27. ^ First Look: Dominique Ansel's London Bakery
  28. ^ http://www.dispatch.com/content/stories/business/2013/08/27/battle-for-pastry.html
  29. ^ http://pittsburgh.cbslocal.com/2013/07/08/local-bakeries-joining-the-cronut-craze/
  30. ^ http://stlouis.cbslocal.com/2013/07/08/the-cronut-er-thats-the-doughsant-has-arrived-in-st-louis/
  31. ^ Tenny Tatusian Cronut in LA: Semi Sweet Bakery to introduce the Crullant Los Angeles Times-Jun 27, 2013
  32. ^ 'Cronut' craze has made it to Jacksonville June 28, 2013 FCN
  33. ^ a b A homemade version of the Cronut Minneapolis Star Tribune-Jun 26, 2013
  34. ^ http://www.stuff.co.nz/stuff-nation/assignments/share-your-news-and-views/9185187/Cronuts-just-latest-fad
  35. ^ http://www.smh.com.au/good-food/food-news/from-cronut-to-zonut-pastry-fever-comes-to-sydney-20130614-2o8hd.html
  36. ^ http://eater.com/archives/2013/06/12/11-more-shameless-cronut-knockoffs-from-around-the-world.php
  37. ^ Katie Little Cronut Mania Spawns Imitators and a Trademark Rush 7 June 2013 CNBC
  38. ^ Cronut In Canada: Fever Hits Vancouver As 'Frissant' Unveiled The Huffington Post B.C. By Fiona Morrow
  39. ^ Another PH 'cronut' contender surfaces”. ABS-CBN News (2013年6月18日). 2013年7月1日閲覧。
  40. ^ From Croissant to Cronut June 11, 2013 New York Times
  41. ^ Cronut in Montreal ? The Cronetto
  42. ^ “Streit um Cronut-Kopie der Migros”. Berner Zeitung. (2013年9月1日). http://www.bernerzeitung.ch/wirtschaft/unternehmen-und-konjunktur/Streit-um-CronutKopie-der-Migros/story/13385900 2013年9月1日閲覧。 
  43. ^ http://www.persoenlich.com/news/marketing/migros-new-yorker-cronut-baecker-zwingt-grossverteiler-die-knie-310357#.UmP_EBBmHHg
  44. ^ ウワサの日本版“クロナツ”を入手! バンデロール「NY・クロワッサンドーナツ」実食レビュー - えん食べ
  45. ^ a b 特許情報プラットフォーム (特許庁)で、2015年3月28日に「商標を探す」から検索語「クロナッツ」を検索した結果。
  46. ^ 同上の検索条件で2015年6月20日に検索した結果。
  47. ^ クロナッツについて - ドミニク・アンセル・ベーカリージャパン
  48. ^ http://www.npr.org/2013/07/13/201807306/crazy-for-cronuts-picking-apart-the-tasty-trend
  49. ^ http://www.cbc.ca/news/canada/toronto/story/2013/08/21/toronto-canadian-national-exhibition-ill.html
  50. ^ http://news.nationalpost.com/2013/08/27/maple-bacon-jam-source-of-cronut-burger-illness-outbreak-at-cne-toronto-public-health/

関連項目 編集

外部リンク 編集