ドナドナ

イディッシュの歌

ドナドナ」 (Dana Dana, Dona Dona, Donna Donna, Donay Donay) は、世界の多くの国で歌われているイディッシュ中東欧ユダヤ文化)の歌である。

みんなのうた
ドナドナ
歌手 岸洋子
作詞者 アーロン・ゼイトリン
安井かずみ
作曲者 ショロム・セクンダ
編曲者 小森昭宏
映像 アニメーション
映像制作者 小薗江圭子&みわとしこ
初放送月 1966年2月 - 3月
再放送月 1967年4月 - 5月
1971年2月 - 3月
2008年12月 - 1月
2021年10月[注釈 1]
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歴史 編集

原曲 編集

1938年Dana Dana (ダナダナ)として作られたイディッシュ語の歌で、ウクライナ生まれのユダヤ系アメリカ人ショロム・セクンダ作曲、ベラルーシ生まれのユダヤ系アメリカ人アーロン・ゼイトリン英語版原作詞である。1940年から1941年にイディッシュ語ミュージカル Esterke [1]に使われた。

牧場から市場へ売られていくかわいそうな子牛を歌っており、これに関して、ユダヤ人ナチスによって強制収容所に連行されていくときの様子を子牛に見立てた反戦歌とする説があるが、前述の通りこの曲は1938年に作られ、ミュージカル1940年に使用されているため、1942年に始まったナチスによるホロコーストの描写という説明は史実と矛盾している。

ただし、ヨーロッパにおけるユダヤ人排除の歴史はホロコースト以前から存在しており、現在でも反ユダヤ主義を批判した歌として歌われることがある。

また、この楽曲が作られた1938年には、水晶の夜事件が勃発しており、1938年10月28日 約1万7000人のポーランド系ユダヤ人がドイツ軍によって追放され強制的にポーランドへ移送されています。

英語版 編集

1956年にアーサー・ゲヴェスとテディ・シュワルツが英訳して歌い、その後ジョーン・バエズDonna Donna として1961年に発売し大ヒット。日本では「ドンナ・ドンナ」として1964年に発売された。

曲名が「ダナ」から「ドナ」に改変されたのも、この英訳時である。

この英訳詞は、日本ではザ・ブロードサイド・フォー(1966年、LP『フォーク・ソング・ベスト・ヒット(第1集)』。曲名は「ドナ・ドナ・ドンナ」)や森山良子(2015年、CD『フォークソングの時代』)らがカバーしている。

フランス語版 編集

クロード・フランソワが歌った。タイトルは「Donna Donna (Le petit garçon)」というように副題が付けられており、歌詞も子牛ではなく、男の子のことを歌っている。このバージョンは、『サ・リュ・レ・コパン英語版』のヒット・パレードで1964年12月に第3位を獲得した[2]。日本では「ドナ・ドナ・ドーナ」として1965年に発売された。

日本語版 編集

1964年4月、デューク・エイセスのシングル「花はどこへいった」のB面として漣健児の訳詞により「ドナ・ドナ・ドーナ」として発表された。

続いて1965年3月、ザ・ピーナッツのシングル「かえしておくれ今すぐに」のB面として安井かずみの訳詞により「ドンナ・ドンナ」として発表された[注釈 2]。同年、フランス・ギャルのシングル「夢みるシャンソン人形(日本語版)」のB面で、クロード・フランソワが「ドナ・ドナ・ドーナ」というタイトルでザ・ピーナッツ版の日本語詞を歌った[注釈 3]

1966年2月から3月まで、同じく安井の訳詞で若干異なる内容のものが、岸洋子の歌により、NHKの歌番組『みんなのうた』で「ドナドナ」として放送された。

1967年ペギー葉山のLP『ペギーの“ファミリーショー”』に、あらかはひろしの訳詞により「ドナ・ドナ」として収録された。

アニメ『少女革命ウテナ』第16話「幸せのカウベル」の挿入歌として使用され、1997年発売のアルバム『少女革命ウテナ バーチャルスター発生学』にロイヤルナイツの1970年代の録音が(歌詞は1・2番が日本語、最後のリフレインが英語)、1998年発売のアルバム『少女革命ウテナ さあ、私とエンゲージして…』にNHK東京放送児童合唱団の歌が(歌詞は安井かずみによる『みんなのうた』版の日本語詞)それぞれ収録されたている。

小学校・中学校・高等学校の音楽の教科書にも掲載された[3]

歌詞 編集

イディッシュ語原詩 編集


אויפֿן פֿירל ליגט דאָס קעלבל,
ליגט געבונדן מיט אַ שטריק,
הויך אין הימל פֿליט דאָס שװעלבל,
פֿרײט זיך, דרײט זיך הין און קריק.

לאַכט דער װינט אין קאָרן,
לאַכט און לאַכט און לאַכט,
לאַכט ער אָפּ אַ טאָג, אַ גאַנצן
מיט אַ האַלבער נאַכט.

דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ,
דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ, דאַ,
דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ,
דאָנאַ, דאָנאַ, דאָנאַ, דאַ.

שרײַט דאָס קעלבל, זאָגט דער פּויער:
װער־זשע הײסט דיך זײַן אַ קאַלב?
װאָלסט געקענט צו זײַן אַ פֿויגל,
װאָלסט געקענט צו זײַן אַ שװאַלב.

לאכט דער װינט אין קאָרן ......

בלידנע קעלבער טוט מען בינדן,
און מען שלעפּט זײ און מען שעכט,
װער ס'האָט פֿליגל, פֿליט אַרױפֿצו,
איז בײַ קײנעם ניט קײן קנעכט.

「ドナ」の解釈 編集

  • 牛を追うときの掛け声を表す[4]
  • アドナイ」(我が主よ)の短縮形。ただし、原題は「ダナ」であり、「ドナ」となったのは英訳時の改変である。

アレンジ等 編集

もの悲しげな旋律で知られるこの曲にもアレンジが存在する。

  • 1988年SUPER BADがシングル「ドナドナ」をリリース。旋律が明るめにアレンジされている。歌詞は安井かずみによる日本語詞(1番はザ・ピーナッツ版、2番は『みんなのうた』版)をベースに、一部の歌詞が変更されている。
  • 1999年聖飢魔IIが同曲をモチーフに、アルバム『LIVING LEGEND』に「戦慄のドナドナ」を収録(楽曲自体は全くのオリジナル)。伝染病と医療問題をプラクティカルなジョークにからめた(ドナドナとドナーを掛けてもいる)、バンドが得意とする諷刺ソングとなっている。
  • 2001年、毒殺テロリストがアルバム『ベスト! 毒殺テロリスト1』に、『ドナドナ〜人身売買〜』というタイトルで収録。歌詞は1番が安井かずみによる『みんなのうた』版の日本語詞で、2番はオリジナルの日本語詞。
  • 2007年スワベジュンイチがRemixカヴァー。トランスmixとデスメタルmixを収録し『Dona Dona』というタイトルでリリース。歌詞は安井かずみによる『みんなのうた』版の日本語詞。
  • 2007年Chocolat & Akitoがカヴァー。アルバム『Tropical』に収録。歌詞は安井かずみによる『みんなのうた』版の日本語詞。
  • 2009年筋肉少女帯が同曲をモチーフに、アルバム『シーズン2』に「ドナドナ」を収録(楽曲自体は全くのオリジナル)。本曲の中では、ドナドナを人物であるかのように描写されている。

インターネットスラング 編集

歌の内容から転じたネットスラングで、食肉処理場等へ家畜が輸送される、あるいは犯罪を犯して所轄の警察署に連行される、さらにはイベント会場で迷惑行為を行って会場スタッフやガードマンにバックヤードに連れて行かれることのほか、人が辛い事が待つ場所へ連れていかれる様を「ドナドナ」と表現することがあり、例えば新任講師や新任教員が地方や離島に赴任することは「ドナドナ子牛」または単に「ドナ」と表現されることがある[5]

また、園庭のない保育園等でカートに詰め込まれて児童が近隣の空地公園等へ運ばれる移動風景、もしくはカートそのものを指して「ドナドナ」と言う。

さらに、故障した車がレッカー車で運ばれる、鉄道車両の廃車回送など、何らかの形の別れをも「ドナドナ」と呼ぶことがある。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ テレビのみ『それ行け3組』・『たのしいね』・『はじめての僕デス』と合わせて放送、本曲は『それ行け3組』・『たのしいね』と共にワンコーラスで放送、番組では曲に対する思い出のナレーションが添えられた。
  2. ^ 21世紀以後では2004年11月26日発売の『ザ・ピーナッツ メモリーズBOX』に収録。
  3. ^ クロード・フランソワの日本語版は、2003年のフランソワのアルバム『Cloclo Mania』にも収録。

出典 編集

  1. ^ ニューヨーク大学デジタルアーカイブ内、“Esterke”スコア
  2. ^ シングル「夢みるシャンソン人形(日本語)/ドナ・ドナ・ドーナ(日本語)」(フィリップス・レコード、規格品番:FL-1200)のライナー・ノーツより
  3. ^ 歌『ドナドナ』の由来などについて知りたい。、レファレンス協同データベース、2017年7月13日 16時53分更新。
  4. ^ 畑中良輔他 『中学生の音楽1』 教育芸術社、2009年2月10日、31頁
  5. ^ 松田謙次郎「ネット社会と集団語 (特集 ネット社会の集団語)」『日本語学』第25巻、第10号、明治書院、25-35頁、2006年9月。 NAID 40007459401 

関連項目 編集

外部リンク 編集