先輩(せんぱい)とは、日本標準語で、学校会社などにおいて、その組織に先に加入したものを指す言葉で、それが同じ者は同輩(どうはい)などと言う。「入った順番」が基準になり、年齢は一切問わないので、会社では「年下の先輩」「年上の後輩」になることもある。特定人物への単純な敬称や愛称として用いる場合もある。自分が入学する前に卒業した人など「知らない人同士」であっても(小学校は7歳以上、中学校と高校は4歳以上、大学は5歳以上の年齢差がある場合)先輩とされることが多い。

英語圏、その他の言語では、先輩と同義になる単語が無い、もしくは複数該当し煩雑化するため、そのままSenpaiと表記することもある。

先輩の持つ社会的力の種類 編集

待遇表現上の先輩の社会的力 編集

先輩は特権として後輩差別する権利を保障されており、「後輩」に対する見下し表現(いわゆるタメ語)の使用権と、服従表現(いわゆる敬語)の要求権を保持している[注釈 1][注釈 2][1]

先輩の後輩への命令権やハラスメント権 編集

先輩は、場合によっては、PL学園高校で起こったように、「後輩の嫌がることを命令する権利(パワハラ)」、「後輩を暴行する権利を集団内で暗黙の裡に認められること」を実際に行使することもある[2][3]。同様の事件は、天理大学でも起こっている[4]

先輩の持つ力は、各部活、各学校によって違うが、極端な例として、日体大女子バレー部では、マニュアルとして、下級生がやるべきことが300項目もあり、『「汗でぬれた床は素早く拭く。その時、監督がいるベンチに尻を向けてはいけない」「移動で『タクシー』といわれたら、1年生全員で停めにいく」 「お茶は1年生が自腹で買う」「病気で練習を休むときは、4年生全員に電話をする」』といった内容が含まれているという報道があった[5]

先輩による後輩への差別・支配隷属関係を背景とした事件 編集

  • 2013年7月16日、山形県酒田市の市立中学校で、当時3年の男子生徒2人が、当時14歳だった2年の男子生徒1人に暴行し、その鼻の骨を折るけがをさせた。この3年生2人は、この2年生がLINEに「3年生は怖くない」という趣旨の書き込みをしたことで、この3年生2人が「上下関係を軽んじられて頭にきた」ことを、その暴行の大義名分として述べた[6]
  • 2011年12月18日、青森山田高校の野球部の当時2年生だったある1人の部員が、同高校敷地内の野球部寮の部屋で、同部所属のある1人の当時1年生の部員を暴行した。この暴行された部員は死亡した。この事件では2012年1月、青森署がこの元上級生を暴行容疑で書類送検した[7]
  • 2011年6月1日、天理高校野球部の、ある4人の当時3年生の部員が、同部活に所属するある3人の当時2年生の部員に対し、その練習中の態度に問題があったことへの制裁として、殴打を加えた。その結果として、その内の1人は右頬骨折や耳の鼓膜が破れるケガを負い、他の2人も軽傷を負った。この殴られた部員たちは、「練習中にボールが当たったと言え」と、殴った部員たちから命令された[8]
  • 2013年10月上旬、延岡学園野球部の、ある1人の当時2年生の部員が、別のある1人の当時1年生の部員に対し、暴行を加えた[9]
  • 2014年4月から7月にかけて、済美高校野球部で、ある複数の2年生部員が、別のある複数の1年生部員に対し、その太腿を蹴り、尻をバットで殴り、カメムシや灯油の飲食をさせようとするなどの行為を行った[10]。日本高野連は、一定期間対外試合禁止をさせる方向で処分を検討し始めた[11]
  • 2013年から2014年にかけて、防衛大学校で、ある複数の学生が、自身よりも後に入学した別のある一人の、2014年当時二年生の学生に対し、その服を脱がせ、その毛に火をつける行為や、その他のいじめを行い、ストレス障害に追い込んだ[12][13]

関連項目 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 三輪(2000:93-94)では、この当時の日本標準語の待遇表現についての認識を示したものとして、非相互的な敬語使用は、上司部下だけでなく、上級生下級生、先輩後輩の間にもあり、特に部活の先輩後輩には顕著なようであるという内容を提示している。そのあとで、三輪は、「そして上に対して丁重な敬語を使うものは往々にして下にたいしてぞんざい尊大な話しぶりになり、しかも下からは丁重な敬語を要求して、その些細な誤りでも咎めだてするところがある。日本語敬語は上位者にとっては心地よい言語であろうが、下位者にとっては不愉快なことの多い言語である。上司部下と先輩後輩との言葉遣いの非相互性は、後輩が上司になったり、逆に先輩が部下になったりした時、双方にしばしば深刻な感情問題を引き起こすこともよく知られる。」と、日本標準語規範主義待遇表現を、「日本語敬語」と位置付けて、その支配従属関係の明示性が、社会上屈服させられ劣位におかれたものの自尊心を傷つけることを指摘している。
  2. ^ 蒲谷他(1998:8)では、後輩(後に入ったもの)を『-1』、先輩(先に入ったもの)を『+1』に位置づける場合があるとして、より明確に組織に入った順番で固定的な支配権ポイントを自動的に割り振る日本標準イデオロギーを述べている。

出典 編集

  1. ^ 『人間を年齢や学年で区別し「上下関係を規定する」コミュニケーションを止めるる(規範主義的日本語では、『止める』だが、ママ)ということです。先輩には「ですます調」で話し、後輩には「だ、である調」を基調とした権威的な話法で通す、下から上への「異議」は認めない、「先輩」の自尊心は守られ「後輩」は自尊心上の譲歩を強いられるという「無意味なヒエラルキー」』留年させるなら先輩後輩カルチャーも止めるべきでは?冷泉彰彦執筆NewsweekJapan2012年02月24日付け
  2. ^ 『2人のうち1人に対して、目の前にいる上級生をからかうように指令。渋々従った1年生に対して、怒った2年生が殴る、蹴るの暴行を加えた。さらに、上級生はこの1年生に、別の2年生のところにも行って、同じようにからかうように指令。指示に従うしかなかった1年生は、最後は鼻の上に飛び乗られるなど、1度目を上回る激しい暴行を受けた。』「明らかないじめ」PL学園部内暴力詳細 nikkansportsウェブ版2013年4月9日付のアーカイブ
  3. ^ 『同校寮内で、当時2年生部員4人が1年生部員の腹の上に膝蹴りを加えるなどの暴行。1年生部員はけいれんを起こすなどして、救急搬送された。』PL学園・河野監督が辞任 暴力事件で対外試合禁止中 スポーツ報知ウェブ版2013年4月28日付のアーカイブ
  4. ^ 『5月中旬、1年生数人が練習中に水を飲んだとして4年生4人が十数人の1年生に平手打ちの暴行を加えたほか、7月上旬にかけて特定の1年生の尻を木刀でたたくなどしたという。この1年生は左耳の鼓膜が破れるけがを負い、その後退部を申し出たことで暴行が発覚した。』【柔道】天理大で部内暴力 4年生4人が1年生に暴行スポーツ報知、2013年9月4日10時43分配信、2013年9月4日閲覧
  5. ^ 日体大の危機感「染みついた体罰・パワハラ体質」雑巾がけやお茶買いなど下級生いじめJ-cast2013年6月14日15時43分配信
  6. ^ LINE記述巡り中3の2人が下級生を暴行、山形日本経済新聞2013年7月19日13時47分付、共同通信社配信、2013年9月5日閲覧
  7. ^ 青森山田の暴行死亡事件 両親が元上級生を告訴スポニチAnnex2012年6月21日11時55分配信、2013年10月20日閲覧
  8. ^ 天理が出場辞退 部内暴力発覚…被害者1人は重傷スポニチAnnex2011年6月24日06時00分配信、2013年10月20日閲覧
  9. ^ 昨夏甲子園準V 延岡学園で暴行事件日刊スポーツweb版、2014年1月23日14時46分配信、2014年1月23日閲覧
  10. ^ 済美高野球部でいじめ、高野連に報告 バットで尻たたく朝日新聞デジタル、2014年8月15日21時54分執筆、2014年8月26日閲覧
  11. ^ 高野連 済美いじめ問題を上申へデイリースポーツ、2014年8月20日執筆、2014年8月26日閲覧
  12. ^ 防衛大生が先輩ら8人告訴 いじめ暴行受けストレス障害朝日新聞デジタル、2014年8月8日00時46分執筆、2014年8月26日閲覧
  13. ^ 「防衛大で上級生が暴力」 2年生、告訴へ東京新聞、2014年8月4日執筆、2014年8月26日閲覧
  14. ^ 大阪大学におけるハラスメント問題に関する基本方針大阪大学、2010年1月25日付、2014年8月26日閲覧。ここでは、日本社会においては、職務役割と関係なく、『先輩』『後輩』に見られるように、年齢や組織加入順で人の間に自動的に固定的な権力の格差を割り振ることがはっきりと記されている。ここではそのこと自身は、『組織である以上当然』と否定せず、日本規範主義的な権力秩序を承認しているが、同時にそれがハラスメントの原因となっていることを記している。
  15. ^ ハラスメントをなくすため ひとりひとりを大切に中央大学、2007年2月18日、2014年8月26日閲覧。ここでは、先輩後輩、年齢、性別、といったもので支配隷属関係を築いてきた日本規範主義の存在を確認し、それを穏やかに批判しつつ、違いを上下にせず互いに敬意を払うことが大事と述べている。

参考文献 編集

  • 蒲谷宏、川口義一、坂本恵(1998)『敬語表現』東京、大修館書店.
  • 三輪正(2000)『人称詞と敬語-言語倫理学的考察』東京、人文書院.