スパイ

スパイ(英語:spy)とは、敵対勢力などの情報を得るため、合法違法を問わずに敵の情報を入手したり、諜報活動などをする者の総称である。間諜(かんちょう)、密偵(みってい)、工作員(こうさくいん)、情報機関員(じょうほうきかんいん)とも呼ぶ。また、敵側のみを「スパイ」と呼び、友側を「ケースオフィサー」「協力者」と呼ぶ例もある。

概説

政治経済軍事機密科学技術などの情報をいち早く入手することは戦時・平時を問わず戦略上重要であり、この種の行為は古代から行われてきた。世界各地の神話古文書にもしばしば描写される。エジプトでは5千年前に、ツトモス3世が200人の武装兵をメリケン粉の袋に忍ばせ、輸送と見せかけジェファーの町を攻略した。またギリシャの英雄オデュッセウスの「トロイの木馬」の伝説は有名である。『孫子』においても、「用間」としてわざわざ一章がたてられている。内容は非常に具体的であり、離間工作の方法、敵の間者を二重スパイとして活用する「反間」などの手法が詳細に記されている。戦国時代日本における忍者も、スパイの一種に属する。明治時代の西南戦争にはすでにスパイが活動していた。

「spy」は、「espy」(見つける、探し出す)と同じで、古期フランス語でespion(見張る者)を意味しており、「espionage」(諜報活動:現仏語)の語源。印欧語で「見る」を意味する語幹「spek」に由来する。

近代以降、各国はスパイ網を組織化・巨大化させ、諜報活動を繰り広げた。特に第二次世界大戦後の冷戦時代には、世界各地で激しいスパイ活動が行われ、多くのスパイ事件も発覚している。この状況は、米ソ二極体制が終わった現在でも変わってはいない。一般に、法律で取り締まりの対象になるスパイは内部情報を持ち出す関係者で、その情報を買い取る外国政府の情報機関員(大使館に所属し外交特権を持つ書記官駐在武官をしていたりする)は「ケースオフィサー」という。

ケースオフィサーの任務と、スパイの任務は異なる。ケースオフィサーが行うのは、主に敵側の情報に近づきやすい人間や、有用な人間をスパイとして獲得する獲得工作と、自らの下にいるスパイの管理、情報の取りまとめと本国への報告である。敵側の暗号担当者であったり、電信員であったり、あるいはマスメディアの人間、軍人に近づいて友好的に接し、次第にスパイとして育てあげていくのである。場合によっては自らが外国のスパイとして働いていると自覚すらさせないケースもある。スパイの任務は、まさにその立場や能力を活かし、ケースオフィサーの望む情報や人間、暗号機、暗号書や重要な機密文書などを直接獲得してくることである。多くの場合、海外に赴任したケースオフィサーは赴任国の現地人を使ってスパイ網を作り上げることに邁進する。また、ケースオフィサーの管理を経ずに直接、単独で目標国に潜入するスパイもいる。こうしたスパイは、完全な地下活動や秘密の拠点に長期間潜伏する者もいるが、堂々と偽の経歴を利用して該当国で一定の社会的地位を占めることもある。このような潜入の場合は、しばしば情報収集だけでなくプロパガンダの流布など、積極的な工作活動を行う場合もある。

小説映画の影響により派手な活動が連想されがちであるが、古典的表現である「外套と短剣」に表されるように、実際のスパイは実に地味な活動をしている事が多く、本来別の存在である(これは特殊部隊などにも言える事である)。忍者や007シリーズ等、大衆向けに膾炙したフィクションが先入観の原因と考えられる。このような破壊工作などは、実際には軍隊の特殊部隊によって行なわれていることが多い。たとえば、戦場において工作活動や味方とするべき非合法の組織作りを担当するのは、往々にして軍の特務機関である。太平洋戦争における陸軍中野学校出身のスパイ達の活動などが例としてあげられる。しかし、地味な活動だけではなく、時にはスパイも暗殺、破壊工作、拉致などの任務に就く事もあり、スパイによって引き起こされた事件が多くある。また、敵施設への潜入や盗撮、窃盗なども行うことがあり、暗号機や暗号書などがその標的になることが多い。

しかしながら、民主主義の大国の間では映画やフィクションから窺えるイメージと実際のスパイのイメージはかなり異なる。例えば情報収集活動は、潜入や暗殺、尾行などの直接行動のみで行われるわけではない。十分な情報公開がされている国においては、基本的に情報公開の原則から、しばしばエリントイミントヒューミントと並んでオシントと呼ばれる手法で、目的の情報を得られることがあるからである(具体的手法は該当項を参照)。ただ、そうした活動はおもに諜報機関が組織として情報を収集する手法のひとつであり、スパイが個々人で行うわけではない(末端の行動員はそれこそ歯車の1個に過ぎず、自分が何のためにそれをさせられているのか分からないという事もある)。窃盗や盗撮と同様によく行われる手法として、目的とする情報がある機関の職員に、異性の諜報員が近づき、恋愛感情につけ込んで情報の取得を目指すリスクの比較的少ない手法(色仕掛け・ハニートラップ)もある。また、多重債務保証人・多額な現金を必要とする入り用といった金銭問題も時としてスパイ活動に利用される事が多い。

スパイをテーマとした小説や映画、漫画などは、冷戦期に盛んに送り出されたものの、近年はやや下火になりつつある。

なお、二重スパイなどは現実に存在するが、漫画のような三重スパイはほとんど存在しない。なぜなら、そこまでいくとよほど間抜けな諜報機関でない限り、まず気づくからである。

また危険な任務が多く、且つ摘発されたら数年間の刑務所暮らし、戦時などは死刑になるのに基本的に給料が安い(ケースオフィサーは公務員内通者に至っては報酬が贋金で支払われたりする事も)ため、現在の先進国に限っていえば人気が無く、進んでやろうとする人間はまれである[1]。現にSISなどは新聞広告などをして募集をしているほど人材が枯渇しているようで深刻な問題のようだ。北朝鮮問題やアフガニスタン問題が進展しないのは人材に乏しく、ヒューミントが確立していないからという指摘もある。ただし、最近の研究では強権的で密告・摘発制度を完備させた社会主義諸国でのヒューミントの確立は難しく、冷戦中にCIAなど旧西側の情報機関がこの確立に苦難していた事も指摘されている。また、テロ組織やゲリラ組織もその組織の規模の小ささを逆手にとって、新入りが不審な動きをしていたら即上部に通報するなどの防諜システムを確立している事が多いといわれている。

非軍事のスパイ

企業における(敵対企業に対する)機密などの盗み出し行為については産業スパイと呼ばれる。

冷戦以降は各国の情報機関が非軍事分野に進出しているという指摘もある。

プロ野球スコアラーが、次の対戦相手の戦力・戦術分析の為に試合を観戦したりする事から、「スパイ」と表現される事もある。

その他、掲示板などでの情報操作をする者は工作員などと呼ばれる。

現代の諜報機関

日本

ソ連およびロシア

アメリカ

イギリス

イスラエル

フランス

韓国

ドイツ

防諜機関

実在したスパイによる回顧録

実在したスパイ

ソ連・ロシア

ドイツ

東ドイツ

ポーランド

チェコスロバキア

アメリカ

イギリス

フランス

イスラエル

北朝鮮

韓国

中華人民共和国

中華民国

日本

スパイをテーマとした作品

小説・映画

ゲーム

漫画

楽曲

書籍

脚注

  1. ^ 一方でクバーナ航空455便爆破事件犯人・ルイス・ポサダ・カリレスのように庇われたりする例もある
  2. ^ 「北京の高級人民法院、判決で日本外交官をスパイ断定」読売新聞08年3月11日記事
  3. ^ 週刊新潮2006年2月16日
  4. ^ 金富億『北朝鮮の女スパイ』講談社文庫1997年ISBN 978-4062562300
  5. ^ 金富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社文庫2002年ISBN 978-4062566797
  6. ^ 金賢姫『金賢姫 いま、女として』文春文庫1994年、上 ISBN 978-4167565015、下 ISBN 978-4167565022
  7. ^ 趙甲済『北朝鮮女秘密工作員の告白』徳間文庫1997年 ISBN 978-4198907884
  8. ^ 金富億『北朝鮮のスパイ戦略』講談社文庫2002年ISBN 978-4062566797
  9. ^ 外務省『北朝鮮による日本人拉致問題』2006年7月。
  10. ^ 外務省『北朝鮮による日本人拉致問題』2006年7月。
  11. ^ 警察庁編『警察白書』平成15年。
  12. ^ 高世仁『拉致-北朝鮮の国家犯罪』講談社文庫2002年ISBN 978-4062735520
  13. ^ 金富億『北朝鮮の女スパイ』講談社文庫1997年ISBN 978-4062562300
  14. ^ 警察庁編『警察白書』平成9年。
  15. ^ 警察庁編『警察白書』平成13年。
  16. ^ 警察庁編『警察白書』平成15年。
  17. ^ 外務省『北朝鮮による日本人拉致問題』2006年7月。
  18. ^ 安明進『北朝鮮拉致工作員』徳間文庫2000年ISBN 978-4198912857
  19. ^ 女スパイ:韓国人将校らの暗殺命令受ける(上):(朝鮮日報2008年8月28日)
  20. ^ 女スパイ:義父キム・ドンスンとは何者か(朝鮮日報2008年8月29日)
  21. ^ a b c TBS闇の部隊「北送阻止隊」 (2009/9/26 放送)にて名前を公表してインタビューに答えている
  22. ^ 日本華裔大臣蓮舫家世揭秘 祖母是政商兩界女强人 中國新聞網 2010年06月07日

関連項目

外部リンク