世界の頭脳』(せかいのずのう、World Brain)は、イギリスの作家ハーバート・ジョージ・ウェルズが1938年に著した書籍。

World Brain
初版の表紙
著者ハーバート・ジョージ・ウェルズ
イギリス
言語英語
題材百科事典
出版日1938年

概要 編集

ウェルズは『タイム・マシン』などの小説で名声を得たのち、戦争を根絶するために国際連盟の提唱などの社会活動をはじめた。1920-30年代に展開した新百科全書運動(New Encyclopaedism)もそのひとつであり、百科事典によって世界を知的に統合し、世界平和の基盤とすることを目的とした。本書には、この運動についてのウェルズの講演やエッセイが収められている[1]。ウェルズの世界百科事典の構想は、インターネットウィキペディアの原型ともいえる世界規模のネットワークや知識共有の提唱でもあった[注釈 1][2]

内容 編集

目次 編集

目次は以下の通りとなる[3]

  • 1 世界百科事典
  • 2 現代世界の頭脳組織
  • 3 恒久的な世界百科事典の構想
  • 4 パリで開催の、世界文献会議の講演からの一節
  • 5 知的情報としての教科内容
追補
  • 1 立腹させられた教師
  • 2 歴史に占めるパレスチナの大きさ
  • 3 アメリカの没落 1937年
  • 4 大西洋両岸の誤解
  • 5 英語世界 "私が見たままに"

本書においてウェルズは、「世界百科事典」(World Encyclopaedia)の構想を発表した。主な内容は、以下のようになる。

世界百科事典の内容 編集

  • 各項目ごとに注意深く集められ、注意深く照合して調べられ、編集され、批判的に提出された抜粋、抜き書き、引用から成り立つ[4]
  • 全世界の独創的な思想家による訂正、敷衍、取り替えを受けてたえず成長し、変化する[5]
  • 著名な権威者の承認を得たものである[6]
  • 対立する陳述を併記し、批判的な検討のもとに置かれる。単なる事実と陳述の集まりとしてではなく、調整と判決の機関としても機能するかもしれない[7]
  • 性質上、リベラルと呼ばれるものでなければならない。狭溢なドグマと正しい批判のいずれも掲載される[8]
  • 当初は書籍での出版を予定しているが、やがてマイクロフィルムプロジェクターの利用などに替わられる可能性がある[9]

世界百科事典の運営 編集

  • 世界規模の恒久的な組織によって運営される。建物、スタッフを必要とする[10]
  • 世界百科事典を運営する組織は、物質的には集中化されず、知的に集中化され、網状組織の形式をとる。神経組織や知的コントロール組織のように拡がり、世界の知的な研究者を協力しあうよう統一する[11]
  • 知的な情報センターとしての貯蔵所となる。全世界の大学、研究機関、議論、調査、統計局とたえず連絡をとり、固有の理事会や職員、編集者や要約者を生み出す[12]
  • すべての大学と研究機関は必要な資料をたえず提供すべきである。その内容は、教育面での事実の検証と陳述の考査のための典拠となり、ジャーナリストや新聞にも影響を与える[13]
  • 多くの人々が懐疑主義と呼ぶ特色をもつ。狭隘な宣伝の侵害から守られなければならない。国家的な妄想、党派的な仮定に対して圧力をかける[14]

ウェルズの運動には教育改革の提案も含まれていたため、当時は教育界から批判を受けた[15]。また、運動の最中にはアメリカ合衆国を訪問し、フランクリン・ルーズベルト大統領と会見を行なった。これらについては追補に書かれている[16]

書誌情報 編集

原書
  • World Brain, H. G. Wells, Methuen & Co, London, 1938.
日本語訳
  • 『世界の頭脳』 浜野輝訳、思索社、1987年。

出典・脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 同様の構想として、ヴァネヴァー・ブッシュMemexなどがある[2]

出典 編集

  1. ^ ウェルズ 1987, pp. 204–207.
  2. ^ a b 末岡 2014.
  3. ^ ウェルズ 1987, 目次.
  4. ^ ウェルズ 1987, p. 33.
  5. ^ ウェルズ 1987, pp. 33–34.
  6. ^ ウェルズ 1987, pp. 37–38.
  7. ^ ウェルズ 1987, pp. 35–36.
  8. ^ ウェルズ 1987, pp. 89–90.
  9. ^ ウェルズ 1987, pp. 88–89.
  10. ^ ウェルズ 1987, pp. 37, 41–42.
  11. ^ ウェルズ 1987, pp. 81–82.
  12. ^ ウェルズ 1987, p. 81.
  13. ^ ウェルズ 1987, p. 34.
  14. ^ ウェルズ 1987, pp. 45–47.
  15. ^ ウェルズ 1987, pp. 143–148.
  16. ^ ウェルズ 1987, pp. 163–169.

参考文献 編集

関連文献 編集

  • H・G・ウェルズ 著、宮原一成 編『ワールドブレイン―H. G. ウェルズの「世界頭脳」』開文社出版、2009年。 (原書 World Brain, Methen & Co.Limited, (1938) 

関連項目 編集

外部リンク 編集