サッポー詩体(サッポーしたい、またはサッポー風スタンザ英語: Sapphic stanza)は、4行からなる詩形。名称は古代ギリシア詩人サッポー(サッフォー)に由来する。

構造 編集

最初の3つの行は、1行が11音節からできている。最後の行は5音節で、アドニス風詩行(Adonic or adonean line)として知られるが、これを4行めとせず、3行めと合わせて16音節と数えるべきとする説も有力である[1]:84

- u -  x  - u u -   u - x
- u -  x  - u u -   u - x
- u -  x  - u u -   u - x
       - u u - x

(「-」は母音の長い(アクセントの強い)音節。「u」は短い(弱い)音節。「x」はどちらでもよい音節、つまりアンケプス

この11音節詩行- u | - u | - u u | - u | - u、すなわちトロカイオス2つ、ダクテュロス、トロカイオス2つのように分析されてきたが、韻脚と歩格を単位として分析するのではなく、1行を単位とする別の考え方で処理すべきとする説も有力である[1]:84-85

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サッポーの有名な詩である『レスボス詩人断片集成』サッポー31番[2] (Sappho 31の冒頭の例をあげる。

Φαίνεταί μοι κῆνος ἴσος θέοισιν - u - - - u u - u - - 私にはその男が神々に等しく見える
ἔμμεν᾽ ὤνηρ, ὄττις ἐνάντιός τοι - u - - - u u - u - - 彼は君の向かいに
ἰσδάνει καὶ πλάσιον ἆδυ φωνεί- - u - - - u u - u - - 座って、近くで君が甘く声をたてるのを
σᾱς ὐπακούει - u u - - 聞いている

サッポーはサッポー詩体で有名だが、自分の詩にさまざまな韻律形式を使っていた。またサッポー詩体をサッポーが発明したのか、それともそれ以前からアイオリス方言en:Aeolic Greek)に伝統的にあったのかは定かではない。

他の詩人たちの使用 編集

サッポーの同時代人・同国人だったアルカイオスもサッポー詩体を使っていた。

ローマの詩人カトゥルスはサッポーの作品を尊敬し、2つの詩(en:Catullus 11en:Catullus 51)をサッポー詩体で書いた。「51」はサッポーの詩「31」のおおざっぱな翻訳である。ホラティウスも『頌歌』(en:Odes (Horace))のいくつかでサッポー詩体を使っている。

英語詩では、アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンがその名も『Sapphics』という詩の中でサッポー詩体を真似ている。

Saw the white implacable Aphrodite,
Saw the hair unbound and the feet unsandalled
Shine as fire of sunset on western waters;
Saw the reluctant. . .

アレン・ギンズバーグもサッポー詩体を使った。

Red cheeked boyfriends tenderly kiss me sweet mouthed
under Boulder coverlets winter springtime
hug me naked laughing & telling girl friends
gossip til autumn

脚注 編集

  1. ^ a b 高津春繁『ギリシアの詩』岩波新書、1956年、84-85頁。 
  2. ^ 文学的な翻訳は以下を参照:呉茂一訳『ギリシア・ローマ抒情詩選 花冠』岩波文庫、1991年、177頁。ISBN 4003211413 

外部リンク 編集