コヨリムシ目

鋏角類の節足動物の分類群

コヨリムシ目Palpigradi)は、鋏角亜門クモガタ綱に所属する節足動物の分類群の1つ、コヨリムシ(コヨリムシ類)と総称される微小な土壌生物である。

コヨリムシ目
生息年代: Cenomanian–現世
洞穴中のEukoenenia spelaea
(スケールバー:1mm)
地質時代
白亜紀(セノマニアン) - 現世
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱 Arachnida
: コヨリムシ目 Palpigradi
学名
Palpigradi
Thorell, 1900
英名
microwhip scorpion
palpigrade
  • Eukoeneniidae
  • Prokoeneniidae

同じくクモガタ類であるサソリモドキに似通う外見をもち、英名も「microwhip scorpion」(微小なサソリモドキ/ムチサソリ)と呼ばれていたが、サソリモドキとは系統的に近縁ではない[1]

形態 編集

 
コヨリムシの構造
A:前体、腹面(a-d:前体の腹板
B:全身、背面
D:鋏角(先端2節)
a-c(下):背板peltidium
I:鋏角
II:触肢
III-VI:歩脚

ごく小型の動物であり、最大の種でも3mmを越えない。体は細長く、鞭のような細長い尾節を持つ点ではサソリモドキに似ているが、他の特徴は大きく異なる。

前体(prosoma、頭胸部)は先節と第1-6体節を含んでおり[2]はない。背面の背甲は3枚の「peltidium」という外骨格に細分されており、前端から第2脚まで(第1-4体節)を覆う「propeltidium」と、第3・4脚に当たる第5・6体節のそれぞれの背面で「mesopeltidium」と「metapeltidium」がある[2]。腹面では4枚の腹板があり、それぞれ口器から第1、2、3、4脚の間に配置される。クモガタ類の中では、前体の体節が全て癒合して区別がつかないのが普通で、このように前体が部分的に分節したクモガタ類は、本群の他にヤイトムシヒヨケムシなどしかない[2]

他のクモガタ類と同様、前体には鋏角触肢、および4対の脚という計6対の付属肢関節肢)がある。鋏角は典型的な3節で、先端2節はを構成する。触肢は形態が歩脚らしいだけでなく、役割も他のクモガタ類の感覚や捕食用とは異なり、歩行に使う[2]。第1脚は細長く、感覚器となり、残り3対の歩脚は触肢と共に歩行に用いられる[3]は鋏角と触肢の間にあり、上唇下唇に覆われる。

縦長い楕円形の後体(opisthosoma、腹部)は11節からなり、ほとんどが上下で背板と腹板に覆われ、前体につながる部分はやや狭くなる。生殖口は後体第2節に開き、第4-6節の腹面は「ventral sacs」と呼ばれる対になった突起物をもち、これは付属肢由来の器官であると考えられる[2]。末端の3節は小さな環状節となり、その先は鞭状の尾節(telson、鞭状体 flagellum)が伸びる[2]。尾節は14-15節に分かれ、長い剛毛が生えている。

クモガタ類にしては例外的に、書肺や気管などの呼吸器官を欠き、体表を通じてガス交換を行う(皮膚呼吸[4]

生態 編集

多くは土壌中に住み、湿ったところに生息する。洞穴から発見されるものもある。動きは素早く、生態について詳しいことは分かっていない。肉食性と思われるが、Eukoenenia spelaea藍藻を摂食することが見られる[5]繁殖行動は不明で、一回に少数、体型に対して大型のを産むことしか知られていない[3]

分布と分類 編集

世界各地に分布が知られ、マダガスカルには種数が多いことがわかっている。日本ではかつて小笠原諸島において不完全な標本が採集されているのみである。

コヨリムシ類はクモガタ類の多くの祖先形質をもつと思われる[1][2]。かつては最も原始的なクモガタ類と考えられた[6]が、確実の系統的位置は未だに不明である[1]

化石種を含め、2003年まででは2科79種のコヨリムシ類が知られる。

Eukoeneniidae
  • Allokoenenia (1種)
  • Eukoenenia (60種)
  • Koeneniodes (8種)
  • Leptokoenenia (2種)
  • Electrokoenenia (1種)
Prokoeneniidae
  • Prokoenenia (6種)
  • Triadokoenenia (1種)
incertae sedis
  • Paleokoenenia (1種)

脚注 編集

  1. ^ a b c Garwood, Russell J.; Dunlop, Jason (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/641/. 
  2. ^ a b c d e f g A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  3. ^ a b James B. Nardi (2007). Life in the soil: a guide for naturalists and gardeners. Chicago Lectures in Mathematics Series. University of Chicago Press. ISBN 978-0-226-56852-2 
  4. ^ Barnes, Robert D. (1982). Invertebrate Zoology. Philadelphia, PA: Saunders College. p. 614. ISBN 0-03-056747-5 
  5. ^ Microwhip Scorpions (Palpigradi) Feed on Heterotrophic Cyanobacteria in Slovak Caves – A Curiosity among Arachnida
  6. ^ Savory, Theodore (1974). “On the Arachnid Order Palpigradi”. The Journal of Arachnology 2 (1): 43–45. http://www.jstor.org/stable/3704995. 

参考文献 編集

  • 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。

関連項目 編集