二水素結合(にすいそけつごう、dihydrogen bond)は水素結合の一種であり、金属水素化物とOH基、NH基などのプロトン供与体との間に働く相互作用である。BrownとHeseltineにより最初に報告された[1]。彼らは(CH3)2NHBH3の溶液の赤外吸収スペクトルで3300および3210 cm-1に大きな吸収を観測した。高エネルギーバンドは通常のN-H振動に帰属され、低エネルギーバンドはB-Hと相互作用している同じN-Hの振動に帰属される。溶液を希釈すると、3300 cm-1のバンドは強度を増し、3210 cm-1のバンドは減ずることから、分子間の結合があることが示唆された。

二水素結合はアンモニアボラン(H3NBH3)の結晶構造で再注目された。この分子は、BrownとHazeltineの報告と同様に、窒素原子に結合している水素原子が正に帯電し(Hδ+)、ホウ素原子に結合している水素原子は負に帯電(Hδ-)している[2]。言い換えると、アミンはプロトン酸的でボランはヒドリド的である。結果として生じたB-H...H-Nの引力が固体として分子を安定化する。対照的に、エタン(H3CCH3)は融点がアンモニアボランよりも285 ℃低い気体である。2つの水素原子を介する結合様式であることから、二水素結合と呼ばれるようになった。

二水素結合の生成はヒドリドとプロトン酸の反応によりH2が生成するのよりも速いと考えられる。非常に短時間ではあるが、1.79、1.86、1.94 ÅのH---H間距離をもつNaBH4.2H2Oが観測されている[3]

二水素結合のH---H相互作用は二水素が金属に配位している遷移金属錯体に見られるH---H結合相互作用と区別される[4]。また、フェナントレンなどには2つの中性で結合していない水素原子間にいわゆる水素-水素結合があると考えられている。

出典 編集

  1. ^ Brown, M. P.; Heseltine, R. W. (1968). “Co-ordinated BH3 as a proton acceptor group in hydrogen bonding”. Chem. Commun. (London) (The Royal Society of Chemistry) (23): 1551–1552. doi:10.1039/C19680001551. https://doi.org/10.1039/C19680001551. 
  2. ^ Siegbahn, Per E. M.; Eisenstein, Odile; Rheingold, Arnold L.; Koetzle, Thomas F. (1996). “A New Intermolecular Interaction:  Unconventional Hydrogen Bonds with Element−Hydride Bonds as Proton Acceptor”. Accounts of Chemical Research 29: 348–354. doi:10.1021/ar950150s. https://doi.org/10.1021/ar950150s. 
  3. ^ Custelcean, Radu; James e. jackson (2001). “Dihydrogen Bonding:  Structures, Energetics, and Dynamics”. Chemical Reviews 101: 1963–1980. doi:10.1021/cr000021b. https://doi.org/10.1021/cr000021b. 
  4. ^ Kubas, G. J. (2001). Metal Dihydrogen and σ-Bond Complexes. New York: Kluwer Academic/Plenum Publishers