創世記組曲』(そうせいきくみきょく、Genesis Suite)は、アメリカ合衆国の作曲家・指揮者ナサニエル・シルクレットによって企画された、7人の作曲家による合作の組曲で、管弦楽・合唱・語りによって創世記の物語を音楽にしたもの。1945年に初演された。

概要 編集

ナサニエル・シルクレットはRCAビクターの軽音楽部門の責任者であり、著名な作曲家に依頼して創世記の組曲を作る企画を立てた。テクストは欽定訳聖書による。各曲は以下のように構成される[1]

作曲家 内容 創世記の章
アルノルト・シェーンベルク 前奏曲 -
ナサニエル・シルクレット 天地創造 1-2章
アレクサンデル・タンスマン アダムとイブ 2-3章
ダリウス・ミヨー カインとアベル 4章
マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ 洪水 6-8章
エルンスト・トッホ 契約(虹) 9章
イーゴリ・ストラヴィンスキー バベル 11章

演奏時間は約50分で、第2・3・5曲が約10分、他の4曲は約5分。

7人の作曲家は当時全員アメリカ合衆国(主にロサンゼルス一帯)に住んでいた。ほかにバルトークヒンデミットプロコフィエフも加えることを予定していたが、実現しなかった[2]。この結果、7人中ストラヴィンスキーを除く6人がユダヤ人作曲家になった。

初演と復元演奏 編集

組曲は1945年11月18日、ワーナー・ジャンセンの指揮により、ロサンゼルスで初演された。エドワード・アーノルドが語り手をつとめたが、その後は演奏されることがなかった[2]。同年12月11日にはRCAにおいて私費でレコーディングがなされた。このレコードは78回転のSPレコード5枚から構成されていた。1951年には語り部分のみ録音し直したLPレコードがキャピトル・レコードから発売されたが、これもごくわずかしか販売されなかった。2001年に同じ録音がCDとして発売された[2]

その後、シルクレットの家は火災に遭い、複製の残っていたシェーンベルクの『前奏曲』作品44とストラヴィンスキーの『バベル』を除く5曲の楽譜は失われたと考えられていた。しかしアメリカ議会図書館にミヨーとカステルヌオーヴォ=テデスコの手書きスコアおよびシルクレットが作成した他の3曲のショートスコアが保存されているのが1998年に発見され、パトリック・ラスによって3曲の草稿と1945年の録音をもとに再オーケストレーションがなされた。この復元版は2000年にベルリンジェラード・シュワルツ指揮のベルリン放送交響楽団によって新たにレコーディングされた[1][2]

エピソード 編集

タンスマンによると、シルクレットは創世記のテクストはナレーションによって語られ、管弦楽は描写的であるべきだと考えていた。しかし、ストラヴィンスキーは神の言葉が普通の人間の言葉で語られてよいわけがないと考え、神の言葉は男声合唱により歌われることになった。また管弦楽が情景を描写することにも反対した[3]

脚注 編集