生物学的分類の8つの主要な分類階級階層生物ドメインに分けられ、ドメインはさらに細分化される。

生物分類学において、ドメイン: domain、羅: regio[1])は、ドミニオン(dominion、dominium[2]、上界(superkingdom、superregnum)、レルム(realm)、帝国(empire、imperium)とも呼ばれ、すべての生物を合わせた分類階級の最高位である。ドメインは、1990年に、カール・ウーズオットー・カンドラー英語版マーク・ウィーリス英語版によって考案された3ドメイン系英語版の分類体系で導入された概念である[1]

3ドメイン系による生命樹は、古細菌Archaea)・細菌Bacteria)・真核生物Eukarya)の3つのドメインで構成される[1]2ドメイン系英語版においては、古細菌と細菌の2つのドメインで構成し、真核生物は古細菌からの分岐に含まれる[3][4]。古細菌と細菌はいずれも、原核生物というで囲まれたを持たない単細胞微生物である。対照的に、核と膜系細胞小器官を細胞に持つ生物はすべて真核生物に含まれる。

ドメイン体系には非細胞生命英語版ウイルスなど)が含まれていないことから、こうした生命体を加えた提案も行われている。

用語 編集

ドメインという用語は、1990年に、カール・ウーズオットー・カンドラー英語版マーク・ウィーリス英語版による3ドメイン系英語版として提案された。この用語は、1974年に、ムーア英語版によって導入されたドミニオンと呼ばれるカテゴリーと同義語である[2]

ドメイン分類体系の発展 編集

 
(上) ウーズの3ドメイン樹と、(下) レイクの2ドメイン樹の比較[5] (2008年)

カール・リンネが18世紀半ばに作成した有名な分類体系の中で、ドメインの分類が一般的になった。この分類体系は、後にチャールズ・ダーウィンの研究によってさらに改良されたが、細菌については他のドメインと比較できるような観察可能な特徴がほとんどないことから簡単には分類できなかった[6]

1977年、カール・ウーズが16sリボソームRNAヌクレオチド配列を比較して、階級(あるいはドメイン)はそれまで科学者たちが考えていたような2つの分岐ではなく、3つの分岐を含んでいることを発見したとき、画期的な進歩がもたらされた。それ以前は、古細菌Archaea)と細菌Bacteria)はその物理的な類似性から一緒にされて「古細菌(archaebacteria)」と呼ばれていた。RNA遺伝子の進化に基づいた分類法は、この2つの界がほとんど似ておらず、内部的に大きく異なることを明らかにし、の上にドメインと呼ばれる新しい分類群が存在する3ドメイン系英語版につながった[1]

1980年代、すでにジェームス・A・レイク英語版が提唱し、すべての生物を細菌と古細菌の2つのドメインに分類するエオサイト説が先行していたが、当時の証拠から3ドメイン系にほぼ取って代わられた。その後、古細菌、特に細菌との共生による真核生物の起源における古細菌の役割についての理解の深まりや、2017年にアスガルドという古細菌の大きなグループが発見され、真核生物は古細菌のメンバーであることが示唆されたことを受け、生命樹のすべての生物を細菌と古細菌という2つの大きなドメインに分割するという2ドメイン系英語版が見直され、より広く受け入れられるようになった[7][8][3]

3ドメイン系 編集

 
ウーズらがRNA遺伝子を使用して推測した、細菌、古細菌、真核生物の主要な3つの枝を示す有根系統樹 (1990年)[1]生物を対象にした進化系統樹の1例。赤の枝(Archaea)が古細菌。扇形の中心で、枝が集束している部分が全生物の共通祖先。真正細菌(Bacteria。左側の青色部分)と古細菌が系統的に離れた存在であることが示されている。

3ドメイン系は、生命樹を、古細菌Archaea)・細菌Bacteria)・真核生物Eukarya)の3ドメインで構成する。これら3つのドメインには、それぞれ固有のリボソームRNAが存在する。これが3ドメイン系の基礎である。真核生物は核膜の存在によって、核膜を持たない古細菌や細菌と区別される。また、古細菌と細菌は細胞膜RNAマーカーの生化学的な性質の違いによって互いに区別されている[1]

古細菌 編集

古細菌は、典型的には膜脂質エーテル結合によってグリセロールに結合した分岐炭化水素鎖)を特徴とする原核細胞である。古細菌におけるこれらのエーテル結合の存在は、極端な温度や強酸性条件に耐える能力を高めているが、多くの古細菌は温和な環境に生息している。塩分濃度の高い環境で増殖する好塩菌や、極度な高温の環境で増殖する超好熱菌は、古細菌の一例である[1]

古細菌はさまざまな大きさの細胞で進化したが、いずれも比較的小さい。その大きさは直径0.1 μmから15 μm、長さは最大で200 μmである。古細菌の大きさは細菌とほぼ同じか、真核細胞に見られるミトコンドリアのそれに近い。テルモプラズマ属のメンバーは最も小さい古細菌である[1]

細菌 編集

シアノバクテリアマイコプラズマは細菌の2つの例である。細菌は古細菌と同様に原核細胞であるが、その細胞膜リン脂質二重層でできている。細菌の細胞膜は古細菌のそれとは異なり、古細菌に見られるエーテル結合を特徴的に欠いている。内部的には、細菌はリボソーム内に異なるRNA構造を持っており、それらは異なるカテゴリーに分類されている。これにより、2ドメイン系と3ドメイン系は、細菌と古細菌を別のドメインに置く。

細菌というドメインには非常に幅の広い多様性がある。その多様性は、異なる細菌系統間での遺伝子交換によってさらに複雑さを増す。遠縁の細菌間に重複遺伝子が存在すると、細菌種を区別したり、地球上の細菌種を数えたり、それらを木構造に整理したりすることはほぼ不可能になる(ただし、枝と枝の間に相互接続が含まれていて「木」ではなく「ネットワーク」となっている場合を除く)[1]

真核生物 編集

真核生物と呼ばれるドメイン(domain Eukarya)は、膜で囲まれた細胞小器官(遺伝物質を持つ核を含む)を持ち、植物界Plantae)、原生動物界Protozoa)、動物界Animalia)、クロミスタ界Chromista)、菌界Fungi)の5つの(kingdom)で代表される[1]

2ドメイン系 編集

 
ゲノム配列に基づく2ドメイン系の生命樹の例。生命の2つのドメインは、細菌 (上側) と古細菌 (下側) である。真核生物は古細菌から分岐する (右下)。

2ドメイン系英語版は、生命樹のすべての生物を古細菌と細菌の2つのドメインに分類する生物学的な分類である(真核生物は古細菌に含まれる)[7][8][3]。これには、1980年代にレイクが提唱したエオサイト説が先行したが[9]、当時の証拠により3ドメイン系にほぼ取って代わられた。その後、2017年にアスガルドと呼ばれる古細菌の大きなグループ(上門)が発見され[10]、それが真核生物の進化的ルーツとなり、真核生物が古細菌ドメインのメンバーであることが示唆されたことから、2ドメイン系はより広く受け入れられるようになった[11]

アスガルド古細菌の特徴が3ドメイン系を直接否定するものではなく[12][13]、真核生物は古細菌に由来し、したがって古細菌に属するという考え方は、遺伝子プロテオミクスの研究によって強化されている[14]。3ドメイン系の場合、真核生物は主に、古細菌や細菌には見られない「真核生物のシグネチャータンパク質」の存在によって区別される。しかし、アスガルドにはそのようなタンパク質をコードする遺伝子が複数存在しており、これは「真核生物のシグネチャータンパク質」は古細菌に由来することを示唆している[3]

最上位の分類体系の比較 編集

生物の最高階級の分類は、基礎をなすゲノムの進化の違いや細胞の基本的な構造に基づいており、前提となる系統樹の違いによりさまざまな分類方法が提案されている。次にいくつかの例を示す。

2帝系 (1998)
1998年に、エルンスト・マイヤーが提案した2帝系英語版は、生物全体を原核生物(またはモネラ)と真核生物の2つの最上位グループに分けるものである[15][16]
エオサイト説 (1984)
1984年に、ジェームス・A・レイク英語版らが提案したエオサイト説[17]は、細菌と古細菌という2つのドメインを仮定し、真核生物は古細菌から分岐した下位クレードに含むとする[18][17][19]
5ドミニオン系 (2012)
ウーズらによる3ドメイン系には、プリオンウイルスのような細胞以外の生命英語版は含まれていない。2012年、Stefan Luketaは、従来の3ドメイン系に Prionobiota(無細胞で核酸を持たない)と Virusobiota(無細胞だが核酸を持つ)を加えた5ドミニオン系を提案した[20]。(参考: ウイルスの分類
2スーパードメイン
Acytota/Aphanobionta と呼ぶ非細胞生命英語版を分類の最上位に位置づけた研究者もいる[21]。これにより、非細胞生命と細胞生命の2つのスーパードメインが定義される可能性があるが、議論の余地もある。
無細胞生物を含めた生物学的分類
分類学的ルートノード 2スーパードメイン
(議論あり)
2帝系英語版 3ドメイン系英語版 5ドミニオン[20]
5 6界 エオサイト説
2ドメイン系英語版
生物群 / 生命

Biota / Vitae / Life
非細胞生物
非細胞生命英語版

Acytota / Aphanobionta
Virusobiota (ウイルス, ウイロイド)

Virusobiota (Viruses, Viroids)
Prionobiota (プリオン)

Prionobiota (Prions)
細胞生物

Cytota
原核生物
(モネラ)

Prokaryota / Procarya
(Monera)
細菌

Bacteri
細菌

Bacteria
モネラ

Monera
真正細菌

Eubacteria
細菌

Bacteria
古細菌

Archae
古細菌

Archaea
古細菌

Archaebacteria
古細菌 (真核生物を含む)

Archaea incl. eukaryotes
真核生物

Eukaryota/Eukarya
原核生物界 Protista
菌界 Fungi
植物界 Plantae
動物界 Animalia

関連項目 編集

  • 生物学的暗黒物質英語版 - 未分類またはよく理解されていない遺伝物質を指す非公式の用語
  • ネオムラ - 古細菌と真核生物の2つの生命ドメインから構成されるクレードの提案
  • 系統学 - 生物のグループ間またはグループ内の歴史と関係を研究する学問
  • タンパク質構造 - アミノ酸鎖分子内の原子の三次元配置
  • レルム (ウイルス学)英語版 - ウイルス分類学における最高位の分類階級
  • 体系学 - 生物の多様化や生物間の時間的関係を研究する学問

脚注 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j Woese C, Kandler O, Wheelis M (1990). “Towards a natural system of organisms: Proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya”. Proc Natl Acad Sci USA 87 (12): 4576–4579. Bibcode1990PNAS...87.4576W. doi:10.1073/pnas.87.12.4576. PMC 54159. PMID 2112744. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC54159/. 
  2. ^ a b Moore R.T. (1974). “Proposal for the recognition of super ranks”. Taxon 23 (4): 650–652. doi:10.2307/1218807. JSTOR 1218807. http://www.iapt-taxon.org/historic/Congress/IBC_1975/Prop034bis-037.pdf. 
  3. ^ a b c d Nobs, Stephanie-Jane; MacLeod, Fraser I.; Wong, Hon Lun; Burns, Brendan P. (2022). “Eukarya the chimera: Eukaryotes, a secondary innovation of the two domains of life?”. Trends in Microbiology 30 (5): 421–431. doi:10.1016/j.tim.2021.11.003. PMID 34863611. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0966842X21002699. 
  4. ^ Doolittle, W. Ford (2020). “Evolution: Two domains of life or three?”. Current Biology 30 (4): R177–R179. doi:10.1016/j.cub.2020.01.010. PMID 32097647. 
  5. ^ Cox, C.J.; Foster, P.G.; Hirt, R.P.; Harris, S.R.; Embley, T.M. (2008). “The archaebacterial origin of eukaryotes”. Proc Natl Acad Sci USA 105 (51): 20356–61. Bibcode2008PNAS..10520356C. doi:10.1073/pnas.0810647105. PMC 2629343. PMID 19073919. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2629343/. 
  6. ^ Domains of Life, Genomics | Learn Science at Scitable” (英語). www.nature.com. 2022年12月1日閲覧。
  7. ^ a b Bolshoy, Alexander; Volkovich, Zeev (Vladimir); Kirzhner, Valery; Barzily, Zeev (2010), “Biological Classification”, Genome Clustering, Studies in Computational Intelligence (Berlin, Heidelberg: Springer Berlin Heidelberg) 286: pp. 17–22, doi:10.1007/978-3-642-12952-0_2, ISBN 978-3-642-12951-3, http://link.springer.com/10.1007/978-3-642-12952-0_2 2022年5月14日閲覧。 
  8. ^ a b Raymann, Kasie; Brochier-Armanet, Céline; Gribaldo, Simonetta (2015). “The two-domain tree of life is linked to a new root for the Archaea”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 112 (21): 6670–6675. Bibcode2015PNAS..112.6670R. doi:10.1073/pnas.1420858112. PMC 4450401. PMID 25964353. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4450401/. 
  9. ^ Lake, James A. (1988). “Origin of the eukaryotic nucleus determined by rate-invariant analysis of rRNA sequences”. Nature 331 (6152): 184–186. Bibcode1988Natur.331..184L. doi:10.1038/331184a0. PMID 3340165. 
  10. ^ Zaremba-Niedzwiedzka, Katarzyna; Caceres, Eva F.; Saw, Jimmy H.; Bäckström, Disa; Juzokaite, Lina; Vancaester, Emmelien; Seitz, Kiley W.; Anantharaman, Karthik et al. (2017). “Asgard archaea illuminate the origin of eukaryotic cellular complexity” (英語). Nature 541 (7637): 353–358. Bibcode2017Natur.541..353Z. doi:10.1038/nature21031. OSTI 1580084. PMID 28077874. https://escholarship.org/content/qt0qh5400s/qt0qh5400s.pdf?t=pgp8bj. 
  11. ^ Eme, Laura; Spang, Anja; Lombard, Jonathan; Stairs, Courtney W.; Ettema, Thijs J. G. (10 November 2017). “Archaea and the origin of eukaryotes” (英語). Nature Reviews Microbiology 15 (12): 711–723. doi:10.1038/nrmicro.2017.133. ISSN 1740-1534. PMID 29123225. https://zenodo.org/record/3451113. 
  12. ^ Da Cunha, Violette; Gaia, Morgan; Nasir, Arshan; Forterre, Patrick (2018). “Asgard archaea do not close the debate about the universal tree of life topology” (英語). PLOS Genetics 14 (3): e1007215. doi:10.1371/journal.pgen.1007215. PMC 5875737. PMID 29596428. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5875737/. 
  13. ^ Zhou, Zhichao; Liu, Yang; Li, Meng; Gu, Ji-Dong (2018). “Two or three domains: a new view of tree of life in the genomics era”. Applied Microbiology and Biotechnology 102 (7): 3049–3058. doi:10.1007/s00253-018-8831-x. PMID 29484479. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29484479. 
  14. ^ Williams, Tom A.; Cox, Cymon J.; Foster, Peter G.; Szöllősi, Gergely J.; Embley, T. Martin (2020). “Phylogenomics provides robust support for a two-domains tree of life” (英語). Nature Ecology & Evolution 4 (1): 138–147. doi:10.1038/s41559-019-1040-x. PMC 6942926. PMID 31819234. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6942926/. 
  15. ^ Mayr, E. (1998). “Two empires or three?”. PNAS 95 (17): 9720–9723. Bibcode1998PNAS...95.9720M. doi:10.1073/pnas.95.17.9720. PMC 33883. PMID 9707542. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC33883/. 
  16. ^ Cavalier-Smith, T. (2004). “Only six kingdoms of life”. Proc. R. Soc. Lond. B 271 (1545): 1251–1262. doi:10.1098/rspb.2004.2705. PMC 1691724. PMID 15306349. http://www.cladocera.de/protozoa/cavalier-smith_2004_prs.pdf 2010年4月29日閲覧。. 
  17. ^ a b Lake, J.A.; Henderson, Eric; Oakes, Melanie; Clark, Michael W. (June 1984). “Eocytes: A new ribosome structure indicates a kingdom with a close relationship to eukaryotes”. PNAS 81 (12): 3786–3790. Bibcode1984PNAS...81.3786L. doi:10.1073/pnas.81.12.3786. PMC 345305. PMID 6587394. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC345305/. 
  18. ^ Archibald, John M. (23 December 2008). “The eocyte hypothesis and the origin of eukaryotic cells”. PNAS 105 (51): 20049–20050. Bibcode2008PNAS..10520049A. doi:10.1073/pnas.0811118106. PMC 2629348. PMID 19091952. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2629348/. 
  19. ^ Williams, Tom A.; Foster, Peter G.; Cox, Cymon J.; Embley, T. Martin (December 2013). “An archaeal origin of eukaryotes supports only two primary domains of life”. Nature 504 (7479): 231–236. Bibcode2013Natur.504..231W. doi:10.1038/nature12779. PMID 24336283. https://eprint.ncl.ac.uk/fulltext.aspx?url=199146/704E71B4-8D68-4F3C-93BA-E73C50449593.pdf&pub_id=199146. 
  20. ^ a b Luketa S. (2012). “New views on the megaclassification of life”. Protistology 7 (4): 218–237. オリジナルの2 April 2015時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150402150257/http://protistology.ifmo.ru/num7_4/luketa_protistology_7-4.pdf 2016年10月4日閲覧。. 
  21. ^ Trifonov EN, Kejnovsky E (2016). “Acytota - associated kingdom of neglected life.”. J Biomol Struct Dyn 34 (8): 1641–8. doi:10.1080/07391102.2015.1086959. PMID 26305806. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26305806/. 

外部リンク 編集