インプレサリオ: impresario)は、コンサート、演劇、オペラなどを行う団体を組織し、また多くの場合その資金調達を行う者を指す言葉である。イタリア語で企業や事業を意味する「impresa」という言葉に由来する[1]。類似の役割を行う者として、 アーティスト・マネージャーや、映画テレビ番組のプロデューサーがある。

歴史 編集

元来は、社会的、経済的な意味合いにおけるイタリア・オペラ英語版の世界で用いられていたものである。18世紀中期から1830年代にかけて、インプレサリオは歌劇の公演を行う組織にとって鍵となる存在だった[2]。劇場のオーナーたちはたいていの場合貴族階級のアマチュアであり、財政的なリスクを負いつつ、作曲家(1850年代までオペラは新作の上演を行うことが期待されていた)、オーケストラ、歌手らとの契約や、衣装や美術製作を行う責任者としてインプレサリオを任命した。1786年、モーツァルトは全1幕の喜劇『劇場支配人』で、そのストレスや感情的などたばた騒ぎについて風刺している。アントニオ・ヴィヴァルディは、インプレサリオと作曲家の両方を兼ねていた稀有な存在である。1714年、彼はヴェネツィアのサンタンジェロ劇場英語版において、自作の『狂気を装うオルランド』を初めとする数多くの公演を行った。

アレッサンドロ・ラナーリ(1787年 - 1852年)は衣装製作を手がける店のオーナーであったが、仲介者を排してフィレンツェのペルゴーラ劇場英語版でオペラのシーズンを成功に導き、ヴェルディの『マクベス』初演版のほか、ベッリーニのオペラ2作、『ランメルモールのルチア』を含むドニゼッティのオペラ5作の上演を手がけた。ドメニコ・バルバヤ(1778年 - 1841年)は当初カフェの給仕であったが、そこから身を興してミラノのスカラ座の経営者となり、賭博所の運営やルーレットの導入なども行った。

ゾフィー・エリーザベト・ツー・メクレンブルクドイツ語版[3]ハープシコード奏者であったが、インプレサリオとして、17世紀北ドイツの宮廷音楽界を取り仕切った。

近世の用法 編集

エンターテインメント業界では、コンサートやツアーなどの音楽上のイベント、オペラ、劇場、あるいはロデオ[4]での催しを行うプロデューサーを指すものとして、伝統的な意味でのインプレサリオという用語がいまだに使用されている。近世における重要なインプレサリオとしては、トーマス・ビーチャムルドルフ・ビングセルゲイ・ディアギレフリチャード・ドイリー・カートフォーチュン・ガッロ英語版ソル・ヒューロック英語版アーロン・リッチモンド、そしてジャズ・フェスティバルのプロデューサーであるジョージ・ウェインなどがいる。

女性を指すものとしてはあまり使われない用語であるが、モダンなパンクとニューウェーヴ・ファッションをメインストリームに押し上げる役割を広く果たしたヴィヴィアン・ウエストウッドは、現代の女性のインプレサリオの例である[5]。議論の余地はあるが、シャロン・オズボーンもインプレサリオの別の一例といえる。

他の用例 編集

インプレサリオは、自主運営の美術館におけるキュレーター[6]や、組織的なイベントで主導的な役割を担う会議の主催者[7]といったものを指す用語としても使われることがある。

比喩的な用法 編集

ジャック=イヴ・クストーは、科学者らとともに水中探検を行う探検家・映画製作者である自身を形容する表現として「科学のインプレサリオ」という表現を用いた[8]。また、ジェームズ・ワトソンE. O. ウィルソンチャールズ・ダーウィンの業績のインプレサリオである、との形容を、ニコラス・ウェイド英語版は『ニューヨーク・タイムズ』紙で用いている[9]

参考文献 編集

  1. ^ New Oxford American Dictionary. Impresa: enterprise; deed; company. Mondadori's Pocket Italian–English English–Italian Dictionary. The term is sometimes misspelled impressario.
  2. ^ Rosselli, John (1984). The Opera Industry in Italy from Cimarosa to Verdi: The Role of the Impresario. Cambridge University Press. This history is summarized here.
  3. ^ Porter, Cecelia Hopkins (2012). Five Lives in Music : Women Performers, Composers, and Impresarios from the Baroque to the Present.. Urbana: University of Illinois Press. ISBN 9780252037016 
  4. ^ Broadway Rodeo”. Time (1937年10月18日). 2017年6月23日閲覧。
  5. ^ Bell-Price, Shannon (2010年). “Vivienne Westwood (born 1941) and the Postmodern Legacy of Punk Style Source: Vivienne Westwood (born 1941) and the Postmodern Legacy of Punk Style”. Metropolitan Museum of Art. 2017年3月7日閲覧。
  6. ^ New Impresario for the Showcase”. Time (1967年11月24日). 2017年6月23日閲覧。
  7. ^ Champion of Explication Through Design and Design Conference Impresario Richard Saul Wurman, 2004 AIGA Medalist.
  8. ^ Jacques-Yves Cousteau on Bartleby.com
  9. ^ Nicholas Wade (2005年10月25日). “Long-Ago Rivals Are Dual Impresarios of Darwin's Oeuvre”. The New York Times. 2017年6月23日閲覧。

関連項目 編集