リクルート事件
リクルート事件(リクルートじけん)とは、1988年(昭和63年)に発覚した、日本の贈収賄事件である。
贈賄側の会社経営者や、収賄側の政治家や官僚らが次々に逮捕され、当時の政界・官界を揺るがす、一大スキャンダルとなった。この事件では、出版社・リクルートの関連会社であり、未上場の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が賄賂として使われていた。
事件概要
- 1988年(昭和63年)6月18日、朝日新聞が『川崎市助役へ一億円利益供与疑惑』をスクープ報道し、その後、リクルートにより関連会社リクルート・コスモス(現 コスモスイニシア)社未公開株が、中曽根康弘、竹下登、宮澤喜一、安倍晋太郎、渡辺美智雄など大物政治家に、店頭公開前に譲渡していたことが相次いで発覚する。90人を超える政治家がこの株の譲渡を受け、森喜朗は約1億円の売却益を得ていた。時の大蔵大臣である宮澤は衆議院税制問題等に関する調査特別委員会で「秘書が自分の名前を利用した」と釈明した。さらに学界関係者では、政府税制調査会特別委員を務めていた公文俊平にも1万株が譲渡されていたことも判明した。
- 東京地検特捜部は、1989年、政界・文部省・労働省・NTTの4ルートで江副浩正リクルート社元会長(リクルート社創業者)ら贈賄側と藤波孝生元官房長官ら収賄側計12人を起訴、全員の有罪が確定した。だが、政界は自民党では藤波、そして公明党の池田克也議員が在宅起訴されただけで、他は3政治家秘書等4人が略式起訴されたに留まり、中曽根や竹下をはじめ大物政治家は立件されなかった。
贈収賄の目的
経緯
- 江副浩正リクルート社会長、自社の政治的財界的地位を高めようと、有力政治家・官僚・通信業界有力者の3方面をターゲットに未公開株を相次いで譲渡(1984年12月20 - 31日39人、1985年(昭和60年)2月15日金融機関26社、4月25日37社、1個人)。
- 1985年(昭和60年)
- 1986年(昭和61年)
- 6月 - 藤波孝生元官房長官ら政財界へのコスモス株譲渡。
- 1988年(昭和63年)
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6月18日 - 川崎駅前再開発を巡り、小松秀煕川崎市助役へのコスモス株譲渡を、朝日新聞がスクープ。
- 当時再開発が行われていた明治製糖工場跡地の再開発事業(かわさきテクノピア)に関して便宜を図った(具体的には本来容積率が500%のところを800%に引き上げて高層建築を可能とした)とされる。小松は助役を解職されるが、刑事事件としては不起訴処分となった。
- 7月 - マスコミ各社の後追い報道により、中曽根康弘前首相、竹下登首相、宮沢喜一副総理・蔵相、安倍晋太郎自民党幹事長、渡辺美智雄自民党政調会長ら、自民党派閥領袖クラスに、軒並みコスモス株が譲渡されていたことが発覚。
- 7月6日 - 森田康日本経済新聞社社長が、1984年(昭和59年)12月に受けた未公開株譲渡で8,000万円の売却益を得た事が発覚、社長辞任。
- 7月26日 - 江副会長、「抑うつ症状」で半蔵門病院に入院。
- 9月3日 - 松原弘リクルートコスモス社長室長が、国会で未公開株譲渡問題を追及していた楢崎弥之助社民連衆議院議員に対し、手心を加えるよう贈賄を申込み。しかし、9月5日、楢崎らによって隠し撮りされた模様が、日本テレビ『NNNニュースプラス1』で全国放送される。
- 10月19日 - 東京地検特捜部、リクルート本社、コスモス社、松原自宅を家宅捜索。
- 10月26日 - 東京地検特捜部、東洋信託銀行証券代行部を家宅捜索。コスモス社の株主名簿等を押収。
- 10月29日 - 藤波元官房長官、真藤恒NTT会長、高石邦男前文部事務次官、加藤孝前労働事務次官へのコスモス株譲渡が発覚。
- 11月10日 - 東京地検、捜査開始宣言。松原を贈賄申込罪で起訴。
- 11月15日 - 江副、衆議院リクルート問題調査特別委員会に、コスモス株譲渡者全リスト提出。
- 11月21日 - 衆議院リクルート問題調査特別委員会、江副、高石前文部次官、加藤前労働次官を証人喚問。
- 12月9日 - 宮沢蔵相が辞任。
- 12月12日 - 真藤NTT会長が辞任。
- 12月27日 - 竹下首相、内閣改造を実施。
- 12月30日 - 長谷川峻法務大臣、リクルートからの献金が発覚し、辞任。
- 1989年(平成元年)
- 1月24日 - 原田憲経済企画庁長官、リクルートがパーティー券を購入した事実が発覚し、辞任。
- 2月12日 - 参議院福岡選挙区補欠選挙、社会党新人渕上貞雄が自民党候補に圧勝。
- 2月13日 - 検察首脳会議開催。同日、東京地検特捜部、江副前会長・小林宏ファーストファイナンス前副社長・式場英及び長谷川寿彦NTT元取締役をNTT法違反(贈収賄)容疑で逮捕。
- 2月21日 - 鹿野茂元労働省課長(ノンキャリアで加藤の側近)を贈収賄容疑で逮捕。
- 3月6日 - 真藤前会長をNTT法違反(贈収賄)で逮捕。
- 3月8日 - 加藤前次官、辰已雅朗リクルート社元社長室長を贈収賄容疑で逮捕。
- 3月28日 - 高石前次官を贈収賄容疑で逮捕。同日、真藤前会長、加藤前次官らを起訴。
- 4月25日 - 竹下、記者会見で首相退陣表明。
- 4月26日 - 青木伊平元竹下登在東京秘書が自殺。
- 5月15日 - 検察首脳会議開催。
- 5月22日 - 東京地検特捜部、藤波元長官と池田克也元衆議院議員を受託収賄罪で在宅起訴。
- 5月25日 - 衆議院予算委員会、中曽根前首相を証人喚問。
- 5月29日 - 東京地検特捜部、宮沢前蔵相秘書を含む議員秘書4人を、政治資金規正法違反で略式起訴。同日捜査終結宣言。
- 6月3日 - 竹下内閣総辞職。
関係者への判決
- 政界ルート
- 藤波孝生元官房長官は受託収賄罪で起訴され、1989年(平成元年)12月、東京地裁で初公判が開始。1994年(平成6年)9月、東京地裁は藤波被告に無罪判決、検察側控訴。1997年(平成9年)3月、藤波被告の控訴審で逆転有罪判決、被告側上告。1999年(平成11年)6月、最高裁が藤波被告側の上告を棄却・有罪確定。2007年(平成19年)10月死去。
- 池田克也元衆議院議員は受託収賄罪で起訴され、1994年(平成6年)12月、東京地裁にて有罪判決・確定。
- 安倍晋太郎自民党幹事長の私設秘書、宮沢喜一大蔵大臣の公設秘書、加藤六月農水大臣の公設秘書と政治団体会計責任者の計4人に対して政治資金規正法違反で略式起訴。
- 文部省ルート
- 高石邦男元文部事務次官は受託収賄罪で起訴され一審で懲役2年執行猶予3年、二審で懲役2年6ヶ月執行猶予4年。
- 労働省ルート
- 加藤孝元労働事務次官は受託収賄罪で起訴され一審で懲役2年執行猶予3年。
- 鹿野茂元労働省課長は受託収賄罪で起訴され一審懲役1年執行猶予3年。
- NTTルート
- 真藤恒元NTT会長はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。
- 長谷川寿彦元NTT取締役はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。
- 式場英元NTT取締役はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役1年6ヶ月執行猶予3年。
- 元ファーストファイナンス社長はNTT法違反(収賄罪)で起訴され、一審で懲役1年執行猶予2年。
- リクルート社
- 江副浩正元リクルート社会長は贈賄罪で起訴され、2003年(平成15年)3月、東京地裁にて懲役3年執行猶予5年の有罪判決。
- 元リクルート社長室長は贈賄罪で起訴され、一審で無罪、二審で懲役1年執行猶予3年。
- 小野敏廣元リクルート秘書室長は贈賄罪で起訴され、一審で懲役2年執行猶予3年。
事件の影響
- これまでの疑獄事件と異なり、未公開株の譲渡対象が広範で職務権限との関連性が薄く、検察当局は大物政治家の立件ができなかった。しかし、ニューリーダー及びネオ・ニューリーダーと呼ばれる大物政治家が軒並み関わった事で、“リクルート・パージ”と呼ばれる謹慎を余儀なくされ、政界の世代交代を促した(この事件が無かったら、党内事情からいって、安倍晋太郎が次期首相になった公算が大きいという意見もある)。また、事件以降「政治改革」が1990年代前半の最も重要な政治テーマとなり、小選挙区比例代表並立制を柱とする選挙制度改革・政党助成金制度・閣僚の資産公開の一親等の親族への拡大等が導入されることになった。
- この事件によって刑法が改正され、賄賂罪で有罪が確定した公職政治家は実刑判決ではなく執行猶予判決が出ても、公職を失職する規定が設けられた。
- また、1989年(平成元年)7月の第15回参議院議員通常選挙で自民党は大敗、参議院過半数割れとなった(自民党にとって、リクルート事件、消費税導入、牛肉・オレンジの農産物自由化が“逆風3点セット”と言われ、竹下の後任の宇野宗佑の女性スキャンダルは女性有権者の反発を招いた。2010年(平成22年)現在に至るまで、自民党は参院選後における参議院単独過半数を回復していない。この為、自民党は政局安定の為に公明党や民社党など野党との連携を強いられることになり、後に参議院で過半数を得るために自社さ連立、自自公連立、自公連立など他党との連立政権を組むことになる。
- リクルートとリクルートコスモス(現コスモスイニシア)はこの事件でイメージが悪化、これにバブル崩壊が追い討ちをかけ、リクルートはダイエーに身売りされ、江副浩正はリクルートを追われることとなった。
各党の関係議員とその後
※ 各敬称は事件発覚当時のもの
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自由民主党
- 竹下登首相、長谷川峻法相、宮沢喜一蔵相、小渕恵三官房長官、原田憲経企庁長官、小沢一郎官房副長官、安倍晋太郎幹事長、渡辺美智雄政調会長、愛野興一郎前経企庁長官、中曽根康弘元首相、橋本龍太郎元運輸相、梶山静六元自治相、森喜朗元文相、中島源太郎元文相、砂田重民元文相、塩川正十郎元文相、加藤六月元農水相、大野明元労相、栗原祐幸元労相、山口敏夫元労相、坂本三十次元労相、藤波孝生元官房長官、加藤紘一元防衛庁長官、渡辺秀央元官房副長官、原健三郎前衆院議長、浜田卓二郎代議士、伊吹文明代議士、愛知和男代議士、大坪健一郎代議士、有馬元治代議士、野田毅代議士、堀内光雄代議士、鈴木宗男代議士、尾形智矩代議士、椎名素夫代議士、志賀節代議士、藤田正明参院議長、遠藤政夫参院議員、倉田寛之参院議員、鈴木貞敏参院議員
- 藤波元官房長官は収賄容疑で在宅起訴され離党し、同じく強い関与が疑われた中曽根元首相も離党。1989年(平成元年)4月に竹下首相(党総裁)が『国民に政治不信を招いた』として内閣総辞職を表明。後任の総理総裁に宇野宗佑外相が就任し(同事件での竹下内閣の閣僚の中で関連性が薄く、また第15回サミットが間近であった為に外相であった宇野の名が挙がったと言う説も有れば、竹下首相から安倍幹事長と同様に信頼されていたと言う説がある)、宇野内閣が発足する。しかし、宇野総理の愛人スキャンダルが発覚、同事件とのセットで選挙に臨み、東京都議会議員選挙では社会党に押され惨敗、第15回参議院議員通常選挙では自民党結党史上初の参議院過半数割れを招いて惨敗した。
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日本社会党
- 上田卓三代議士
- 1989年に上田議員が同事件への関与により議員辞職するも、ダメージは少なかった。参院補選・福岡県選挙区では党公認候補が当選。また都議選では社会党が大勝し、参院選で公民連の3党との選挙協力などで40議席台の大台に乗せて圧勝(第2党)した。
備考
- 本事件の「発祥の地」であるリクルートかわさきテクノピアビルは売却され、川崎テックセンターと改名。複数の外資系投資ファンドを転々とすることになる。
- 1988年(昭和63年)8月10日午後7時20分頃、江副浩正リクルート元会長宅に向けて散弾銃一発が発砲された。その後で赤報隊が「赤い朝日に何度も広告をだして 金をわたした」と犯行声明を出した(赤報隊事件)。ただし、リクルート社が他紙に比べ、朝日に多く広告を出していたわけではなかった。
参考文献
- 江副浩正『リクルート事件・江副浩正の真実』(中央公論新社)
- 田原総一朗『正義の罠 リクルート事件と自民党 二十年目の真実』(小学館)
- 朝日新聞社会部『ドキュメント リクルート報道』(朝日新聞社)