ニッケルチタンは、ほぼ等しい原子数のニッケルチタンとで構成される金属間化合物を主とする合金である。ニチノール(Nitinol)、チタンニッケル合金とも呼ばれる。

性質 編集

以下の特異的な性質を示す。この2つの物性は、マルテンサイト変態を通して互いに密接に関連している。

歴史 編集

1959年から1961年にかけてアメリカ合衆国海軍の兵器研究所(NOL: Naval Ordnance Laboratory)で、形状記憶効果を示す金属材料として発見され、1963年に公表された。「ニチノール」という呼称は、ニッケル、チタン及び発見された研究所の略称に由来する。

その後、1981年に宮崎修一らが超弾性を示すことを発見した。[1][2]

結晶構造 編集

B2構造(塩化セシウム型構造)とそれが若干歪んだ単射構造・菱面体構造(マルテンサイト相)を基本とする。ニッケルとチタンとの比率や熱処理条件の微妙な違い、および第3元素の添加等によって、マルテンサイト変態温度及びその逆変態の温度は上下する。[1]

製造方法 編集

チタンが酸素炭素とかなり反応しやすいため、溶融に際しては真空度の高い環境下で行われる。

さらに、凝固後の熱処理もまた、温度制御と時効処理時間設定が求められる。[3]

具体例 編集

メーカー 編集

日本国内では、大同特殊鋼[4]古河テクノマテリアル[5]など複数の企業が製造している。

合金の種類 編集

JIS規格には、以下の合金が収載されている。

ニッケルチタン合金に関するJIS規格
記号 Ni(wt%) Ti(wt%) その他元素(wt%) 特殊効果 出典
TN-SMA 53.5~57.5 残部 形状記憶効果 [6]
TN-SMAH Ni+Cuが53.5~57.5 残部 Cu:3~10 形状記憶効果 [6]
TN-SEA 53.5~57.5 残部 超弾性 [6]
A 53.5~57.5 46.5~42.5 形状記憶効果

超弾性

[7]
B 53.5~57.5 残部 C:0.08以下

O:0.08以下 N:0.05以下 H:0.005以下 Fe:0.05以下 Co:0.05以下

形状記憶効果

超弾性

[7]

用途 編集

形状記憶合金の市場は数千億円規模であるが、そのうちほとんど(95%以上)は本合金が占めている。[1]

形状記憶効果を生かしたもの[4] 編集

超弾性を生かしたもの[4] 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c 宮崎修一 (2012年). “Ti-Ni系形状記憶合金の研究と開発経緯”. まてりあ、第51巻. 日本金属学会. pp. 209-215. 2022年11月23日閲覧。
  2. ^ 宮崎修一 (2014年). “形状記憶合金の基礎研究と材料開発”. まてりあ、第53巻. 日本金属学会. pp. 197-208. 2022年11月23日閲覧。
  3. ^ 形状記憶・超弾性Ni-Ti合金|特性制御・加工・ 応用技術”. 古河テクノマテリアル株式会社. 2022年11月23日閲覧。
  4. ^ a b c 形状記憶合金”. 大同特殊鋼株式会社. 2022年11月23日閲覧。
  5. ^ 形状記憶・超弾性Ni-Ti合金”. 古河テクノマテリアル株式会社. 2022年11月23日閲覧。
  6. ^ a b c 『JIS H 7107:2009 Ti-Ni形状記憶合金線,条及び管』日本産業標準調査会、2009年。 
  7. ^ a b 『JIS T 7404:2013 インプラント用チタン-ニッケル(Ti-Ni)合金』日本産業標準調査会、2013年。