ビホナゾールINN:bifonazole)とは、外用剤として用いるイミダゾール系抗真菌薬の1つである。例えば、白癬や皮膚のカンジダ症のような、体表部への真菌による感染症の治療のために用いる場合が有る。ただし、爪白癬に対してビホナゾールを用いる場合は、尿素も併用する。

作用機序 編集

 
ビホナゾールの構造。構造中にイミダゾール環が存在する。

ビホナゾールはイミダゾール系抗真菌薬だが、イミダゾール系抗真菌薬とトリアゾール系抗真菌薬を総称して、アゾール系抗真菌薬と呼ぶ場合が有る。このアゾール系抗真菌薬は、一般に24-methylendihydrolanosterolの14番炭素からの脱メチル化反応を触媒する酵素である、lanosterol C-14 demetyylase(別名、P45014DM)を阻害する事により、真菌の細胞の安定性に欠かせないエルゴステロールの生合成を阻害して、真菌に対して打撃を与える[1]

ビホナゾールは、その作用も持つものの、さらに、同じくエルゴステロールの生合成の過程の1つであるHMG-CoAの生合成も阻害するという、エルゴステロールの合成を2箇所で阻害する事により、真菌に対して打撃を与えている[2]

ビホナゾール感受性の真菌に対して、このように2つの作用をする点が、数ある抗真菌薬の中でビホナゾールを特徴付けていると言える[3][2]

作用機序以外の生理活性 編集

ビホナゾールは外用薬であり、内服しないので、問題になり難いものの、一般にビホナゾールも含めたアゾール系抗真菌薬は、ヒトが持つシトクロムP450酵素も阻害する[1]。さらに、ビホナゾールの場合には、in vitroでの話ながら、アロマターゼを阻害する事も判っている[4][5][注釈 1]

薬物動態 編集

ビホナゾールを外用してから6時間後の真皮におけるビホナゾールの濃度は、5 (μg/m3)から1000 (μg/m3)の間であった[3]

副作用 編集

ビホナゾールをヒトに使用した時に、有害作用が出現する場合が有る。最も一般的な副作用としては、ビホナゾールを外用した箇所に熱感を覚える事である。この他、皮膚の掻痒感や乾燥が発生したり、さらに稀な事ながら皮膚炎を引き起こす場合も有る[3]

構造上の特徴 編集

ビホナゾールの化学式は、C22H18N2であり、したがって、分子量は310.4 (g/mol)である[6]。ビホナゾールは構造中にイミダゾール環を持っている他に、ベンゼン環ビフェニルの部分も持っている[注釈 2]。これら3つが結合している炭素はキラル中心である。したがって、ビホナゾールには1組の鏡像異性体が存在するものの、ビホナゾールは光学分割する事なく、ラセミ体として用いられている。なお、ビホナゾールが持つ環状部分は、全て芳香環である。

歴史 編集

ビホナゾールは1974年に特許が取得され、1983年に医薬品として使用する事が許可された[7]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ アロマターゼ阻害薬は、エストロゲンが増殖シグナルとして作用しているタイプの閉経後の乳がんの増殖抑制のために用いる事が有る。レトロゾールアナストロゾールの構造と、ビホナゾールの構造を比較する事も一興かもしれない。なお、同じ用途ながら、アロマターゼを破壊するタイプの薬としてはエキセメスタンが挙げられるものの、エキセメスタンは全く構造が異なる。
  2. ^ 参考までに、ビフェニルを部分構造に持つ薬物としては、外用で使うCOX阻害薬のフェルビナク、経口投与で使うARBのバルサルタンロサルタンなどが有る。

出典 編集

  1. ^ a b 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.236 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  2. ^ a b “Bifonazole and clotrimazole. Their mode of action and the possible reason for the fungicidal behaviour of bifonazole”. Arzneimittel-Forschung 34 (2): 139–46. (1984). PMID 6372801. 
  3. ^ a b c (German) Austria-Codex. Vienna: Österreichischer Apothekerverlag. (2015). Canesten Bifonazol-Creme 
  4. ^ “Inhibition of human CYP19 by azoles used as antifungal agents and aromatase inhibitors, using a new LC-MS/MS method for the analysis of estradiol product formation”. Toxicology 219 (1–3): 33–40. (February 2006). doi:10.1016/j.tox.2005.10.020. PMID 16330141. 
  5. ^ “Mechanism of inhibition of estrogen biosynthesis by azole fungicides”. Endocrinology 155 (12): 4622–8. (December 2014). doi:10.1210/en.2014-1561. PMC 4239419. PMID 25243857. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4239419/. 
  6. ^ Bifonazole(ID:2378)
  7. ^ Fischer, Jnos; Ganellin, C. Robin (2006) (英語). Analogue-based Drug Discovery. John Wiley & Sons. p. 502. ISBN 9783527607495. https://books.google.com/books?id=FjKfqkaKkAAC&pg=PA502 

参考文献 編集