マルヒラアジ学名 :Carangoides coeruleopinnatus)はアジ科に属する海水魚である。インド洋と西太平洋熱帯亜熱帯域に広く生息し、日本でも南日本でみられる。全長30 cm程度の中型魚で、単独か小さな群れで水深の深い岩礁サンゴ礁をゆっくりと泳いでいることが多い。漁業釣りの対象となることはほとんどないが、食用としては美味とされる。1980年代まで独立種として扱われていたキイヒラアジ(学名: Carangoides uii)は、現在では本種に統合されている。

マルヒラアジ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: アジ科 Carangidae
: ヨロイアジ属 Carangoides
: マルヒラアジ
C. coeruleopinnatus
学名
Carangoides coeruleopinnatus
(Rüppell, 1830)
シノニム
  • Caranx coeruleopinnatus
    Rüppell, 1830
  • Caranx caeruleopinnatus
    Rüppell, 1830
  • Carangoides caeruleopinnatus
    (Rüppell, 1830)
  • Citula coeruleopinnata
    (Rüppell, 1830)
  • Carangoides ophthalmotaenia
    Bleeker, 1852
  • Carangoides altissimus
    Jordan & Seale, 1905
  • Caranx formosanus
    Jordan & Snyder, 1908
  • Caranx uii
    Wakiya, 1924
  • Carangoides uii
    (Wakiya, 1924)
  • Citula diversa
    Whitley, 1940
和名
マルヒラアジ
英名
Coastal trevally
おおよその生息域

分類と名称 編集

マルヒラアジはスズキ目アジ科ヨロイアジ属Carangoidesに属する[2][3]

本種は1830年に紅海サウジアラビア沖で得られた標本ホロタイプとして、ドイツ博物学者エドゥアルト・リュッペルによって初記載されている。彼はこの時本種をギンガメアジ属Caranxに分類し、Caranx coeruleopinnatusという学名を与えた。種小名coeruleopinnatusは「ヒレの青い」という意味だが、本種の特徴には合致しないため、命名にあたりリュッペルが他種と混同していた可能性が指摘されている[4]。この記載文を含む書籍が出版された時、おそらく誤植によってCaranx caeruleopinnatusという学名が掲載されてしまい、この誤った学名を用いている文献も広く存在する[5]。 本種はその後、現在ではシマアジ属 PseudocaranxのシノニムになっているCitula属に移されたのち、ヨロイアジ属Carangoidesに移されて現在に至る。本種は他にも5回独立に再記載されている。中でも1924年に脇谷洋次郎が記載したキイヒラアジCarangoides uiiは実際には本種の若い個体に過ぎなかったが、1986年にWilliam Smith-Vanizによって本種に統合されるまでは広く独立種として扱われていた[5][6]

形態 編集

 
マルヒラアジ
Carangoides coeruleopinnatus

強く側扁して、背側の方が腹側よりも膨らんだ、卵円型の体型を持つ[7]。中型の種であり、最大で全長41 cmに達するが、よくみられるのは30 cmほどの個体である[8]

背鰭は二つの部分に分かれ、第1背鰭は8から、第2背鰭は1棘、20-23軟条からなる[9]。第二背鰭の棘は幼魚では糸状に伸長するが、加齢とともに短くなり、成魚では頭長よりも短くなる。臀鰭は前方に2本の遊離棘があり、それに1棘と16-20軟条が続く[10]。口は大きく、斜位で開く。両顎には絨毛状歯帯が存在する。尾柄は細く、尾鰭は深く二叉する[6]側線は前方で緩やかな曲線を描き、曲線部と直線部は背鰭の第12-14軟条の直下で交わる。側線の直線部には16-20の稜鱗が存在する[7]。胸部腹側の無鱗域は腹鰭の基底部から胸鰭の基部まで広がる。鰓耙数は合計で21-27、椎骨数は24である[7]

生時の体色は背側で青緑色で、腹側にかけて銀白色になるほか、体側面には無数の小さな黄色斑点が存在する。鰓蓋の上端には小さな暗色斑点が存在する。背鰭と尾鰭は灰白色だが、尾鰭はしばしばわ僅かに黄色味を帯びる。胸鰭は薄い黄色で、腹鰭は無色透明から灰色である[9]

分布 編集

 
釣り上げられたマルヒラアジ

本種はインド洋太平洋西部の熱帯亜熱帯域に広く生息する[7]。分布の西限は南アフリカ沖やマダガスカルを含むアフリカ東岸で、分布域はそこから紅海ペルシャ湾、そしてインドスリランカまで広がっている。分布域はそのまま東南アジアの国々や中国の沿岸へと広がり、インドネシアオーストラリア北部まで伸びる。分布域の北限は台湾日本で、東にはトンガサモアニューカレドニアなどの太平洋の島々まで広がっている[8]

日本においては三重県以南の南日本でみられる[6]

成魚は沿岸部の水深の深いところにある岩礁やサンゴ礁でよくみられ、岸の近くでみられるのは稀だが[7]浮魚のような性質も持つと考えられている[11]。 幼魚は南アフリカのエスチュアリー[12]、オーストラリア北部の浅い[13]で記録されているが、本種の回遊の詳細についてはほとんどわかっていない。他のアジ科魚類と同じく、海面の浮遊物に集まる傾向がある[14]

生態 編集

本種の生態についてはあまり研究が進んでいない。小さな群れを作るか単独で泳ぎ、オキアミシャコ、小魚、イカなどの小型動物を捕食することは知られている[15]。歯が小さく貧弱なため、大きな獲物は捕食することができないと考えられる。 他のアジ科魚類と比べると泳ぎは遅い[15]。繁殖などについては不明である。

人間との関係 編集

生息域全域において漁業の主対象となることはほとんどないが、エビや他の魚類を対象にした漁業において混獲されることがある[5][7]。水深の深いところに生息することから、釣りの対象となることも少ない[15]。しかし、食用魚としては美味であり、アジアの国々では時として商業価値を持つことがある[6][15]

出典 編集

  1. ^ The IUCN Red List of Threatened Species (2016)
  2. ^ "Carangoides coeruleopinnatus" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2008年8月29日閲覧
  3. ^ マルヒラアジ”. 日本海洋データセンター(海上保安庁) (2009年). 2019年7月15日閲覧。
  4. ^ Hosese, D.F.; Bray, D.J.; Paxton, J.R.; Alen, G.R. (2007). Zoological Catalogue of Australia Vol. 35 (2) Fishes. Sydney: CSIRO. pp. 1150. ISBN 978-0-643-09334-8 
  5. ^ a b c Gunn, John S. (1990). “A revision of selected genera of the family Carangidae (Pisces) from Australian waters”. Records of the Australian Museum Supplement 12: 1–78. doi:10.3853/j.0812-7387.12.1990.92. 
  6. ^ a b c d 阿部宗明『原色魚類大圖鑑』北隆館、1987年、537,539頁。ISBN 4832600087 
  7. ^ a b c d e f Carpenter, Kent E.; Volker H. Niem, eds (2001). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volume 4: Bony fishes part 2 (Mugilidae to Carangidae). Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations. pp. 2694. ISBN 92-5-104587-9. ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/009/x2400e/x2400e52.pdf 
  8. ^ a b Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2008). "Carangoides coeruleopinnatus" in FishBase. September 2008 version.
  9. ^ a b Randall, John Ernest; Roger C. Steene; Gerald R. Allen (1997). Fishes of the Great Barrier Reef and Coral Sea. University of Hawaii Press. pp. 161. ISBN 0-8248-1895-4 
  10. ^ Lin, Pai-Lei; Shao, Kwang-Tsao (17 April 1999). “A Review of the Carangid Fishes (Family Carangidae) From Taiwan with Descriptions of Four New Records”. Zoological Studies 38 (1): 33–68. http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=10055944. 
  11. ^ McGrouther, M. (2005年). “Onion Trevally, Carangoides caeruleopinnatus (Rüppell, 1830)”. Find a Fish. Australian Museum Online. 2008年9月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月20日閲覧。
  12. ^ Blaber, S.J.M.; Cyrus, D.P. (1983). “The biology of Carangidae (Teleostei) in Natal estuaries”. Journal of Fish Biology 22 (2): 173–188. doi:10.1111/j.1095-8649.1983.tb04738.x. 
  13. ^ Baker, R.; Sheppard, R. (2006). Fisheries resources of Albatross Bay, Gulf of Carpentaria. Information Series: QI06062. Queensland Department of Primary Industries and Fisheries. pp. 1–93. ISSN 0727-6273. http://www.seagrasswatch.org/Info_centre/Publications/Fisheries_Resources_of_Albatross_Bay.pdf 
  14. ^ Morton, B. (ed) (1998). The Marine Biology of the South China Sea III: Proceedings of the Third International Conference on the Marine Biology of the South China Sea : Hong Kong, 28 October–1 November 1996. Hong Kong University Press. pp. 484. ISBN 962-209-461-9 
  15. ^ a b c d van der Elst, Rudy; Peter Borchert (1994). A Guide to the Common Sea Fishes of Southern Africa. New Holland Publishers. pp. 142. ISBN 1-86825-394-5