(1S)-(−)-ベルベノン
構造式
IUPAC名(1S,5S)-4,6,6-トリメチルビシクロ-[3.1.1]ヘプタ-3-エン-2-オン(系統名)
ピナ-2-エン-4-オン(許容慣用名より誘導)
分子式C10H14O
分子量150.22
CAS登録番号1196-01-6
形状無色液体
密度0.975 g/cm3, 液体 (20 °C)
沸点227–228 °C
比旋光度 [α]D−177±5°, neat, 20 °C

ベルベノン (verbenone) は天然に存在する有機化合物で、テルペノイドの一種である。特徴的な芳香を持つ。二環性のケトンで、天然にはさまざまな種類の植物にみられる。名称の由来となったバーベナの精油の主成分であるほか、ローズマリー油中にも存在する。

化学 編集

水にはほとんど溶けないが、大部分の有機溶媒とは混和する[1]

α-ピネン酸化によって合成できる[2][3]

 

光照射を用いた転位反応によって、クリサンテノンに変換することができる[4]

用途 編集

駆虫薬 編集

キクイムシの一種 Dendroctonus frontalis はアメリカ合衆国南東部においてマツに被害を与えている。キクイムシの繁殖は、ベルベノンなど天然に存在する化合物の割合を変化させることによって操作することができる。繁殖のために、キクイムシは群れを成してマツの木に集まるが、このときさまざまな化合物が宿主となっているマツやキクイムシから分泌され、同種のキクイムシが誘引される。成虫・幼虫の数がそのマツの木によって保持できる限界を超えると、さらに余分なキクイムシが集まってこないよう妨げるための信号となる化合物が作り出される。森林の管理者は多くの場合、木を伐採することによってキクイムシの感染を防ごうとし、時には感染した木とその周りの(健康な)木を燃やすことによって対処する。そのあと、ベルベノンが入った袋を付近の木に吊り下げ、キクイムシを退散・混乱させる[5]

その他 編集

快い香りを持つため、合成品やベルベノンを多く含む植物精油は、香料アロマセラピーハーブティー香辛料薬草として利用される。L-ベルベノンはレボベルベノンと呼ばれ、鎮咳薬として用いられる。また、抗微生物活性を持つ可能性があるとされている[6]

参考文献 編集

  1. ^ Merck Index, 11th Edition, 9862.
  2. ^ Bain, J. P.; Gary, W. Y. (Glidden Co.) (1959). “Production of oxygenated terpenes from alpha-pinene.” U.S. Patent 2,911,442
  3. ^ Sivik, M. R.; Stanton, K. J.; Paquette, L. A. (1995). "(1R,5R)-(+)-Verbenone of high optical purity." Org. Synth. 72: 57.
  4. ^ Erman, W. F. (1967). “Photochemical transformations of unsaturated bicyclic ketones. Verbenone and its photodynamic products of ultraviolet irradiation.” J. Am. Chem. Soc. 89: 3828–3841. doi:10.1021/ja00991a026.
  5. ^ アメリカ合衆国環境保護庁 Pesticide Fact Sheet #128986.
  6. ^ Santoyo, S.; Cavero, S.; Jaime, L.; Ibanez, E,; Senorans, F. J.; Reglero, G. (2005). “Chemical composition and antimicrobial activity of Rosmarinus officinalis L. essential oil obtained via supercritical fluid extraction.” J. Food Prot. 68 (4): 790–795. PMID 15830672.