トヨペット・マスター

トヨタ自動車の商用車

トヨペット・マスター(Toyopet Master)は、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)が1955年昭和30年)1月から1956年(昭和31年)11月まで生産し、トヨタ自動車販売(現・トヨタ自動車)が1955年1月から1956年12月まで販売していたタクシー専用を目的としたセダン乗用車である。

トヨペット・マスター(RR型)
概要
販売期間 1955年1月-1956年11月
設計統括 薮田東三
ボディ
乗車定員 5名
ボディタイプ 4ドア セダン
駆動方式 後輪駆動
パワートレイン
エンジン トヨタR型 水冷直列4気筒OHV 1,453cc 48ps/4,000rpm
変速機 3速MT
前輪:リーフ式サスペンション
後輪:リーフ式サスペンション
前輪:リーフ式サスペンション
後輪:リーフ式サスペンション
車両寸法
ホイールベース 2,530mm
全長 4,275mm
全幅 1,670mm
全高 1,550mm
車両重量 1,210kg
系譜
先代 トヨペット・スーパー/
トヨペット・カストム
後継 トヨペット・コロナ
テンプレートを表示

概要

1955年(昭和30年)1月1日、トヨペット・スーパー、およびトヨペット・カストムの後継モデルとして、初代トヨタ・クラウンRS型と同時に販売を開始した。クラウンは自家用乗用車として想定されていたのに対し、マスターは主にタクシーとしての使用を考慮され、クラウンより10万円安い89万5000円で販売された。クラウンはトヨタ自工自らが開発、生産を行い、マスターは関東自動車工業が開発、生産を担当した。従って、厳密にはトヨペット・スーパーRHK型(関東自動車工業製ボディ)の流れを汲んでいる。

サスペンションは、前後とも実績があるリーフリジッドアクスル車軸懸架)を採用した。これは、タクシーでの酷使を想定したものであることはもちろん、クラウンがトヨタとしては初めて本格的な前輪独立懸架を採用したことへの「保険」でもあった。1947年(昭和22年)、トヨペット・SA型では、国産車初の四輪独立懸架を採用したものの、実用には耐え得るものではなく、失敗に終わっている。それを踏まえ、クラウン発売後にトラブルが生じた場合に備え、その保険的な車種として当時信頼性や耐久性が高かった四輪リーフリジッドを備えたマスターを併売することになった。

しかし、クラウンの前輪独立懸架は、長期にわたる実験が実を結び、乗り心地の良さと耐久性が認められ、タクシー業者にも受け入れられるようになった。これにより、クラウンより乗り心地と操縦安定性が劣るマスターの販売台数は振るわず、翌1956年(昭和31年)11月30日を以って販売を終了した。総生産台数は7403台。

予想外の短命となったマスターへの設備投資を無駄にしないため、また、トヨタが実力を評価していた関東自工の生産技術を維持するため、マスターの生産ライン商用車であるマスターラインに引き継がれ、さらに、ボディーパネルやウインドウガラスはRK型小型トラック(→ライトトラック→初代スタウト)初代トヨペット・コロナにも流用され、生かされた。

開発の過程

開発着手は1953年(昭和28年)10月で、1952年(昭和27年)1月から開発が始まっていたクラウンRSからは1年9ヶ月も遅れてのスタートであったが、発売はクラウンと同時期にせよ、との指示により、突貫で開発された。このモデルの開発には、クラウンの耐久性疑念への「保険」としての意味合い[注釈 1]のほか、トヨペット乗用車のボディ架装を多く手掛けて実績を積んできた関東自動車の生産ラインが、トヨタ自工自社製ボディのクラウンへのモデルチェンジで空いてしまうため、これを埋める製品を必要とした政策的意味合いもあった。

開発チームの主査はトヨタ自工技術部設計課の薮田東三で、トラック開発の主査としての経験はあったが、乗用車は初めての担当であった。クラウンの主査である中村健也が車体工場の生産部門出身で、とかく凝り性だったのに対し、薮田は既存パーツを活用しての促成開発を得意としていた。また関東自動車の技術陣も開発意欲は高く、ボディ製作技術を活かして、既にモノコックボディ試作車を独自開発した経験もあった。彼らの協力で1954年(昭和29年)1月末にシャシが、同年3月初旬には試作ボディがそれぞれ完成しており、開発期間はわずか5ヶ月ほどと言うことになる。

構成

クラウンとは姉妹車の関係だと思われがちだが、トヨペット・スーパーから継承するR型エンジン(水冷直列4気筒OHV、1,453 cc、48 ps)を共に搭載した以外は相違点が多く、シャシは共有していない。しかし促成策のために、クラウン用に先行開発された機能部品(コンポーネンツ)の多くを共用している。クラッチ変速機からディファレンシャルギアに至るまでの駆動系、ブレーキシステム、ステアリング機構などである。その他のシャシパーツは在来のトヨペットトラックと乗用車のものを多く流用、改良しており、クラウンの前ダブルウィッシュボーン&コイル独立・リア3枚板バネリジッドの組み合わせに対し、マスターでは前後とも5枚板バネリジッドとした。ただし乗り心地対策で、トヨペット・スーパーより格段にスプリングレートを小さくしている。

ボディは、クラウンと同様の4ドアセダンだが、デザインはクラウンがアメリカンスタイルなのに対し、マスターはメッキモールを少なくしたヨーロピアンスタイルで外見が全く異なる。また、クラウンのドアが後席ドアを後方ヒンジにした観音開きであることに対し、マスターは前後ドアとも前ヒンジの一般的な方式としている。また、マスターのフロントウインドシールドは1枚物平面ガラスである[注釈 2]

姉妹車

脚注

注釈

  1. ^ そのため、発売がクラウンより遅れると意味がなくなる。
  2. ^ クラウンは発売当初、中央2分割型曲面ガラスであったが、最初の一部改良の実施、および上位グレードの「デラックス」の追加に伴い、曲面で一体化している。

出典

関連項目

外部リンク