イプシロン(Y、Ypsilon)は、イタリアの自動車製造会社ランチアが製造している乗用車。ランチアはフィアットグループの高級車部門を担っており、そのプレミアム・コンパクトカーと位置づけられるのがイプシロンである。

初代(Y、1994年-2002年) 編集

ランチア・イプシロン(初代)
 
概要
販売期間 1994年 - 2002年
ボディ
ボディタイプ 3ドアハッチバック
駆動方式 前輪駆動
パワートレイン
エンジン 1.2L
1.4L
変速機 5/6速MT
CVT
車両寸法
ホイールベース 2,380 mm
全長 3,723 mm
全幅 1,690 mm
全高 1,435 mm
系譜
先代 アウトビアンキ/ランチア・Y10
テンプレートを表示
 
初代イプシロン・エンジンルーム
 
マイナーチェンジ後のリアビュー

Yと書いて日本ではイプシロンと発音する。ランチアは伝統的にギリシャ文字を多く車名に使ってきたが、これもまた伝統に則ったものと言える。

アウトビアンキ/ランチア・Y10に代わるスモールモデルとして1994年にデビューした。途中バンパーやサイドモールの形状が変わるなど大幅な変更を経て2002年に2代目が出るまで製造された。

ボディデザインを担当したのはピニンファリーナ出身でこの時期ランチアのチェントロスティーレ(デザインセンター)を率いていたエンリコ・フミアである。フィアット・プントのプラットフォームを短縮して使用したボディは、アプリリアなど伝統的ランチアのエッセンスを巧みに生かしつつ極めて現代的で冒険的なスタイリングであった。またフミアによる初期のスケッチからほとんど変わらないデザインで量産化されたことも近年では特筆に値する。

インテリアデザインは、アメリカ出身のデザイナー、グレッグ・ブリューが手がけたものである。メーターやインジケーター類をダッシュボードのセンターに持ってくるいわゆるセンターメーターなど奇抜な所が目につくが、その恩恵で運転席まわりの物入れが増えるなど清新なアイデアとセンスに溢れるものであった。

最大のセールスポイントはそのスタイリングと12色の標準カラーに100色まで及ぶオプションカラーで構成される“カレイドス”と呼ばれるカラーバリエーションであった。インテリアのアルカンターラ(人工スウェード)や本革のトリム/カラーと合わせて、膨大な選択肢から自分好みのイプシロンを選ぶことができ、さらにカレイドスから好みの色を選ぶと、注文から2週間以内に実車と同じ色に塗りあげたテッセラと呼ばれるレリーフがお客の手元に届き、選んだ色の具合をじっくり確認できるというユニークな販売方法を採っていた。 デビュー早々から大ヒットを収め、イタリアンデザインの健在振りを世界にアピールした。

ランチアがイプシロンで提案したコンパクトカーの新たな商品価値は、ヴィッツマーチなどに代表される日本のコンパクトカーにも大きな影響を与えた。具体的には外装色のカラーバリエーションが多く用意されるようになったり、デザインコンシャスな嗜好を強く打ち出すなど、「経済性かホットハッチ」の2軸で評価されがちであったコンパクトカーに、新たな方向性を示したと言える。

横置きで前輪を駆動するエンジンはフィアットお得意の直4ファイアユニットで、1.1L SOHC、1.2L SOHC、1.4L SOHC(12バルブ)を搭載していた。1.2L・シングルカム版ではCVTや6速MTも選択できた。後にスポーツグレード「エレファンティーノ・ロッソ」がラインナップに加わるとともに、1996年には1.2LのDOHC16バルブが追加されている。それに伴いラグジュアリーグレードであった「LX」のエンジンも1.4LからDOHC16バルブに変更された。

主要諸元 編集

  • 寸法/重量
    • 全長×全幅×全高:3,723×1,690×1,435mm
    • ホイールベース:2,380mm
  • エンジン(1.2L)
    • 形式:直列4気筒
    • 総排気量:1,242cc
    • 最大出力:44kW(60PS)/5,500rpm
    • 最大トルク:98Nm/3,000rpm
  • エンジン(1.4L)
    • 形式:直列4気筒
    • 総排気量:1,370cc
    • 最大出力:59kW(80PS)/6,000rpm
    • 最大トルク:112Nm/3,250rpm
  • 駆動系統
    • トランスミッション:5MT/6MT/CVT
    • 駆動方式:FF

2代目(Ypsilon、2002年-2011年) 編集

ランチア・イプシロン(2代目)
 
概要
販売期間 2002年 - 2011年
ボディ
ボディタイプ 3ドアハッチバック
駆動方式 前輪駆動
パワートレイン
エンジン 1.4L
1.3Lディーゼル
変速機 5/6速MT
5速セミAT
車両寸法
ホイールベース 2,388 mm
全長 3,780 mm
全幅 1,720 mm
全高 1,530 mm
テンプレートを表示

2002年フルモデルチェンジされ、車名もYpsilonとなった。ベースシャシーはフィアット・プントのそれをショートホイールベース化したものが用いられている。ボディタイプは先代に引き続いて3ドアのみ。また、全幅は1.7mをわずかに超えて3ナンバーサイズとなる。

トランスミッションは5速MTと2ペダルMTD.F.N.Dolce Far Niente :ドルチェ ファール ニエンテ = 何もしなくても良い甘美さ)が用意されている。Aピラー、屋根、Cピラー、ハッチゲートとそれ以外のボンネット、サイドパネル、前後バンパーとを2トーンに塗り分けた、Bカラーが用意される。

EURO4対応のディーゼルターボエンジン「Multijet」が搭載されたモデルも輸入されている。

2006年にはフェイスリフトが行われ、バンパーや塗色、インテリアカラーなど内外装が一部変更された。左右独立で温度調整可能なオートエアコンが標準装備となった。また、標準搭載のオーディオがMP3対応タイプに変更された。

主要諸元 編集

  • 寸法/重量
    • 全長×全幅×全高:3,780×1,720×1,530mm
    • ホイールベース:2,388mm
    • 重量:1,140kg(1.4 16V) / 1,180kg(1.3 Multijet)
  • エンジン(1.4 16V)
    • 形式:直列4気筒
    • 総排気量:1,368cc
    • 最大出力:70kW(95PS)/5,800rpm
    • 最大トルク:128Nm(13.0mkg)/4,500rpm
    • パワーウエイトレシオ:12.00kg/PS
  • エンジン(1.3 ディーゼルターボ "Multijet")
    • 形式:直列4気筒
    • 総排気量:1,248cc
    • 最大出力:66kW(90PS)/4,000rpm
    • 最大トルク:200Nm(20.4mkg)/1,750rpm
    • パワーウエイトレシオ:13.11kg/PS
  • 駆動系統
    • トランスミッション:5速セミAT(D.F.N) / 6MT(1.4 16V後期) / 5MT(1.4 16V前期、1.3 Multijet)
    • 駆動方式:FF

グレード 編集

ガソリンエンジン 編集

  • Ypsilon 1.4 16V B-Colore(250.0万円)
  • Ypsilon 1.4 16V B-Colore D.F.N(260.0万円)
  • Ypsilon 1.4 16V(240.0万円)
  • Ypsilon 1.4 16V D.F.N(250.0万円)

ディーゼルエンジン 編集

  • Ypsilon 1.3 Multijet B-Colore(265.0万円)
  • Ypsilon 1.3 Multijet B-Colore D.F.N(275.0万円)
  • Ypsilon 1.3 Multijet(255.0万円)
  • Ypsilon 1.3 Multijet D.F.N(265.0万円)

3代目(Ypsilon、2011年-) 編集

ランチア・イプシロン(3代目)
 
概要
別名 クライスラー・イプシロンイギリスアイルランド日本
販売期間 2011年 -
ボディ
乗車定員 5名
ボディタイプ 5ドアハッチバック
駆動方式 前輪駆動
パワートレイン
エンジン 直4 1.2L SOHC8バルブ FIRE
直4 1.2L SOHC8バルブ バイフューエル
直2 0.9L SOHC 8バルブ ツインエア
直4 1.3L SOHC16バルブ Multijetディーゼル
直3 1.0L SOHC6バルブ FIRE+12Vマイルドハイブリッド
直2 0.9L SOHC 8バルブ ツインエアCNG
車両寸法
ホイールベース 2,390 mm
全長 3,835 mm
全幅 1,675 mm
全高 1,520 mm
車両重量 1,090 kg
テンプレートを表示

2011年3月のジュネーヴ・モーターショーにて正式発表 [1]。ボディタイプは従来の3ドアから5ドアに変更されただけでなく(ただしリアのドアハンドルは窓枠に紛れるデザインを採用したため一見すると従前どおり3ドアに見える)、デルタを小型化したようなスタイリングとなり、更にBセグメントクラスからAセグメントクラスのコンパクトカーに変更された。また、ランチアの親会社フィアットとクライスラーの統合に伴いファミリーグリルもクライスラー風のデザインに改められた。プラットフォームはフィアット・500のものをベースにホイールベースを延長したものが使用され、全幅は1,675mmとなり5ナンバーサイズとなっている[2]。3代目イプシロンの製造はフィアット・500と同じポーランドティヒ工場に移転され、先代の製造拠点であったテルミニ・イメレーゼ工場は2011年11月24日に閉鎖された[3]

エンジンは直4 1.2L SOHC8バルブ FIRE、1.2L SOHC8バルブ バイフューエル(ガソリンとLPG)、直2 0.9L SOHC8バルブ ツインエア、直4 1.3L SOHC16バルブ Multijetディーゼルの4種類がラインナップされ、いずれもアイドリングストップシステムが標準装備となる。

2011年9月、イギリス及びアイルランドでクライスラー・イプシロンが発売開始された。ランチアはイギリス市場から撤退していたため、同国ではクライスラーブランドで販売される。なお、クライスラーの本国であるアメリカには導入されない[4]

2012年11月15日、フィアットクライスラージャパンが日本市場向けの「クライスラー・イプシロン」を発表。同年12月15日からクライスラー正規販売網で発売を開始した。日本仕様は直2 0.9Lのツインエアに「デュアルファンクション」と呼ばれるAMTの組み合わせのみ。グレードは「ゴールド」と「プラチナ」の2種で、価格はそれぞれ235万円/260万円[注釈 1]。後者にはバイキセノンヘッドランプや本皮革シート、16インチアルミホイールなどが備わる。なお、日本仕様は後席中央のヘッドレストと3点式シートベルトを追加したことで法規上5人乗りとなり(ランチア版は4人乗り)、登録上の形状はステーションワゴン扱いとなる。少数輸入枠による正規輸入車で、全車持ち込み登録であった。

2014年に日本での販売が終了したが、後継モデルとしてフィアット・500Xジープ・レネゲードが導入された。

その後2015年にフェイスリフトモデルが発表されたが、イタリア国外での販売が終了しイタリアでもランチアブランドの他車種削減が行われたことで、唯一のランチアブランド車種となった。以降、低金利セールや特別仕様モデルの追加で販売が続けられ、レンタカー需要等で好調なセールスを持続した。

2020年3月、マイナーチェンジが行われた[5]。「エコチック」のサブモデル名がつき、1.0LのFIREエンジンと12Vバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッド、1.2Lバイフューエル(ガソリンとLPG)、0.9LCNGの3種類のエンジンとなる。2021年2月フェイスリフトおよび小改良がおこなわれ、全車Euro 6d-Final規制に対応した。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 参考としてガレーヂ伊太利屋が並行輸入しているランチア版では、グレード分けはされておらず左ハンドルのみでクライスラー版では未導入の5MT車も存在し、価格は252万円(5MT)/262万円(デュアルファンクション)となっている。なおランチア版ではオートエアコンやキセノンヘッドライト及び本革シート・16インチアルミホイールがメーカーオプション扱いとなっているために「プラチナ」グレード相当の装備にすると277万4千円(5MT)/284万4千円(デュアルファンクション)となってしまう。

出典 編集

  1. ^ Lancia Lifts the Wraps off All-New Ypsilon Ahead of the Geneva Salon”. Carscoop (2011年2月14日). 2011年11月4日閲覧。
  2. ^ New Lancia Ypsilon Given a Key Role in the Italian Brand’s Revitalization Plan”. Carscoop (2011年2月25日). 2011年11月4日閲覧。
  3. ^ Plan to build rebadged Chery cars in Fiat factory faces hurdles”. Automotive News Europe (2011年11月30日). 2014年1月6日閲覧。
  4. ^ New Chrysler Ypsilon Supermini Makes its Debut in Britain [50 Photos]”. Carscoop (2011年9月30日). 2011年11月4日閲覧。
  5. ^ [1]2020年3月21日、イタリア本社公式HPで確認

関連項目 編集

外部リンク 編集