レスベラトロール英語: resveratrol)はスチルベノイドスチルベン誘導体ポリフェノールの一種。系統名は3,5,4'-トリヒドロキシ-trans-スチルベン。いくつかの植物でファイトアレキシンとして機能しており、またブドウの果皮などにも含まれる抗酸化物質として知られる[1]

レスベラトロール
{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 501-36-0 チェック
PubChem 445154
ChemSpider 392875 チェック
KEGG C03582
特性
化学式 C14H12O3
モル質量 228.24 g mol−1
精密質量 228.078644
外観 white powder with
slight yellow cast
への溶解度 0.03g/L
DMSOへの溶解度 16g/L
エタノールへの溶解度 50g/L
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

1939年、北海道帝国大学の高岡道夫により有毒植物バイケイソウVeratrum album)から発見され(有毒成分ではない)、レゾルシノールResorcinol)構造を有することから命名された。

レスベラトロールは赤ワインに含まれることから、フレンチパラドックスとの関連が指摘されており、心血管関連疾患の予防効果が期待されている[2]

レスベラトロールは寿命延長作用が、酵母[3]線虫[4]ハエ[5]魚類[6]の研究で報告され、2006年には「Nature」誌にてヒトと同じ哺乳類であるマウスの寿命を延長させるとの成果が発表され[7]、種を超えた寿命延長作用を持つとして大きな注目を集めた。

マウスなどのモデル生物実験動物を用いた研究では、寿命延長・抗炎症・抗癌[8][9]認知症予防[10]・放射線による障害の抑止[9]血糖降下[11]、脂肪の合成や蓄積に関わる酵素の抑制[12]などの効果が報告されている。

ヒトでの効果 編集

ヒトにおける試験では、血圧が高めの被験者において、血管拡張反応を改善し、動脈硬化を防ぐことや[13]、脳の血流量を増加させることで認知症を予防する可能性が報告されている[14]。また、健常者に対しても、レスベラトロール2.5gを28日摂取した結果、有意に血中の増殖因子IGF-1やその結合タンパク質IGFBP-3の減少が認められ、乳がん肺がんのリスクを低減する可能性が報告され[15]、健常者にレスベラトロールを250mg又は500mg摂取後、45分以降で濃度依存的に前頭葉の血流の亢進が認められ、脳機能の改善に役立つと報告されている[14]

2011年、ヨーロッパの研究チームが肥満男性にレスベラトロールを投与したところカロリー制限をしたのと同等の効果が得られた[16]。肥満男性11人と健康な男性11人を対象に、レスベラトロール(150mg/日)のサプリメントとプラセボ(偽薬)を用いて二重盲検比較試験を実施したところ、レスベラトロールを30日間服用した後に、エネルギー消費、代謝率、血糖値、血圧は低下し、肝臓に蓄積した脂肪は減少していることがわかった。一方、サーチュイン活性化物質の開発を推進するSirtris社はレスベラトロールには効果がないとして臨床開発を断念しており[17]、レスベラトロールが肥満や加齢に関連した代謝性異常を改善する効果があるかどうかを立証するためには、さらに多くの調査が必要と考えられる。

レスベラトロールを含有するサンタベリーのヒトに対する肌質改善効果を検証する目的で、プラセボ食品を対照とした二重盲検並行群間比較試験により検討した。通常人女性48名を対象に、サンタベリーエキス(トランスレスベラトロール12mg/40mg含有)グループ24名とプラセボ(偽薬)カプセル24名に分けた。これらを1日1回1粒を12週間被験者に経口摂取させた。試験項目は、肌測定(肌弾性、角質水分量)、自覚アンケート(VAS)であった。これらの検査は、摂取前、摂取4週後、摂取8週後、摂取12週後に実施した。その結果、サンタベリーエキスグループでは肌弾性が摂取開始時と比較して摂取8週目、12週目で有意な改善が認められた。角質水分量においては摂取開始時から12週目までに、プラセボグループと比較して有意ではなかったものの増加傾向が認められた。さらに、自覚アンケートでは、肌に関するすべての項目でサンタベリーエキスグループ、プラセボグループとも摂取開始から4・8・12週間後に有意な改善が認められた。また、サンタベリーエキス摂取による副作用は確認されなかった。これらのことから、トランスレスベラトロールを含むサンタベリーエキスを12週間連続摂取することにより、女性の肌弾性の改善がみられ、同時に安全性が高いことが明らかになった。[18]

食品では赤ブドウの果皮と赤ワインなどに含まれる。ピーナッツの茶色い薄皮部分[19][20][信頼性要検証]イタドリグネモン[21]などにも含まれる。また現在はサプリメントとしても市販されており、アメリカを中心に市場を拡げている。海外で主に使用されているレスベラトロール素材は、安価なイタドリ抽出物であるが、日本では、イタドリ根茎の抽出物は医薬品に含まれるため、根茎の部位の抽出物が含まれている場合は食品扱いの枠で扱われていると違法となる(健康食品等の枠ではなく一般用医薬品(第二類医薬品[22]以上)の場合は使用及び表記が可能。)。

飲料 総レスベラトロール (mg/l) 総レスベラトロール (mg/150 ml)
赤ワイン (世界) 1.98 – 7.13 0.30 – 1.07
赤ワイン (スペイン産) 1.92 – 12.59 0.29 – 1.89
赤ブドウ・ジュース (スペイン産) 1.14 – 8.69 0.17 – 1.30
ロゼ・ワイン (スペイン産) 0.43 – 3.52 0.06 – 0.53
赤ワイン(ピノノワール) 0.40 – 2.0 0.06 – 0.30
白ワイン (スペイン産) 0.05 – 1.80 0.01 – 0.27
食品 1サービング単位 総レスベラトロール (mg)
ピーナッツ (生のもの) 1 c (146 g) 0.01 – 0.26
ピーナッツ (茹でたもの) 1 c (180 g) 0.32 – 1.28
ピーナッツ・バター 1 c (258 g) 0.04 – 0.13
赤ブドウ 1 c (160 g) 0.24 – 1.25
ココアの粉 1 c (200 g) 0.28 – 0.46

一方、2014年に、アメリカ医師会内科学雑誌に電子版に掲載された、イタリアトスカーナ地方で行われた追跡調査では、レスベラトロールの効果が認められなかったとの結果を導いている[23]

サーチュイン遺伝子との関係 編集

サーチュイン遺伝子は、長寿遺伝子または抗老化遺伝子とも呼ばれ、飢餓カロリー制限、運動によって活性化する。近年、レスベラトロールがサーチュインタンパク質を活性化することもわかっている[11][信頼性要検証]。サーチュイン自体は、ヒストン脱アセチル化酵素であり、サーチュインが活性化するとヒストンが脱アセチル化されてヒストンのアルカリ性を示す豊富なアミノ基と核酸の名が示すように酸性の性質を有するDNAとの親和力が高まり、ヒストンとDNAが強く結び付いて、遺伝子の発現が抑制される。言い換えれば、DNAが休眠状態に入ることである。これと反対に、ヒストンアセチル化されるとヒストンとDNAの親和力が低くなり、通常の遺伝子発現が活発化される[24][25]。飢餓のような過酷な環境下ではDNAの活動が抑制され、DNAの安定化へと変化する。これが結果的にDNAの損傷防止につながり、このDNAの損傷防止は直接的に長寿につながる。詳細はDNA修復#カロリー制限とDNA修復の増加を参照のこと。

出典 編集

  1. ^ 井上裕康「赤ワインに含まれるポリフェノール・レスベラトロールに関する最近の話題」『ビタミン』78(12)、2004-12-25、pp.621-623. NAID 110002880447
  2. ^ Bhat KPL, et al. Antioxid Redox Signal, 3(6):1041-64. (2001) PMID 11813979.
  3. ^ Howitz KT, et al. Nature, 425(6954):191-6. (2003) PMID 12939617.
  4. ^ Viswanathan M, et al. Dev Cell, 9(5):605-15. (2005) PMID 16256736.
  5. ^ Bauer JH, et al. Proc Natl Acad Sci USA, 101(35):12980-5. (2004) PMID 15328413.
  6. ^ Valenzano DR, et al. Curr Biol, 16(3):296-300. (2006) PMID 16461283.
  7. ^ Joseph A. Baur, et al. (2006). “Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet”. Nature 444 (7117): 337–342. doi:10.1038/nature05354. PMID 17086191. https://www.nature.com/articles/nature05354. 
  8. ^ ブドウ由来素材、レスベラトロールに注目集まる(発行日: 2009/4/3)”. 健康産業新聞. 2011年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月30日閲覧。
  9. ^ a b Longevity drug may protect against radiation WIRED
  10. ^ http://okajima-lab.net/press/ [リンク切れ]
  11. ^ a b インスリン抵抗性に対する新たな治療手段”. 金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学. 2013年6月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月14日閲覧。
  12. ^ Lagouge M, et al. Cell, 127, 1109-1122, (2006) PMID 17112576.
  13. ^ Wong RH, et al. Nutr Metab Cardiovasc Dis, (2010) PMID 20674311.
  14. ^ a b Kennedy DO, et al. Am J Clin Nutr, 91(6), 1590-7. (2010) PMID 20357044.
  15. ^ Brown VA, et al. Cancer Res, 70(22):9003-11. (2010) PMID 20935227.
  16. ^ Timmers S. et al. Cell Metabolism 14(5):612-622 (2011) [1]
  17. ^ "Doubt on Anti-Aging Molecule as Drug Trial Stops", NY times, Jan 10 2011.
  18. ^ 浅野智哉「二重盲検ランダム化比較試験によるレスベラトロール経口摂取における効果」『医学と薬学』72巻7号、2015年7月。
  19. ^ 情報:農と環境と医療 47号(北里大学学長室通信)No.47 2009/2/1”. 2009年4月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月20日閲覧。
  20. ^ 坪田一男 (2010年10月21日). “ピーナツは皮ごと食べよう”. 視的!健康論 ~眼科医坪田一男のアンチエイジング生活(読売新聞/ヨミドクター). 2012年11月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月20日閲覧。
  21. ^ Kato et al. J Agric Food Chem, 57(6), 2544-2549. (2009) PMID 19222220.
  22. ^ 第二類医薬品 (PDF) (平成30.7.8最終改正)(厚生労働省ホームページ 医薬品の販売制度 |厚生労働省より)(第二類医薬品において「コジョウコン」の記述)
  23. ^ “赤ワインのポリフェノールに健康への効果確認できず、研究”. AFPBBNews (フランス通信社). (2014年5月13日). https://www.afpbb.com/articles/-/3014787?ctm_campaign=nowon 2014年5月14日閲覧。 
  24. ^ CycLex Web Site Archived 2012年12月15日, at the Wayback Machine.
  25. ^ ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害物質の分子設計とその抗がん剤への応用(研究概要) Archived 2012年7月20日, at the Wayback Machine.

関連項目 編集

外部リンク 編集