ジャワトラ

絶滅したトラの一亜種

ジャワトラ (学名Panthera tigris ssp. sondaica) は、食肉目ネコ科に属するトラの一亜種で、インドネシアジャワ島だけに生息していた。小型のトラで、スマトラトラと同程度の大きさという。1980年代絶滅したとされる[1]

ジャワトラ
ジャワトラ
保全状況評価[1]
EXTINCT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネコ目 Carnivora
: ネコ科 Felidae
: ヒョウ属 Panthera
: トラ ''P. tigris
亜種 : ジャワトラ P. t. sondaica
学名
Panthera tigris ssp. sondaica Temminck1844[1]
和名
ジャワトラ
英名
Javan Tiger

特徴 編集

体は本土の亜種に比べると小柄であるが、バリトラよりは大型であった。縞は細くて長く、スマトラトラのものより本数は多かった。鼻は長く幅が狭かった。これらの特徴によって、ジャワトラは他の亜種とは別の亜種とされた。 オスは体長248cm、体重は100から141kg程度、メスはやや小柄で体重は75から115kg程度であった。[2] ジャワトラの小柄な体格は餌となる動物に由来すると考えられている。[3]彼らは鹿、バンテン、イノシシ、水鳥、爬虫類などを捕食した。第二次世界大戦前まではインドネシアの動物園でジャワトラが飼育されていたが、戦時中これらが閉鎖されたこともあり飼育下での寿命や妊娠期間は知られていない。[3]

絶滅の経緯 編集

絶滅の要因は、狩猟と生息地である森林餌資源の減少であると考えられている[1]

20世紀後半の1975年には、1938年当時2800万人だったジャワ島の人口は8500万人に増加しており、主食となるは不足していた。稲作地を拡大するために森林は伐採され、1938年に島の表面積の23%を占めていた自然林は1975年には8%にまで減少した。こうした人間の生活範囲の拡大が、絶滅の主因となった。1940年代にはジャワトラはすでに人里離れた森林や山地に追いやられていたが、その森が野生動物の保護意識が十分でなかった第二次世界大戦後の時代、チークコーヒーゴムプランテーションのために細分化されたこと、シカをはじめとするジャワトラの餌となる動物が減少したことも個体数の減少に拍車をかけた。1965年ごろには反政府組織が資金源とするためにジャワトラを狩った。さらにいくつかの事件によってジャワトラの駆除が大規模に行われ[4]、多くのトラが毒殺された。

それでも、1960年代半ばまではウジュン・クロン、ルエン・サンチャン、バルランの3つの保護区でジャワトラは生存していた。1971年には、老いたメスのジャワトラが南東部のベティリ山付近のプランテーション近くで写真にとらえられた。これを受け、1972年には同地に自然保護区が設定された[5]

目撃情報は1976年ジャワ島東部のメル・ベティリ国立公園Meru Betiri National Park)におけるものが最後である[1][4][6]。この時の調査ではベティリ山の標高の高い地点で生きた個体が目撃されたほか、3から5頭のジャワトラの存在を示す痕跡が発見された。1980年には、SeidenstickerとSuyonoが野生生物保護区を拡張し、脆弱な生態系が人間によって破壊されることを提唱し、インドネシアの自然保護当局は1982年にこの提案を実行に移した。だがこれらの措置は生存していたジャワトラを保護するには遅すぎた[4]

1984年、ジャワ島西部のハリムン保護区で一頭のトラが射殺された[7]。そしてそれ以降、生存したジャワトラの個体は発見されていない。1987年にはボゴール農科大学が30人からなる調査隊をメル・ベティリに派遣し、ジャワトラの痕跡を発見したが、トラそのものは発見できなかった[7]

その後、WWFインドネシアの支援を得て、1992年秋にメル・ベティリ国立公園にカメラトラップが設置された。だが、1993年3月から1994年3月まで19か所にカメラを設置して調査したにもかかわらず、ジャワトラの姿はとらえられず、この調査の最終報告書が公表された後に、ジャワトラの絶滅が宣言された[8][9]

脚注 編集

  1. ^ a b c d e Jackson, P. & Nowell, K. 2008. Panthera tigris ssp. sondaica. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2014.3. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 29 April 2015.
  2. ^ Mazák, V. (1981). Panthera tigris. Mammalian Species 152: 1–8. doi:10.2307/3504004. JSTOR 3504004. http://www.science.smith.edu/departments/Biology/VHAYSSEN/msi/pdf/i0076-3519-152-01-0001.pdf. 
  3. ^ a b Seidensticker, J. (1986). Large Carnivores and the Consequences of Habitat Insularization: Ecology and Conservation of Tigers in Indonesia and Bangladesh. Pages 1−42 in: Miller, S.D., Everett, D.D. (eds.) Cats of the world: biology, conservation and management. National Wildlife Federation, Washington DC.
  4. ^ a b c Seidensticker, J. (1987). Bearing Witness: Observations on the Extinction of Panthera tigris balica and Panthera tigris sondaica. Pages 1–8 in: Tilson, R. L., Seal, U. S. (eds.) Tigers of the World: the biology, biopolitics, management, and conservation of an endangered species. Noyes Publications, New Jersey.
  5. ^ Seidensticker, J., Suyono, I. (1980) The Javan Tiger and the Meri-Betiri Reserve, a plan for management. International Union for the Conservation of Nature and Natural Resources, Gland. 167 pp.
  6. ^ Treep, L. (1973). On the Tiger in Indonesia (with special reference to its status and conservation). Report no. 164, Department of Nature Conservation and Nature Management, Wageningen, The Netherlands.
  7. ^ a b Istiadi, Y., Panekenan, N., Priatna, D., Novendri, Y., Mathys, A., Mathys, Y. (1991) Untersuchung über die Carnivoren des Gunung Halimun Naturschutzgebietes. Zoologische Gesellschaft für Arten- und Populationsschutz e.V. Mitteilungen 7 (2): 3–5.
  8. ^ Rafiastanto, A. (1994) Camera trapping survey of Javan tiger and other wild animals in Meru Betiri National Park. WWF-IP Project ID 0084-02
  9. ^ Jackson, P., Kemf, E. (1994). Wanted alive! Tigers in the wild: 1994 WWF species status report. WWF Gland.

関連項目 編集