ドメイン投票方式(ドメインとうひょうほうしき、Demeny voting)とは、社会保障(年金・医療・介護)の世代間格差・少子化対策のために選挙権年齢未満で選挙権のない子供の親権者[1]に対し、選挙権付与年齢未達の子供数の投票権を追加付与する投票方式である[2][3][4]。すなわち、未成年にも投票権を与えて親がその投票権を代行することになり、間接的に選挙権年齢未満の者にも投票権を与えることになる。子供が選挙権年齢に達した後は本人が選挙権を持つ。

「ドメイン」はこの方式を提案したアメリカ合衆国人口統計学者のポール・ドメイン(Paul Demeny)に由来する。Demeny には「ドメイン」のほか「デーメニ」というカタカナ表記もあるため、デーメニ投票方式とも呼ばれる[2]

概要 編集

投票年齢未満の子供にも1票を与える仕組みである。高齢者の声が優先されていることで起きている世代間格差の解決方法として注目を集めている。導入されるとは、二人子供いれば父親と母親へ各1票分加算、子供が1人ならば母親と父親へ各0.5票ずつ加算される[4]

ポール・ドメインによって1986年に考案された投票方式である。この背景には、彼の「政治システムはもっと若い世代の関心に敏感でなければならない」という考え方があり[5]、近年の先進諸国での低出生率を上昇させる効果があるとしても期待されている。

ドイツでは2003年にドメイン投票方式を導入について議会で議論されたが、実現には至らなかった。そして2008年に再び議論されている。なお、ドイツでは ドメイン投票方式は子供投票権(Kinderwahlrecht)の名で知られている[3]


日本では、少子高齢化社会に対応した政治制度として、一橋大学経済研究所青木玲子教授やオークランド大学のリーナ・ヴァイティアナサン(Rheme Vaithianathan)教授を中心にドメイン投票法が議論されている[6]

2011年に来日した際にドメインは、日本では有権者比率のために政治家も高齢者層にウケのいい政策を優先的に打ち出し、年金など社会保障制度の抜本的改革が先送り・勤労世代の負担増加が続くことで、世代間格差が拡大しているとして、導入推奨している[4]

2021年現在、この投票方式を実際に導入した国はないが、少子化の進む国では導入を目指した議論が起きている[2][3]

意見 編集

  • 未成年者の選挙への参加を促すことで、若年世代の政治への関心を高める効果がある[7]
  • 子供の数だけ付与された投票権を通じて子育て世代に発言力を与えることで、将来世代への投資、少子化対策が重視されることが期待できる[8]
  • 投票率の低下や人口動態により、特定世代の影響力が顕著に弱まる現行選挙のあり方を聖域なく議論し、子どもに投票権を与えて親がその投票を代行する。法政大の小黒一正教授(公共経済学)は、日本では世代人口の多数派を占める高齢者の意思が反映されやすい『政治の高齢化』の中で、非高齢者世代の声が政治に届くための方策となると指摘している[9]
  • 未成年者にも投票権を与えるのは、単に子供を多く持つ投票権者に多くの投票権を与えるに過ぎないのではないかとの意見もある[10]
  • 1940年に生まれた日本人は、納税額よりも受益額の方が4,850万円も多いのに対し、2000年に生まれとなると逆に納税額-受益額が3,260万円損となる差額8,000万円の世代間格差があるため、世代間格差不満層・少子化危惧層には導入賛成意見がある[3]

[11]

脚注 編集

  1. ^ 子供が一人の3人世帯場合は父母に0.5票ずつ加算、子供二人4人世帯の場合は父母一票ずつ加算。
  2. ^ a b c ドメイン投票法 - コトバンク(出典:デジタル大辞泉(小学館))
  3. ^ a b c d こども投票制(ドメイン投票制)で明るい未来をつくるのだ!|前田晃平”. 日経COMEMO (2020年2月17日). 2024年4月25日閲覧。
  4. ^ a b c こんな投票できれば(2)【参院選2016】子供も1票持つ「ドメイン投票」”. J-CAST ニュース (2016年6月23日). 2024年4月25日閲覧。
  5. ^ Demeny, P. 1986 "Pronatalist Policies in Low-Fertility Countries: Patterns, Performance and Prospects," Population and Development Review, vol. 12 (supplement): 335-358.
  6. ^ [1]
  7. ^ [2] (PDF)
  8. ^ [3] (PDF)
  9. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2016年5月7日). “ゼロ歳に選挙権? 「各世代の声を均等に政治に」注目高まる(2/2ページ)”. 産経新聞:産経ニュース. 2024年4月25日閲覧。
  10. ^ [4]
  11. ^ 「ドメイン投票法」の衝撃|NIRA総合研究開発機構”. nira.or.jp. 2024年4月25日閲覧。