フー・ケイム・ファースト

ピート・タウンゼントのアルバム

フー・ケイム・ファースト』(Who Came First)は、イングランドロックミュージシャンザ・フーのギタリストとして知られるピート・タウンゼントが、1972年に発表した初のソロ・アルバムである[注釈 1]

フー・ケイム・ファースト
ピート・タウンゼントスタジオ・アルバム
リリース
録音 イングランドの旗ロンドンイール・パイ・スタジオ
プロデュース ピート・タウンゼント
ピート・タウンゼント アルバム 年表
フー・ケイム・ファースト
(1972年)
エンプティ・グラス
(1980年)
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解説 編集

経緯 編集

タウンゼントは、1967年に友人でイラストレーターのマイケル・マッキナニー(Michael McInnerney)が持っていたCharles Purdom著のThe God-Man: The Life, Journeys & Work of Meher Baba with an Interpretation of His Silence & Spiritual Teachingを読んでインドの導師メヘル・バーバーの教えを知り、深い影響を受けた[1]

ユニヴァーサル・スピリチュアル・リーグは、1931年にイングランドでも教示活動を行ない始めたバーバーの教えを広めるために、1949年にロンドンに設立された[2]。この団体は、バーバーが他界した翌年の1970年に彼の75回目の誕生日を祝ってアルバム『ハッピー・バースデイ』を2500部限定生産して信奉者に向けて発売し[3]、1972年2月にはバーバーの三回忌を記念してアルバム『アイ・アム』を制作して1500部を限定発売した。タウンゼントは、友人のロニー・レーン[注釈 2][4]スモール・フェイセズフェイセズ)やシンガー・ソングライタービリー・ニコルス[注釈 3]ら、バーバーの信奉者であるミュージシャン、作曲家、詩人、臨床心理学者などと共にこれらのアルバムの制作に参加して、楽曲を提供した。

やがてザ・フーや音楽の愛聴者の間でこの2作のアルバムを聴きたいという希望が広がり、粗悪なコピーが海賊盤として出回った[5]。 そこでタウンゼントは急遽、収録曲から4曲を選び、未発表音源を加えて編集して、1972年9月29日に本作を発表した[6]

内容 編集

表ジャケットに写るタウンゼント[注釈 4]は胸にバーバーのバッチをつけている。ジャケットの他の部分にはバーバーの写真が掲載され、アルバムにはマイケル・マッキナニーのイラストが添付された。

全9曲の収録曲の内訳は、タウンゼントの名義で彼の単独作もしくは共作が6曲、タウンゼント名義でレイ・ベイカー(Ray Baker)の作品が1曲、レーンの名義で彼の自作が1曲、ニコルスの名義で彼がマイケル・マッキナニーの夫人のケイトと共作した曲が1曲である。

タウンゼンドはレーン名義の'Evolution'とニコルス名義の'Forever's No Time At All'の2曲を除いて、ヴォーカル、全ての楽器演奏、プロデュース、レコーディング・エンジニアリング、ミキシングを担当した[7]

以下、曲名に続く括弧は作者を示す。

バーバー関連 編集

  • Content (Maud Kennedy, Pete Townshend)
  • Parvardigar (Pete Townshend. Adapted from Meher Baba's Universal Prayer)
  • Evolution (Ronnie Lane)
  • Forever's No Time At All (Billy Nicholls, Kate McInnerney)

以上4曲は既出で、'Content'とレーン名義の'Evolution'は『ハッピー・バースデイ』(1970年)、'Parvardigar'とニコルス名義の'Forever's No Time At All'は『アイ・アム』(1972年)に収録された。

'Content'はモード・ケネディ(Maud Kennedy[8]の詩、'Parvardigar'はバーバーの祈りの言葉である"Universal Prayer"にタウンゼンドが曲をつけたものである。

'Evolution'ではレーンがヴォーカルとギターを担当し、タウンゼントもギターを演奏した。'Forever's No Time At All'にはニコルスとギタリストのケイレブ・クエイ(Caleb Quaye[注釈 5]が参加し、タウンゼントは演奏には関与していない。

  • There's a Heartache Following Me (Roy Baker)

この曲は初出で、原曲は1964年にジム・リーヴス(Jim Reeves)によって発表され[9]、バーバーが愛聴した[注釈 6]

『ライフハウス』 編集

  • Pure and Easy (Pete Townshend)
  • Let's See Action (Pete Townshend)
  • Time is Passing (Pete Townshend)

以上の3曲は初出で、タウンゼンドがザ・フーの新作アルバムとして計画した『ライフハウス』の為に制作したデモ音源である。'Let's See Action'は1971年にザ・フーによって録音され、同年10月にヨーロッパでシングルとして発表された[10]

その他 編集

  • Sheraton Gibson (Pete Townshend)

この曲は初出である。ザ・フーの1970年のツアーの途中で書かれた曲で、ツアーを嫌うタウンゼントの心情を扱った[6]

収録曲 編集

LP

Side One
#タイトル作詞・作曲タウンゼントによる注釈時間
1.「Pure and Easy」Pete TownshendCentral pivot for the "LifeHouse." A film we never made.
2.「Evolution」Ronnie LaneRonnie Lane sings and plays guitar. I play lead accoustic.
3.「Forever's No Time At All」Billy Nicholls-Kate McInnerneyThe words of this were written by Mike McInnerney's wife Katie. Billie Nicholls sings and plays accoustic. Caleb Quaye plays everything else.
4.「Let's See Action」TownshendAnother song from "LifeHouse."
合計時間:
Side Two
#タイトル作詞・作曲タウンゼントによる注釈時間
1.「Time Is Passing」TownshendI played this to Baba's mandal's and followers when I went to India this year.
2.「There's a Heartache Following Me」Ray BakerOriginally recorded by J. Reeves. Baba's other favorite songs he also loved "Begin the Beguine".
3.「Sheraton Gibson」TownshendOn the mad again.
4.「Content」Maud Kennedy, TownshendA poem by Maud Kennedy. I put it to music and sing it like Vera Lynn.
5.「Parvardigar」Townshend. Adapted from Meher Baba's Universal Prayer. 
合計時間:

CD
1992年にライコディスクが発売したCDには、『ハッピー・バースデイ』とユニヴァーサル・スピリチュアル・リーグが1976年に制作したアルバム『ウィズ・ラヴ』の収録曲がボーナス・トラックとして追加された。

Rykodisc (RCD 10246)
#タイトル作詞・作曲起源時間
1.「Pure and Easy」Pete TownshendLifehouse Demo
2.「Evolution」Ronnie Lane"Happy Birthday"
3.「Forever's No Time At All」Billy Nicholls-Kate McInnerney"I Am"
4.「Let's See Action」TownshendLifehouse Demo
5.「Time Is Passing」TownshendLifehouse Demo
6.「There's a Heartache Following Me」Ray Baker 
7.「Sheraton Gibson」Townshend 
8.「Content」Maud Kennedy, Townshend"Happy Birthday"
9.「Parvardigar」Townshend. Adapted from Meher Baba's Universal Prayer."I Am"
10.「His Hands」Townshend"With Love"
11.「The Seeker」Townshend"Happy Birthday"
12.「Day Of Silence」Townshend"Happy Birthday"
13.「Sleeping Dog」Townshend"With Love"
14.「The Love Man」Townshend"Happy Birthday"
15.「Lantern Cabin」Townshend"With Love"
合計時間:

参加ミュージシャン 編集

以下、番号はCDのトラックを示す。

  • Pete Townshend – 全て(#1, #4-9)、アコースティック・ギター(#2)
  • Ronnie Lane – ヴォーカル、ギター(#2)
  • Billy Nicholls – ヴォーカル、アコースティック・ギター(#3)
  • Caleb Quaye – アコースティック・ギター以外の楽器(#3)

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 発表当時の邦題は『現人神』。
  2. ^ レーンは1968年にタウンゼントと親しくなり、バーバーの教えについて熱心に語るタウンゼントに触発されて信棒者になった。
  3. ^ 1968年にデビュー・アルバムWould You Believeでデビュー。当時彼はスモール・フェイセズと同じレコード会社に所属しており、このアルバムの制作にはレーンを含んだスモール・フェイセズのメンバー全員が参加した。
  4. ^ 撮影者は、ザ・フーのロジャー・ダルトリーの従兄弟に当たる写真家のグラハム・ヒューズ(Graham Hughes)である。
  5. ^ クエイはエルトン・ジョンにとって初めてのプロフェッショナルな活動の場であったブルース・バンドのブルーソロジー(Bluesology)のギタリストで、ジョンのデビュー・シングル'I've Been Loving You'(1968年)をプロデュースしてギターを担当したことで知られる。
  6. ^ タウンゼントは『ハッピー・バースデイ』にバーバーのもう一つの愛聴曲だった「ビギン・ザ・ビギン」を提供した。

出典 編集

  1. ^ petetownshend.net”. 2023年7月29日閲覧。
  2. ^ meherbaba.co.uk”. 2023年9月16日閲覧。
  3. ^ Neill & Kent (2007), p. 253.
  4. ^ Townshend (2012), p. 138.
  5. ^ Neill & Kent (2007), p. 298.
  6. ^ a b Neill & Kent (2007), p. 309.
  7. ^ Neill & Kent (2007), pp. 300, 309.
  8. ^ meherbabatravels.com”. 2023年9月16日閲覧。
  9. ^ Discogs”. 2023年9月16日閲覧。
  10. ^ Neill & Kent (2007), p. 292.

引用文献 編集

  • Neill, Andy; Kent, Matt (2007). Anyway Anyhow Anywhere: The Complete Chronicle of The Who 1958-1978. London: Virgin Books. ISBN 978-0-7535-1217-3 
  • Townshend, Pete (2012). Who I Am. London: HarperCollins. ISBN 978-0-00-747916-0 

関連項目 編集