世界一周路線(せかいいっしゅうろせん、英語: Round the World route)とは、単一の航空会社により、出発地となる空港から出発して地球を一周し(世界一周)、再び出発地に戻る定期路線のこと。

また、上記路線を同一便名で運航形態を世界一周便と言われる。現在、このような旅客便は存在しないが、経由便が多く設定される航空貨物便では複数の世界一周路線が存在し、日本でも日本貨物航空も一時期世界一周可能な路線網を有していた。

概要 編集

 
パンアメリカン航空のダグラスDC-4B型機

旅客機による旅行が一般化した1960年代には、単一の航空会社による複数の寄港地に寄港する世界一周便がパンアメリカン航空日本航空英国海外航空トランス・ワールド航空カンタス航空というフラッグ・キャリアにより運航されていた。なお世界一周便であっても、途中で機材変更があり、必ずしも同一の旅客機で運行されるわけではない。

しかしその後、航空機の性能向上による直行便化の進行とそれに伴う世界一周便の必然性の低下や、航空会社同士の競争の激化とそれがもたらす収益悪化などにより衰退し、2013年以降、世界一周便を旅客運航している航空会社は存在しない。但し、航空会社によっては運航路線で出発空港と最終目的空港が地球の裏側に位置する組み合わせで東回りと西回り路線をそれぞれ別に運航し便名は別になるが路線網で搭乗可能な世界一周路線を運航する航空会社は貨物便を含めある。なお、世界一周便は空港での行先ボードで「Around the World」と表示されていた。

路線例 編集

日本航空 編集

 
日本航空のDC-8型機

日本航空は1950年代後半から世界一周線の検討を始め、1965年の日米航空交渉でニューヨーク乗り入れの権利とニューヨークからヨーロッパへの以遠権を取得[1]。1967年3月6日に日本およびアジアの航空会社として初の、そして日本の航空会社として唯一の世界一周便に就航し、ダグラス DC-8による週2便の運航を開始[1]

パンアメリカン航空・英国海外航空・カンタス航空に次ぐ4社目の参入となり[2]、太平洋中部と北米大陸を通過する完全な世界一周線では英国海外航空に次ぐ2社目となった[3]。東京 - ロンドン間の南回り欧州線をニューヨークまで延伸し太平洋経由の東京 - ニューヨーク線と接続する形で世界一周とし[4]、また1968年7月にはニューヨーク - パリ便も週5便で開設された[5]

しかし就航3年後の1969年までの時点で大西洋線の利用率が3割未満と低迷し[1]、また1972年に連続事故でDC-8を3機失い業務計画の大幅な下方修正を行うこととなり同年12月にニューヨーク-ロンドン間の大西洋線から撤退し世界一周線は5年余りで幕を閉じた[6]

1973年に策定された1974年から1978年までの中期計画では復活案が盛り込まれたものの、翌1974年の中期計画では「市場動向を勘案し再開時期を別途検討」として早期復活を行わない方向性とし、その後大西洋線の低運賃競争もあり1978年の中期計画にて削除されている[7]。なお世界一周線に用いられた001/002便は現在でも同線の一部に用いられた東京=サンフランシスコ線の便名として使われている。

2022年に起こったロシアによるウクライナ侵攻により欧州各国がロシアに対する空域閉鎖を実施したため、JALは安全上の観点から3月になり欠航便が発生し、その後代替飛行経路が検討された。多くの他社は中国、中央アジア、黒海を経由する南回り経路を選定した。JALは加盟する航空連合ワンワールドのブリティッシュ・エアウェイズが本拠地とするロンドン・ヒースロー空港ヘの運航を維持し、その他の欧州便は欠航させ、その利用者はロンドン経由でワンワールドのコードシェア便で最終目的地へ移動可能にすると決定した。ハブに設定したロンドンへ最短で到達できる点、南回りは経由する国からの許可を得る必要がある点から当初は往路復路ともに北回りの経路を選定した。[8]

その後、南回りの経路の安全性の確認や飛行許可の取得が完了したことにより、2022年4月19日から復路は南回りの経路へ切り替えられた。経路を切り替えることで、偏西風を活用し北回りと比べ飛行時間を短縮できる。往路は従来通り北回りであるため、世界一周の経路となった[9]

  • 東京/羽田(→北米アラスカ→カナダ北極圏→グリーンランド→アイスランド)→ロンドン/ヒースロー(→黒海→中央アジア→中国→韓国)→東京/羽田(東回りのみ)

日本貨物航空 編集

日本貨物航空は、西行きの片道のみ大西洋路線で運航することによって世界一周路線に就航していた[10]
2019年12月24日をもって運航効率の最適化のため大西洋区間を休止、以降アメリカ側・ヨーロッパ側でそれぞれ折返し便としている[11]

  • 東京/成田→アンカレッジ→シカゴ→フランクフルト/ハーン→ミラノ→東京/成田

パンアメリカン航空 編集

パンアメリカン航空は、1947年6月に世界初の自社運航による世界一周便を開設した。機材はダグラス DC-4Bで、その後ダグラス DC-6ボーイング707ボーイング747などの機材で1980年代まで1日1便運航された。

または

トランスワールド航空 編集

他の航空会社の多くが東京を世界一周航路に入れていたが、東京への寄港権利がないため、那覇空港に寄港していた。

  • セントルイス=ロサンゼルス=ホノルル=グアム=(那覇=台北、香港)=バンコク=ムンバイ=テルアビブ=フランクフルト=ロンドン=(ボストン、ニューヨーク、ワシントン)=セントルイス

英国海外航空 編集

英国海外航空は、世界一周航路に就航していたボーイング707型機が、1966年の英国海外航空機空中分解事故富士山麓に墜落している。

  • ロンドン=ニューヨーク=サンフランシスコ=ホノルル=東京=香港=ラングーン=カルカッタ=カラチ=テヘラン=ベイルート=ローマ=ロンドン 他

現在 編集

2013年3月3日まで、ニュージーランド航空オークランド - ロサンゼルス - ロンドン(ヒースロー)便およびオークランド - 香港 - ロンドン(ヒースロー)便を別の便としてではあるが運航しており、事実上単一の航空会社による世界一周路線といえる。なお、2013年3月4日以降、香港 - ロンドン(ヒースロー)間が運休となったため、単一航空会社便の乗り換えによる世界一周は不可能となった。

一方、シンガポール航空シンガポール - ニューヨーク(ニューアーク・リバティー国際空港)便とシンガポール - フランクフルト - ニューヨーク(ジョン・F・ケネディ国際空港)便を別の便として運航しているが、これはニュージーランド航空と同様に同一便として運航されているものではない上、ニューヨークにおける発着空港が異なることもあり、世界一周路線ではなかった。なお、2013年にはシンガポール - ニューヨーク(ニューアーク)便が廃止されたが、2018年10月に復活した。

世界一周航空券 編集

ワンワールドスターアライアンスなどのアライアンスが、加盟航空会社の路線を組み合わせた世界一周航空券を、また、シンガポール航空も上記のルートをベースにした同様の航空券を販売しており、現在はこれがかつての世界一周路線に代わるものとなっている。

出典 編集

  1. ^ a b c 第3編躍進期 第1章世界一周線の開設 第2節日米航空協定改定と世界一周線の開設 - 日本航空20年史1951~1971(日本航空 1974年)
  2. ^ 航空協定の動向 - 航空現勢昭和42年版(航空研究会 1967年)
  3. ^ a b 栗原敏尚「世界一周とモスクワ線の開設」 - 運輸第17巻第4号(運輸故資更生協会 1967年)
  4. ^ 日本に乗り入れている国際定期航空路線一覧表 - 航空工業年鑑昭和43年版(日本航空工業会)
  5. ^ 日航資料 回顧と展望昭和43年 - 日本航空
  6. ^ 第1編大量輸送時代の到来と朝田体制の発足 第5章事故の教訓 第4節事業計画の見直しと機材更新 - 日本航空社史1971~1981(日本航空 1985年)
  7. ^ 第2編石油危機と企業体質の強化 第4章企業体質強化の努力 第2節減量経営の推進 - 日本航空社史1971~1981(日本航空 1985年)
  8. ^ “JAL、ロンドン線は北回り直行便で継続 BA欧州便に乗継”. Aviation Wire. (2022年3月4日). https://www.aviationwire.jp/archives/246028 
  9. ^ “風に乗って世界一周 特集・JALはなぜ欧州発だけ南回りなのか”. Aviation Wire. (2022年4月13日). https://www.aviationwire.jp/archives/248934 
  10. ^ “週4回 世界一周する日本のB747「ジャンボ」 パイロットも世界一周勤務”. 乗りものニュース. (2018年2月11日). https://trafficnews.jp/post/79674 
  11. ^ NCA 路線ネットワークの一部変更 (PDF)
  12. ^ パンナム:PAN AM、パンアメリカン航空の世界一周便 1977年タイムテーブル | Global 旅日記

関連項目 編集