ドクニンジン

セリ科の有毒植物の一つ

ドクニンジン(毒人参、Conium)は、セリ科有毒植物のひとつ。多年草薬草として使われる。ヨーロッパ(特に地中海地方)が原産の Conium maculatum と、北アフリカ原産の C. chaerophylloides の2がある。葉の見た目から、「毒パセリ」とも呼ばれる。

ドクニンジン属
ドクニンジン(C. maculatum
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : キキョウ類 campanulids
: セリ目 Apiales
: セリ科 Apiaceae
: ドクニンジン属 Conium [1][2]
学名
Conium L. (1753) [3]
タイプ種
Conium maculatum L. [3]
和名
ドクニンジン属[1][2]
英名
poison hemlock[4]
  • ドクニンジン C. maculatum
  • C. chaerophylloides

名称 編集

学名「コニウム・マクラトゥム」が意味する通り、ヨーロッパ種のほうが中毒性のある「毒草」として、はるかに有名である。ドクニンジンは、ソクラテスの処刑に毒薬として用いられたことが知られており、茎の赤い斑点は、ヨーロッパでは「ソクラテスの」と呼ばれることもある。

ドクニンジンは、英語では「ヘムロック」(「毒草」の意味)と呼ばれるが、この語は時どき、同じセリ科ドクゼリと混用されている(ドクゼリの英語の俗称は「ウォーター・ヘムロック」である)。ちなみにスペイン語ポルトガル語では、ドクニンジンのことを「シクータ ("Cicuta")」と呼ぶが、英語ではドクゼリの意味で「シクータ」を用いる。

分布・生育地 編集

ドクニンジンはヨーロッパ原産で、日本では帰化植物[5]。荒れ地に生え[5]、しばしば水辺やどぶなど、水はけの悪い土地で見られる。かつては日本に自生していなかったが、近年北海道の山野に不法に持ち込まれたものが植生しており、このためシャクと誤認して採取され、摂取された結果の死亡例も報告されている。北海道のほかに、東日本やアジア各地、北米大陸豪州などでも帰化植物となった例が報告されている。

特徴 編集

二年草で、草丈は2メートルほどの高さに育ち、茎は毛がなく緑色つるつるで、下半分にたいてい紫紅色の斑紋が入っていて、生長すると暗紫色になる[5]。太き茎は中空で、傷をつけると不快な匂いがする[5]はきれいにレース状に分かれており、一様に三角形をしている。とりわけ若葉は、パセリや、山菜シャクと見間違えやすい。また植物全体が、しばしばフェンネルワイルドキャロット菜人参の原種)と取り違えられる。

花期は夏で、小さな白いを多数咲かせる[5]。花は、花序の中で密集しており、全体で直径10センチメートルから15センチメートルほどになる。種子ウイキョウ(フェンネルシード)に似ており、肉色をしたは、たいてい枝分かれしておらず、パースニップと取り違えられる。

ドクニンジンは、植物全体が臭気を放っていることが特徴と言われているため、食用植物と区別するには、臭みが手がかりとなりうる。たとえばドクニンジンを潰してやると、葉と根は、腐ったような(あるいはカビ臭い)不快な臭いがするのに対して、フェンネルの葉は、アニスリコリスのような芳香がする。ただし、パースニップも同じくらい臭いといわれるため、どのみち注意は必要である。

毒性 編集

全草、特に果実に猛毒成分を含み、誤食すると嘔吐下痢が続いて呼吸困難となって、最悪は死に至る場合がある[5]。ドクニンジンは、各種の毒性アルカロイドコニインN-メチルコニインコンヒドリンN-プソイドコンヒドリンγ-コニセインなど)を含む。これらの毒の中でも最も重大なのがコニインである。コニインは神経毒性の成分で、中枢神経の働きをおかし、呼吸筋を麻痺させる。人間や家畜にとって有害である。

ドクニンジンは春に目立つ。春はかいばやまぐさが消えてしまうからである。ドクニンジンは全身に毒を含んでいるが、いったん乾かしてやると、大幅に毒は減る。それでも毒が完全に消滅するわけではない。葉の見た目から、「まだらパセリ ("spotted parsley")」という別名もある。の中には、幼虫の頃にドクニンジンを好んで食べるものがある。

慣習的にこのような混乱が見られるものの、ドクニンジンとドクゼリの違いは、容易に見分けることができる。

 
ヨーロッパ種 (C. maculatum)
 
Conium maculatum

医薬成分 編集

ドクニンジンは、鎮静剤や、痙攣止めの用途のために使われてきた。古代ギリシアや中世アラビア医学では、関節炎などのさまざまな難病の治療にドクニンジンを用いている。しかしながら、治療法によっては必ずしも効能が期待できるわけでなく、服毒量もごく少なくしなければならない。大量の服用は危険が高く、呼吸困難に続いて麻痺言語障害を引き起こし、にすら至りかねないからである。

脚注 編集

  1. ^ a b 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2 
  2. ^ a b 大場秀章(編著)『植物分類表』(第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4 
  3. ^ a b "'Conium L.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 40013296. 2012年8月12日閲覧
  4. ^ "Conium L." (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年8月12日閲覧
  5. ^ a b c d e f 金田初代 2010, p. 185.

参考文献 編集

  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、185頁。ISBN 978-4-569-79145-6 

関連項目 編集

  • ソクラテス - 薬殺刑を執行される際に当植物が使われた。
  • Days Gone - ゲームの後半から終盤にかけて、毒薬として幾度か言及される他、主人公と対立するある人物の暗殺にも使用される。

外部リンク 編集