乗数・加速度モデル(じょうすうかそくどモデル、: Multiplier–accelerator model)とは、景気循環を説明するモデルである。ハンセン=サミュエルソンの乗数・加速度モデルとも呼ばれる。ポール・サミュエルソンSamuelson, P.A. (1939))が発表し、J. R. ヒックスHicks, J.R. (1950))が発展させた。発展させたものはサミュエルソン=ヒックスの乗数・加速度モデルと呼ばれる。

概要 編集

乗数・加速度モデルは乗数原理と加速度原理を合わせ、景気循環を説明しようというものである。以下はサミュエルソンによる乗数・加速度モデルである[1][2]

 
(1)
 
(2)
 
(3)

ただし、

  •  : GDP
  •   はt期の消費。 は基礎消費。
  •   はt期の投資。 は独立投資。
  •  : 消費性向
  •  : t期(時間)
  •  : 加速度係数

をそれぞれ指す。

ここで、(1) はt期の国民所得 が消費されるか投資されるかのいずれかであることを示している。(2) はt期の消費 がどのように決定されるかを示している。(3) はt期の投資 がどのように決定されるかを示している。(3)式は加速度原理を表している[3]

(1)、(2)を(3)に代入すると、

 
(4)

という2階差分方程式を得る。これを(4)式とする。

 

とおいて、(4)式を整理すると、

 
(4')

(4')式の不動点を求めると、

 
(5)

これを(5)式とする。

(4')式の特性方程式は、

 
(6)

この特性方程式を(6)式とする。(6)式の判別式をDとすると

 

よって、 が正のとき実根が存在し、負のとき複素根が存在する。 (6)式の特性根は

 

このモデルで示される経済は、(6)式の特性根が実根の場合、時間とともに単調に発散するか、単調に不動点に収束することになる。このモデルで示される経済は、(6)式の特性根が複素根の場合、変動が存在する。 複素根が存在するとして、これらの複素根を

 

と置く。さらに、特性根の絶対値を とすると、

  •  
  •  
  •  

となる。これらの式から、

 
 

同次部分の一般解を求めると、

 

(6)式の特性根の式から、

 
 

なので、

 

となる。このとき、 ならば解の軌道は時間とともに振動しながら不動点に収束し、 ならば解の軌道は時間とともに振動しながら発散する[4]

このサミュエルソンの乗数・加速度モデルの特性方程式が複素根を持つ場合に対して、J. R. ヒックスは床と天井の概念を導入した[4]

脚注 編集

関連項目 編集

参照文献 編集

  • 西垣泰幸「非線形動学理論と経済成長,景気循環:展望」『龍谷大学経済学論集』第45巻第4号、龍谷大学経済学会、2006年3月、75-100頁、hdl:10519/4233ISSN 09183418NAID 110005859236 
  • 森誠「乗数・加速度原理と景気循環:2階差分方程式と位相図」『経済学雑誌.別冊』第100巻第1号、大阪市立大学経済学会、1999年4月、46-51頁、ISSN 04516281NAID 40000854640 
  • Hicks, J.R. (1950). “A Contribution to the Theory of the Trade Cycle”. Oxford University Press (Oxford): 95-100. 
  • Samuelson, P.A. (1939). “Interactions between the multiplier analysis and the principle of acceleration”. Review of Economic Statistics 21: 75-78.