ピストル星[1] (Pistol star[5]) は1990年代の初め、ハッブル宇宙望遠鏡で発見された、それまで観測された銀河系恒星のうち、最も明るい超巨星高光度青色変光星)である。銀河系の中心方向のいて座に位置にある、太陽系から2万5000光年ほどの離れた五つ子星団(Quintuplet cluster) の中にある[4]ピストルの形に似た星雲の中にあるためこの名称で呼ばれる[5]

ピストル星[1]
PISTOL STAR[2]
ハッブル宇宙望遠鏡によるピストル星と星雲の擬似カラー画像。
ハッブル宇宙望遠鏡によるピストル星と星雲の擬似カラー画像。
星座 いて座
見かけの等級 (mv) 7.1 - 7.6(変光)[3]
変光星型 かじき座S型変光星(SDOR)[3]
位置
元期:J2000.0[2]
赤経 (RA, α)  17h 46m 15.240s[2]
赤緯 (Dec, δ) −28° 50′ 03.58″[2]
距離 25000光年
(7665 pc)
絶対等級 (MV) -12.3
物理的性質
半径 306 R[4]
質量 27.5 M[4]
スペクトル分類 LBV
光度 1,600,000 L[4]
表面温度 11,800 K[4]
年齢 300万年[5]
発見
発見年 1990年代
発見者 ハッブル宇宙望遠鏡
他のカタログでの名称
いて座V4647番星[2]
Template (ノート 解説) ■Project

太陽との比較 編集

太陽の約160万倍の光度を持つ[4]。半径は太陽の約300倍とされ、これは、ピストル星が太陽の位置にあるなら火星の軌道の近くまでの大きさである。また、誕生当時の質量は太陽の200倍以上[5]、現在も太陽の27.5倍の質量を持つと考えられている[4]

特徴 編集

外層を吹き飛ばす以前、ピストル星は太陽の200倍以上の質量を持っており、300万年ほど前に生まれたものと考えられる[5]。周囲を囲む星雲は、4,000〜6,000年前に、中心星の外層が吹き飛ばされた10太陽質量ほどの物質によって作られたものと考えられている[5]。質量が非常に巨大であるため物理的に不安定で、しばしば爆発を起こして質量放出を続け、周囲に星雲を形成している。現在は太陽が1年間に放射するのと同量のエネルギーをわずか6秒ほどで放っている。銀河の中心に近く、いて座の方向に地球から約2万5000光年の距離にあり、実際の光度が推定値通りであったならば、地球上では4等星ほどの明るさで見えるとされるが、銀河系の中心部分は多くの星や暗黒星雲などの星間物質が密集しているので、これらが妨げとなって地球上から目視することは不可能である。ハッブル宇宙望遠鏡の、星間物質の影響の小さい赤外線領域の観測によって発見された。

このような大質量星の寿命は短いので、100万年から300万年後の間に超新星になると考えられている。なお、観測史上最も明るい恒星の座は、2004年に発見されたLBV 1806-20に譲ることとなった。

改めて観測した結果により、ピストル星の明るさを下方修正する意見もあり、 中には太陽の200万倍以下という説もある。

脚注 編集

  1. ^ a b HSTがもっとも明るい恒星を捉えた”. AstroArts (1997年10月9日). 2017年8月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e Results for [FMM95] 3”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年8月27日閲覧。
  3. ^ a b Results for V4647 Sgr”. GCVS. 2015年10月14日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g Najarro, Francisco et al. (2009). “Metallicity in the Galactic Center: The Quintuplet Cluster”. The Astrophysical Journal 691 (2): 1816-1827. arXiv:0809.3185. Bibcode2009ApJ...691.1816N. doi:10.1088/0004-637X/691/2/1816. ISSN 0004-637X. 
  5. ^ a b c d e f "Hubble Identifies What May Be the Most Luminous Star Known". Hubblesite (Press release). NASA. 8 October 1997. 2017年8月27日閲覧

関連項目 編集