ミンコフスキーの定理は凸体の中の格子点の存在に関する定理で、原点に関して対称な凸集合は体積が十分大きいとき、必ず原点以外の格子点を有することを主張している。ヘルマン・ミンコフスキーによって証明され、二次形式の研究に用いられた。 凸体と格子点の関係に関する研究は数の幾何学へと発展し、二次形式のほか、代数体単数イデアル類群の性質の研究、ディオファントス近似など数論の様々な領域に応用されている。

内容 編集

LR n 上の格子とし、 d (L) を L に対応する行列行列式とする。 Rn 内の、原点に関して対称で体積が   より大きい凸集合は、その内部に原点とは異なる L 上の点を有する[1]

特に体積が 2n より大きい、原点に関して対称な Rn 内の凸集合は必ず原点とは異なる整数点を有する。

証明 編集

R n の部分集合 S に対して V (S) を S の体積とする。 まず、次のBlichfeldtの定理英語版から証明する。[2]

Blichfeldt の定理 編集

S を体積が d (L) より大きな凸集合とすると、SL を法として互いに合同な2点をもつ。つまり

 

となる   がとれる。これは次のように証明できる。

L基底   をとり

 

をこの基底に対する L の基本領域とすると

 

が成り立つ。

 

に対して

 

を対応させる。 fR n から F への写像で、

 

が成り立つ。さらに f は平行移動の貼り合わせであらわされるから、 fS 上で単射ならば   となるはずである。しかし fF に含まれるから

 

となる。よって fS 上単射ではないので

 

となる点   がとれる。

 

だから

 

である。

ミンコフスキーの定理の証明 編集

SRn 内の、原点に関して対称で体積が   より大きい凸集合とする。

 

とおく。  だから   なので Blichfeldtの定理より

 

となる2点   がとれる。   が成り立ち、 S は原点に関して対称だから   も成り立つ。 S は凸集合なので   である。一方で

 

であるから S は原点とは異なる L 上の点   を有する。

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ミンコフスキーの定理の系として、一次形式に関する次の定理が導かれる。

 

n =r +2s 個の一次形式とし、そのうち l1, l2, ..., lr は実係数を持ち、 l r +jl r +s +j ( j = 1, 2, ..., s ) は互いに共役なものとする。さらに係数の行列式 Δ ≠ 0 とする。

ここで k1, k2, ..., kr +s が実数で

 

を満たすならば、

 

となる整数 x1, x2, ..., xn が存在する。

また k1, k2, ..., kr +s が実数で

 

を満たすならば、

 

となる整数 x1, x2, ..., xn が存在する。

応用 編集

ミンコフスキーはこの定理を二次形式の簡約化に用いた。さらに、整数を二次形式によって現す問題にも応用されている。 たとえばフェルマーの二平方定理は円盤内のある格子上の点の問題に、ラグランジュの四平方定理は4次元空間の超球体内のある格子上の点の存在に帰着させることで、ミンコフスキーの定理を用いて証明することができる[3]

ミンコフスキーの定理の系から、r 個の実共役と 2s 個の(つまり s 対の共役対からなる)複素共役をもつ n =r +2s 次の、判別式 Δ をもつ代数体の イデアル類群のそれぞれの類はノルムが

 

を超えない(整)イデアルを含むことが従う。これをミンコフスキー限界という。

二平方定理の証明 編集

上記のようにミンコフスキーの定理からフェルマーの二平方和定理を証明することができる[4]。 実際 p  の形の素数とすると

 

となる t がとれる(p を法として位数4の剰余類から数をひとつ選べばよい)。

 

となる点   全体は   を基底とする格子 L と一致し、  が成り立つ。 原点を中心とする半径   の開円盤は面積   の、原点に関して対称な凸集合であるからミンコフスキーの定理より、原点とは異なる L の格子点   を含む。

 

であるから

 

である。一方   は原点ではなく、かつ原点からの距離は   より小さいから

 

である。よって

 

が成り立ち、 p は2つの平方数の和であらわされる。


脚注 編集

  1. ^ Cassels (1997, pp. 71–72, Chapter III.2.2, Theorem II), Nathanson (1996, pp. 175–176, Chapter 6.2, Theorem 6.4)
  2. ^ Cassels (1997, pp. 68–69, Chapter III.2, Theorem I), Nathanson (1996, p. 175, Chapter 6.2, Lemma 6.1)
  3. ^ Cassels (1997, pp. 98–102, Chapter III.7), Nathanson (1996, pp. 177–179, Chapter 6.3) など
  4. ^ Cassels (1997, p. 99, Chapter III.7.2)

関連項目 編集

参考文献 編集

  • J. W. S. Cassels, (1959, 1971, 1997). An Introduction to the Geometry of Numbers,. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-642-62035-5. ISBN 978-3-642-62035-5 
  • John Conway and Neil J. A. Sloane, (1999). Sphere Packings, Lattices and Groups. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-1-4757-6568-7. ISBN 978-1-4757-6568-7 
  • Hancock, Harris (1964, 2005). Development of the Minkowski Geometry of Numbers, vol I, II. Dover (旧版 The MacMillan, 1939) 
  • Pascale Gruber and C. G. Lekkerkerker (1987). Geometry of Numbers. Elsevier. ISBN 9780080960234 
  • Melvyn B. Nathanson, (1996). Additive Number Theory: Inverse Problems and the Geometry of Sumsets (Graduate Texts in Math. 165). Springer-Verlag. ISBN 978-0-387-94655-9 
  • Wolfgang M. Schmidt, (1980). Diophantine approximation (Lecture Notes in Math. 785). Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-540-38645-2. ISBN 978-3-540-38645-2 
  • Wolfgang M. Schmidt, (1991). Diophantine Approximations and Diophantine Equations (Lecture Notes in Math. 1467). Springer-Verlag. doi:10.1007/BFb0098246. ISBN 978-3-540-47374-9