ヒスタミン

活性アミンの一つ

ヒスタミン (histamine) は分子式C5H9N3、分子量 111.14 の活性アミンである。1910年麦角抽出物中の血圧降下物質としてヘンリー・ハレット・デールパトリック・プレイフェア・レイドローが発見した[2]

ヒスタミン
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識別情報
CAS登録番号 51-45-6
KEGG C00388
特性
化学式 C5H9N3
モル質量 111.15 g mol−1
外観 無色固体
融点

83–84 ℃ ([1])

沸点

209–210 ℃ (at 18 mmHg[1])

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

合成・代謝 編集

ヒスタミンは食物から直接体内に取り込まれるほか、生体内で合成される。

体内での合成 編集

 
ヒスチジン脱炭酸酵素によるヒスチジンからヒスタミンへの合成

ヒスタミンはヒスチジン脱炭酸酵素英語版[3] [4] (HDC) により必須アミノ酸であるヒスチジンから合成され、主にヒスタミン-N-メチル基転移酵素[5] [6]ジアミン酸化酵素[7] [8]等で分解され、その後、イミダゾール酢酸[9]となり排出される。肥満細胞中に高濃度で存在し、肝臓粘膜・大脳にも存在し、それぞれの生理機能を担っている。

ヒスチジン脱炭酸酵素の補酵素としては、ビタミンB6の活性型であるピリドキサールリン酸がある。また、ヒスタミン合成を防ぐものとしては、ヒスチジン脱炭酸酵素の阻害を行うカテキン類、メシアダノール英語版ナリンゲニントリトクアリン[10]などが存在する。一部の真菌はヒスタミン遊離を促し、アトピー性皮膚炎を亢進する[11]。一方リンゴポリフェノールは、ヒスタミン遊離を抑制し、アレルギー性鼻炎の症状を緩和する[12]

なお、ヒスタミンの前駆物質であるヒスチジンには、抗酸化作用などの効果があるとされる。また、ヒスタミン前駆物質のヒスチジンはヒスタミン合成だけでなく、カルノシン合成酵素によるカルノシンの合成にも使われている。カルノシン合成には、ATP及びβ-アラニンが必要となる。β-アラニンの摂取はヒスチジン消費によるカルノシンの合成を促進できるものの、β-アラニン自体がヒスタミン非依存性の抗ヒスタミン剤が効かない痒みの原因になりうるとされる[13]

細菌による合成 編集

ヒスタミンを産生する菌は、ヒスチジン脱炭酸酵素を有するもので、Morganella morganii(モルガン菌)[14]Klebsiella oxytoca 及び好塩性菌の Photobacterium phosphoreumPhotobacterium damsela 等が知られている[15]。なお、Photobacterium 属菌の中には0 ℃の低温で増殖するものがある[16]

代謝 編集

ヒスタミンの代謝には、ジアミンオキシダーゼ (DAO)による経路と、ヒスタミン-N-メチルトランスフェラーゼ (HNMT)による経路が存在する。

ジアミンオキシダーゼ (DAO)は銅を含む酵素であり、銅輸送タンパク質のセルロプラスミンはその活性を行うとされている[17] (なお、セルロプラスミンはエストロゲンによって増加するとされる)。また、ニジマスにおける実験では、ステビアに含まれるカリウムがDAOを活性化するとされた[18]

ヒスタミン-N-メチルトランスフェラーゼ (HNMT)による経路は、活性メチオニンであるS-アデノシルメチオニン (SAM)を消費する。

主な作用 編集

肥満細胞のほか、好塩基球ECL細胞がヒスタミン産生細胞として知られているが、普段は細胞内の顆粒に貯蔵されており、細胞表面の抗体抗原が結合するなどの外部刺激により細胞外へ一過的に放出される。また、マクロファージ等の細胞ではHDCにより産生されたヒスタミンを顆粒に貯蔵せず、持続的に放出することが知られている。

血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用があり、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働く。ヒスタミンが過剰に分泌されると、ヒスタミン1型受容体(H1受容体)というタンパク質と結合して、蕁麻疹やアレルギー性疾患の原因となる。

神経組織では神経伝達物質として働き、音や光などの外部刺激および情動、空腹、体温上昇といった内部刺激などによっても放出が促進され、オキシトシン分泌や覚醒状態の維持、食行動の抑制、記憶学習能の修飾など、生理機能を促進することで知られている。

受容体 編集

ヒスタミンは特異的な受容体を介してその作用を発揮する。現在のところ4種のGタンパク質共役型受容体が発見されており、受容体によりヒスタミンが結合したときの作用が異なる。ヒスタミン受容体の作用を抑えるのが抗ヒスタミン薬であるが、成分によって抗アレルギー、胃酸抑制の作用を示す。

食中毒 編集

ヒスタミンが生成された食品を喫食することで起きる食中毒としてヒスタミン食中毒がある[19]。なお、Morganella morganiiによると考えられる、血小板輸血後の敗血性ショック症状も報告されている[20]

原因 編集

ヒスタミンは前述の細菌により合成され、食品中(発酵食品、熟成チーズワイン[16]魚醤、鮮度の落ちた魚)に蓄積される。食中毒の原因となりやすい魚種は一部の赤身魚と加工物[21]

症状 編集

食後30‐60分程度で、舌のしびれ、口の周囲や耳朶など顔面の熱感、じんま疹、頭痛、全身の紅潮等のアレルギー様反応を示すが通常は1日以内で回復する[19]

予防 編集

調理程度の加熱では分解せず[22]、蓄積により味や臭いを変えないため汚染の有無を判断することは困難である[19][22]

予防策としては、保存時の温度管理や鮮度の確認などが重要となる[19]

FAO/WHO合同専門家会議では、魚介類中のヒスタミンについて 50 mg/250 g ( 200 mg/kg ) を無毒性量(NOAEL)としている。[23] これ以上のヒスタミン量では何らかの症状が出る可能性が高くなると予測される。高濃度のヒスタミンを含む食材を口にした際には唇や舌先に刺激を感じることがあり、その場合は食べずに吐き出すことが望ましい。

脚注 編集

  1. ^ a b Merck Index 13th ed., 4739.
  2. ^ The physiological action of β-iminazolylethylamine
  3. ^ histidine decarboxylase: HDC, EC 4.1.1.22
  4. ^ 反応
  5. ^ histamine-N-methyltransferase: HMT, EC 2.1.1.8
  6. ^ 反応
  7. ^ diamine oxidase EC 1.4.3.22
  8. ^ 反応
  9. ^ イミダゾール酢酸
  10. ^ Étude randomisée en double aveugle contre placebo de la tritoqualine hypostamine* dans la rhinite allergique perannuelle (フランス語) Revue Française d'Allergologie et d'Immunologie Clinique 2003年4月
  11. ^ 汗に含まれるアトピー性皮膚炎の悪化因子はカビの1種の産生物 - 広島大 マイナビ 2013年6月10日
  12. ^ Clinical effects of apple polyphenols on persistent allergic rhinitis: A randomized double-blind placebo-controlled parallel arm study. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2006年
  13. ^ Mechanisms of itch evoked by β-alanine The Journal of Neuroscience英語版 2012年
  14. ^ 生食用鮮魚介類等におけるヒスタミン産生菌に関する調査(第2報) (PDF) 宮城県保健環境センター年報 第29号, 2011
  15. ^ 飯田宏美、海瀬好和、相磯和嘉、「ヒスタミンを産生する好塩性細菌について」 『日本衛生学雑誌』 1958年 13巻 3号 p.354-358, doi:10.1265/jjh.13.354
  16. ^ a b ヒスタミン産生菌 東京都福祉保健局
  17. ^ Levels of plasma ceruloplasmin protein are markedly lower following dietary copper deficiency in rodents Comp Biochem Physiol C Toxicol Pharmacol 2010年
  18. ^ ニジマスに対するヒスタミンの影響とステビア成分の解毒機構 塩崎一弘、中野俊樹、山口敏康、佐藤実 2005年
  19. ^ a b c d 第3章 調理室における衛生管理&調理技術マニュアル”. 文部科学省. 2020年6月5日閲覧。
  20. ^ 血小板輸血後に敗血症性ショックを呈し, Morganella morganii 菌による輸血後感染症が強く示唆された1例 (PDF) 日本輸血・細胞治療学会
  21. ^ 加熱しても防げない ヒスタミン食中毒”. www.city.tokyo-nakano.lg.jp. 2023年6月16日閲覧。
  22. ^ a b ヒスタミン食中毒防止マニュアル10.3.9 (PDF) 大日本水産会 国際・輸出促進部 品質管理課
  23. ^ Public Health Risks of Histamine and other Biogenic Amines from Fish and Fishery Products. Joint FAO/WHO Expert Meeting. (2012). p. 34-38. ISBN 978-92-5-107849-5. http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/agns/pdf/Histamine/Histamine_AdHocfinal.pdf 2019年3月7日閲覧。 

関連項目 編集

外部リンク 編集