北九州児童養護施設虐待事件

福岡県の児童養護施設で発覚した児童虐待事件

北九州児童養護施設虐待事件(きたきゅうしゅうじどうようごしせつぎゃくたいじけん)とは、福岡県北九州市にある児童養護施設において、主に2019年に発覚した児童虐待事件である。

北九州児童養護施設虐待事件

北九州児童養護施設虐待事件位置図

― 政令指定都市 / ― 市 / ― 町 / ― 村

場所 福岡県 にある児童養護施設
日付 【第1の事件】2019年6月発覚
【第2の事件】2019年7月発覚
【第3の事件】2019年7月発覚
【第4の事件】2019年8月発覚
【第5の事件】2019年9月発覚
【第6の事件】2019年11月発覚
【第7の事件】2019年11月発覚
【第8の事件】2019年11月発覚
【第9の事件】2000年8月発覚
【第10の事件】2019年7月発覚
【第11の事件】2019年9月発覚
【第12の事件】2019年9月発覚
【第13の事件】2019年9月発覚
【第14の事件】2019年11月発覚
【第15の事件】2018年9月発覚
【第16の事件】2022年3月発生
【第17の事件】2022年5月発生
【第18の事件】2022年8月発生
被害者の会 福岡県福岡市中央区六本松4-9-38 六本松ハナマンビル2階にある六本松中央法律事務所が退所した男子児童の親族などの支援にあたっている。
管轄 【第1~第12の事件】北九州市役所子育て支援課。北九州市子ども総合センター(児童相談所)。福岡地方検察庁小倉支部。福岡県警察本部少年課及び福岡県小倉南警察署の生活安全課少年係。
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【0】一連の事件の概要

事件の概要

福岡県北九州市小倉南区に本部を置く双葉会が運営する児童養護施設において、施設長が北九州市役所の指導に1年以上も従わず放漫な施設運営をしていた(後述する第15の事件)。このため児童養護施設の男性職員らによる入所児童への虐待(後述する第1~8の事件)、入所する児童間の性的虐待(後述する第10~12の事件)などが長期間にわたり見過ごされた事件である。

事件の構成

一連の事件は、後述する男性職員Xによる事件(後述の第1~第4の事件)を中核とし、次に挙げる5分類、累計18件の事件から構成される。

事件の件数
分類 事件の概要 事件の番号 事件の件数
【1】 職員Xによる事件 第1~第4 4件
【2】 他の職員による事件 第5~第9 5件
【3】 入所児童間の事件 第10~第12 3件
【4】 施設長による事件 第13~第15 3件
【5】 退所児童による事件 第16~第18 3件
累 計 18件
虐待事件(計12件)の内訳
分類 事件の番号 事件の概要 加害者 被害者
【1】 第1の事件 性的虐待 男性職員X 男子児童
第2の事件
第3の事件
第4の事件
【2】 第5の事件 性的虐待 男性職員Y 女子児童
第6の事件 身体的虐待 男性職員U 男子児童
第7の事件
第8の事件
第9の事件 男性職員S 男子児童
【3】 第10の事件 性的虐待 男子児童 男子児童
第11の事件
第12の事件

※第10の事件の加害児童と第12の事件の被害児童は同一の男子小学生である[1][2]

※第11の事件の被害児童と第12の事件の加害児童は同一の男子中学生である[1][2]

運営する児童養護施設

双葉会では、2023年度において以下の施設を運営している(2023年度開設予定分も含む)[3][4][5]

  • 児童養護施設「双葉学園」(本園)
  • 児童養護施設「双葉学園みのり」(分園)
  • 地域小規模児童養護施設「壱葉」(いちは)
  • 地域小規模児童養護施設「弐葉」(にいは)
  • 地域小規模児童養護施設「参葉」(みつは)

他施設への影響

後述する第1の事件が発覚した2019年6月以降、インターネット上において、第1の事件に関係する施設として、福岡県北九州市若松区に本部を置く社会福祉法人高塔会が運営する児童養護施設暁の鐘学園も名指しされた。このため暁の鐘学園はホームページで「(前略)今回の事件は、他の施設で発生した事件であり、当園とは一切関係ありません。現在、警察・行政機関等への報告・相談を行い、関係各所から助言・指導を受け対応に当たっております。また、該当記事の削除依頼を行うとともに、損害賠償も含めた法的対応も視野に入れていくよう検討しております(後略)[6]」との告知をした。

【1】職員Xによる事件

男性職員X
生誕 福岡県 北九州市
住居 福岡県 北九州市
国籍   日本
職業 児童養護施設児童指導員
(事件発覚当時43歳)
罪名 ・強制わいせつ罪1件
・強制性交等罪1件
・児童買春1件
・児童ポルノ禁止法違反1件
・児童福祉法違反4件
刑罰 懲役8年(求刑懲役9年)
犯罪者現況 佐賀県内の刑務所に収監中
配偶者 なし
子供 なし
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男性職員Xとは

Xは、1994年3月に福岡県北九州市内の私立高校を高校卒業し、その数ヶ月後に自宅近くの児童養護施設において児童指導員として入職した[7]。その後Xは、福岡県北九州市にある児童養護施設間の人事交流により、2011年から双葉会(以下、「運営法人」という。)が運営する児童養護施設において児童指導員(2012年からは正職員)として入職した[7]

事件の概要

男性職員Xは、遅くとも2015年1月ころから2019年の3月まで間、勤務する施設やXの自宅などにおいて、当時、児童養護施設に入所していた小学4年生(11歳)から中学2年生(14歳)の男子児童4名に対して、児童買春や強制性交などを繰り返していた。また、その際Xは金属製の手錠を使用する。又は男子中学2年生(14歳)のわいせつな姿態を、ビデオカメラを用いて撮影することもあった[8][9][10][11][12][13][14]

事件発覚の前兆

男性職員Xは[15]、当該施設においてもパパ・兄ちゃんと呼ばれ入所児童から慕われていた。しかし、男性職員Xは、深夜に指導と称して入所する男子児童と空き部屋で2時間程度を過ごしたり、週末などに施設に無断で入所児童を連れ出したりするなどの不適切な行為があった[8][14]

このため運営法人は入所男子児童への過剰な接触を理由に、2018年に男性職員Xを訓戒処分にしたものの、改善が見られなかったことから翌年2月に諭旨免職処分とし、男性職員X(当時43歳)は約7年勤務した当該施設を退職することとなった[8][14]

事件の遠因

第1~第4の事件の主因は男性職員Xの不法行為である。ただし、職員Xは勤務シフト以外の時間帯において頻繁に入所児童の居室に居残っているにもかかわらず入所児童の記録を一切記載しないなど、長期間にわたり異常な行動が確認されていたものの、当該施設の管理者である施設長Wは、これを数年にわたり放置していた。このように施設長Wは児童福祉法などが定める「最低限の技術的基準」を遵守していなかったために、男性職員Xによる性加害を防止できなかったとし、福岡県弁護士会は運営法人の理事会や施設長Wの放漫な施設運営が当該性的虐待事件の遠因であったとした[16]

X(第1)の事件

男性職員X(当時43歳)は、退職後の2019年3月8日、入所する男子児童C(当時中学1年生・13歳)を施設に無断で施設外に呼び出していた。そして同日午後10時30分ころ、福岡県北九州市八幡西区内のビジネスホテルの客室内において、わいせつな行為をさせたとして児童福祉法違反の疑いで2019年6月17日に逮捕された。男子児童Cは2019年3月8日に、施設に戻らなかったことから、施設側は同日中に福岡県小倉南警察署に行方不明届を提出していたものの男子児童Cは翌9日には自ら施設に戻った。男性職員Xは「ホテルに行ったが、わいせつな行為はしていない」などと容疑を否認していたものの、北九州市役所子ども家庭局は、当該施設及び運営法人に対する特別指導監査を開始した[8][17]

施設関係者は、退職しても施設周辺で男性職員Xの姿を見かけたと言うほか、「(Xは)子どもたちからの信頼は厚かった」。「(Xを)かばうような口ぶり。(被害入所児童に)被害者意識が薄く、驚いた」と言っていた。また、警察官は「みんな口々に『世話になった気持ちがある』と話し、被害の全容をなかなか言ってくれない」とする[13]

福岡県福岡市にある西南学院大学人間科学部社会福祉学科の安部計彦教授は、第1の事件について「小児性愛などの性的指向を持つ人にとって施設が犯行しやすい場となっている可能性があり不用心だ。採用で性的指向を確認する仕組みが必要」と指摘していた[8]

X(第2)の事件

男性職員X(当時43歳)は、2018年12月23日午前2時ころXの自宅において、13歳未満と知りながら施設に入所する男子児童D(当時小学4年生・11歳)にわいせつな行為をしたり、させたりしたなどとして、強制性交等と児童福祉法違反の疑いで2019年7月8日に再逮捕された。男性職員Xは、入所児童に家庭的な環境を経験させることを目的に、週末や長期休みなどに施設職員の自宅に児童を宿泊させる「一日里親」の仕組みを利用して、勤務していた施設には無断で男子児童D及びM(当時小学5年生・11歳)をXの自宅に宿泊させていた。なお男性職員Xは諭旨免職となった後、男子児童Dに対して(昨年の)「12月のことは言うな」と口止めをしていたほか、福岡県小倉南警察署の取り調べに対して「自宅に泊めたが、わいせつな行為はしていない」などと容疑を否認していた[9][12]

男子児童Mは、施設の聞き取りに対して、職員Xと男子児童Dと一緒の部屋で就寝したが、性的な被害を一切受けていないとしていた。他方、男子児童Dは2019年6月になり、男性職員Xから性的被害を受けていることを告白した。Dは直ぐに告白できなかったことについて、男性職員Xより口止めがあったほか、「遊園地に連れて行ってくれ、お世話になっていたので言えなかった」と言っているという[9][12]

X(第3)の事件

男性職員X(当時42歳)は、2018年9月10日午前1時ころ、当時勤務していた施設2階の宿直室で入所男子児童B(当時中学2年生・14歳)に対しわいせつな行為をさせた。加えてその様子をビデオカメラで撮影したとして児童福祉法違反、児童買春児童ポルノ法違反(製造)の疑いで2019年7月29日に再逮捕された。なお男性職員Xの自宅などの家宅捜索では、金属製の手錠のほかビデオカメラなどが押収されていたところ、当該カメラ内に今回のわいせつ動画が残っていた。これを受け男性職員Xは、これまで否認していた事件を含め全ての容疑について認めた[10][11]

X(第4)の事件

男性職員Xは、2015年1月ころ、当時勤務していた施設2階の宿直室において、当時小学5年生(11歳)であった男子児童A(Mの兄)に対し、わいせつな行為をしたとして2019年8月に強制わいせつ児童福祉法違反の容疑で書類送検された[2]。その後A自身も、2022年3月、後述の第16の事件において刑法222条の脅迫の容疑で書類送検された[18][19]

上記事件のまとめ

第1の事件 第2の事件 第3の事件 第4の事件
発生 2019年3月 2018年12月 2018年9月 2015年1月ころ
発覚 2019年6月 2019年7月 2019年7月 2019年8月
場所 福岡県北九州市八幡西区内のビジネスホテル 福岡県北九州市若松区にある男性職員Xの自宅 当該児童養護施設2階にある宿直室 当該児童養護施設2階にある宿直室
児童 当時中学1年生(13歳)の男子児童C 当時小学4年生(11歳)の男子児童D 当時中学2年生(14歳)の男子児童B 当時小学5年生(11歳)の男子児童A
容疑 児童福祉法違反 強制性交等、児童福祉法違反 児童福祉法違反、児童買春児童ポルノ法違反 強制わいせつ、児童福祉法違反
備考 外泊していたCは翌日には自力で当該施設に帰所した。 虐待当日はAの弟MもX宅に宿泊していたが、Mは、虐待はなかったとしていた。 Xの家宅捜索では金属製の手錠とBのわいせつな映像が押収された。 福岡県警察はAを第16の事件において脅迫罪で書類送検している。
対処 被害児童は他施設に異動した。 被害児童は親権者が引き取った。 被害児童は親権者が引き取った。 被害児童の身柄は児童相談所に移されそのまま退所となった。
影響 男性職員Xの容姿(顔面)、虐待の現場となった当該施設や男性職員Xの戸建て自宅がテレビや新聞で全国的に報道された[20][21][22]

※第4の事件は、刑法強制性交等罪が制定される以前の2015年に発生していた。

【2】他の職員による事件

職員Y(第5)の事件

男性職員Yが、恋愛感情から入所する女子児童Eと施設外で会うなどの交際を続け、施設内の女子児童の居室などで不適切な関係をもっていたところを他の職員から発見された。このため当該職員は2017年6月に自主退職していた[16][23][24]

この事件について、福岡県北九州市小倉北区にあるはたけやまクリニックの藤岡順子院長は、「虐待を受けた子どもは、過剰に保護者の期待に応えようとするケースも見られる。親代わりの立場を悪用したといえ悪質だ」と指摘している[23]

職員U(第6~8)の事件

福岡県小倉南警察署が、2019年4月、30歳代後半の男性職員Uを、あくまでも男性職員Xの事件捜査のため電話で呼び出した。その際、突然の呼び出しに動揺した男性職員Uは、2018年9月以降の自身による身体的虐待が警察にばれたと勘違いし、施設長Wに対し自身の虐待の事実を告白したこれにより施設長WはUの虐待を把握したものの警察や児童相談所などに一切通告をしなかった。しかし、2019年6月からの北九州市役所子ども家庭局による特別指導監査により当該虐待が発覚した[17][25]

職員S(第9)の事件

入所する男子児童Iが、2000年6月24日、施設内でゲーム遊びをめぐって別の児童と口論になったことから20歳代の男性指導員Sは、これを制止したものの、男子児童Jが反抗的な態度に出たため、男子児童Jの顔面を1回平手打ちにした。しかし、同月26日になり患部が化のうしたため、1週間の入院を要する事態となったことが、2008年8月に発覚した[26]。また、この事件においては、施設職員が入所児童の了解を得ないで持ち物検査をしていたことも判明したことから、北九州市役所は、➀入所児童の権利擁護に配慮すること。➁勝手な持ち物検査はプライバシーの侵害に当たること。➂問題が発生したときは即時報告することなど5項目についても行政指導をした[26][27]

この第9の事件について、北九州市役所の駒田英孝市保健福祉局長は、児童相談所に第三者から「指導員が園児に暴行した」と電話があり、市役所が関係者から聞き取り調査をして事件が発覚したとしている[28][29]

上記事件のまとめ

第5の事件 第6~8の事件 第9の事件
発生時期 2017年6月 2018年9月以降 2000年6月
発覚時期 2019年9月 2019年11月 2000年8月
加害職員 男性児童指導員Y 男性児童指導員U 男性児童指導員S
被害児童 女子児童1名 男児児童3名 男子児童1名
虐待内容 性的虐待 身体的虐待 身体的虐待
発覚経緯 施設の申告 市役所の調査 第三者の通告
対  処 加害職員Y・U・Sの3名はいずれも事件発覚後に退職した。

【3】入所児童間の事件

第10~12の事件とは

職員Xによる第1~第4の事件が発覚した前後にあたる2019年4月から9月の半年間だけでも、年長の男子児童が年下の男子児童に対して性的暴力をするという、入所する男子児童間の性的虐待事件が少なくとも3件は発生した。いずれにおいても加害児童については児童相談所(北九州市子ども総合センター)にその身柄を移された。

第10~12の事件の背景

前述の男性職員Xの事件が発覚した前後にあたる2019年4月から9月の半年間では、入所する男子児童間の性的暴力により3名以上の男子児童が実質的な退所に追い込まれ、その一部は福岡県久留米市内にある精神科に長期措置入院となった[1][2][16][30]

北九州市役所は男性職員Xの事件発覚前より、①施設の消灯時間に夜警の専門職員の配置、②入所児童の心のケアを担当する心理療法専門職員の配置、③入所児童への体系的な性教育の実施、④施設職員に対する体系的な虐待防止研修などを行うよう行政指導を続けていた。しかし、施設長Wは長期間にわたりこれらの対応を放棄していたことから、入所する男子児童間の性的虐待事件が数ヶ月にわたり公然と見過ごされていた。ちなみに、後述する北九州市社会福祉審議会においては、男性職員Xから性的虐待を受けていた一部の被害児童が、児童間の性的虐待では一転加害側になっていたことが問題視されていた[1][2][16][30]

2019年4月~9月(半年のみ)の事件のまとめ

第10の事件 第11の事件 第12の事件
発生時期 2019年6月と7月 2019年9月 2019年4月
発覚時期 2019年7月 2019年9月 2019年9月
虐待場所 2階の居室内 2階の脱衣場 2階の居室内
加害児童 男子小学生1名 男子中学生1名 男子中学生1名
被害児童 男子小学生1名 男子中学生1名 男子小学生2名
虐待内容 性的虐待 性的虐待 性的虐待の指示
発覚要因 施設の届出 第三者による通報 市役所による調査
備  考 第10の事件の加害児童と第12の事件の被害児童は同一の男子小学生である[1][2]

第11の事件の被害児童と第12の事件の加害児童は同一の男子中学生である[1][2]

施設の近年の状況

当該法人が運営する児童養護施設における事件・事故などの発生状況は、以下のとおりである。近年においても入所する児童間の性暴的力、無断外泊、喧嘩などが多数報告されている[31][32]

入所児童 施設職員 苦情件数
性的暴力 無断外泊 喧嘩など 不適切行為 問題行動 違法行為 放置放任
2021年度 2件 4件 2件 9件
2022年度 1件 9件 12件 4件 2件 3件 5件 6件

※上記の件数は、当該法人が運営する2ヶ所の児童養護施設(本園と分園)での発生件数を合算したものである。

【4】施設長による事件

施設長W及びVとは

運営法人の理事長を50年以上にわたり務めてきた男性が2017年8月に死去したため[33]、その後任にVが就任し、児童養護施設(本園)の施設長にWが就任した[16]。しかし、2017年に市役所の補助金等約6,000万円の不正受給が発覚したことにより、Vは理事長の職を辞し2018年4月より児童養護施設(分園)の施設長に就任した[34]

施設長W(第13)の事件

Wは 2017年に児童養護施設(本園)の施設長に就任した際、自身の給与を給与規定に基づかずに昇給させていた[35]

施設長Wはアメリカニューヨーク州内の高校に進学しているWの長男に、運営法人が法人契約している業務用の携帯電話を2016~2020年の4年間にわたり貸し出し、海外パケット代金を49万円も発生させていた。このため公金である措置費から私用の携帯電話料を賄うのは違法、不法であるとして、福岡県北九州市内の住民が、2019年9月に住民監査請求を申し立てていた(市役所HP2019年10月8日公表分)[36][37]。これを受け運営法人は、2021年2月になり施設長Wを被告とする損害賠償請求を、福岡地方裁判所小倉支部に提起した[38][39]

施設長V(第14)の事件

施設長Vは、2017年~2018年、月額44万円であった自身の給料を段階的に74万円に引き上げたほか、定められた勤務時間に就業せず、勤務先とは別の施設の給食を「検食」と称して自宅に持ち帰っていたなどから[17]、北九州市役所はVに対し改善勧告を出した経緯がある[40]

施設長W(第15)の事件

施設長Wは、2017年10月、虐待防止研修の定期的な開催、防犯カメラの録画内容を翌日に確認することなどを柱とする再発防止策を策定し市役所に提出していた。しかし、施設長Wは当該再発防止策の履行を1年余りも放置したことで、前述の男性職員Xによる性的虐待事件(第1~第4の事件)、及び入所児童間の事件(第10~第12の事件)の発見が長きにわたり見過ごされる結果となった。この施設長Wの懈怠は2019年9月に開催された北九州市議会においても取り上げられ問題となった[16][24]

上記事件のまとめ

第13の事件

(施設長Wの事件)

第14の事件

(施設長Vの事件)

第15の事件

(施設長Wの事件)

発生 2016年~2020年 2017年~2019年 2017年~2018年
発覚 2019年9月 2019年11月 2018年9月
概要 Wの給料の不正昇給、業務用の携帯電話を海外で使用、施設職員へのパワハラ。 Vの給料の不正昇給、他の施設の給食を自宅に持ち帰った。施設職員へのパワハラ。 Wが虐待防止策の履行を1年以上懈怠しため第1~第4の事件を防止できなかった。
影響 施設長Wが虐待防止策の履行を1年以上懈怠し第1~第4の事件を防止できなかったこと、施設長が第1~第4の事件について施設側も被害者と発言したことについて、2019年9月に開催された北九州市議会でも問題となった[16][24]
対処 市役所から改善勧告を受けた運営法人の理事会は、2022年1月、児童養護施設の本園の施設長W及び分園の施設長Vを解任した[16]

【5】退所児童による事件

退所児童Aとその弟Mとは

A及びその弟のMは、幼少期に児童養護施設に入所していたものの[41]、Aのみが小学5年生(11歳)のときに職員Xから性的虐待を受けた(前述の第4の事件)[10]。そしてA(当時中学2年生・13歳)のみが2018年12月に、施設長Wの依頼で児童相談所に身柄を移され、その後当該施設に戻されることはなかった[41]

退所児童Aの姉とは

退所児童Aの姉は、2019年7月、男性職員Xに関する取材のためAの姉宅を訪れた朝日新聞の記者に対し、後述する施設の元職員も入所中の未成年のAにわいせつな行為をしたなどと放言していた。これに加え、当該元職員の自宅を暴力団員風の男性を伴い訪問したAの姉は、同所をなかなか退去しなかった[41][42]

退所児童Aの姉(当時29歳)は、2022年6月、「お前は弟(A)の体を触った」、「警察に訴える」などと言って施設の元職員を脅迫したうえ、当該元職員の自宅敷地内に侵入したことから敷地外への即時退去を求められた。するとAの姉は、同行していたAの男性親族に当該元職員から暴力を振るわれていると虚偽の内容を110番通報させ、警察官を出動させていた[41][42]

元入所児童Aらによる事件のまとめ

第16の事件

(脅迫)

第17の事件

(恐喝)

第18の事件

(横領)

加害者 退所児童A 退所児童A 退所児童A及びその姉
被害者 施設の元職員 施設の元職員 施設の元職員
適用罪名 脅迫罪 恐喝罪 横領罪及び横領の幇助犯
適用法令 刑法222条 刑法249条 刑法252条及び62条
被害内容 虚偽の刑事告訴の予告 金100万円の恐喝等 金30万円相当の物品の横領
発生時期 2022年3月 2022年5月 2022年8月
発生場所 福岡県福岡市内の駐車場 福岡県北九州市内の銀行 福岡県内にある施設の元職員の自宅
刑事判断 2023年3月に書類送検済み 2023年4月より警察に相談開始 2023年4月より警察に相談開始
管轄裁判所 小倉簡易裁判所 福岡簡易裁判所
裁判所の判断 Aの預金138万円の仮差押え Aの姉の預金30万円を仮差押え
銀行の対応 Aの預金を全額供託した Aの姉の預金全額を供託した

脅迫(第16の)事件

退所児童A(当時17歳)は、すでに施設を退職していた元職員を福岡県福岡市内に呼び出したうえで、特定危険指定暴力団の名称を用いて「お父さんは元ヤクザだ」。「男性職員Xのときのように、体を触られた」と訴えるぞなどと言い施設の元職員を脅迫した。当該元職員から2022年11月16日に告訴状を即日受理していた福岡県警察は、翌年の3月までに退所児童A(当時18歳)を脅迫罪の容疑で検察庁に書類送検した[18][19]

恐喝(第17の)事件

退所児童A(当時17歳)が、2022年4月21日、すでに施設を退職していた元職員を福岡県北九州市内に呼び出し、特定危険指定暴力団の名称を用いて「お父さんは元ヤクザだ」。「男性職員Xのときのように体を触られた」と訴えるぞなどと言い現金100万円を恐喝等したとする裁判において、小倉簡易裁判所は、2023年4月17日、施設の元職員の申立てを認め、退所児童Aの銀行預金138万1660円を仮に差押える決定をした[43]。当該決定を受けた福岡銀行はA名義の預金全額を北九州法務局に供託した[44]。なお、恐喝した100万円等について、退所児童Aは施設の元職員から一時借用したものであるとしたうえで、そもそも成人(当該元職員)が未成年者と金銭消費貸借契約をすることは無効であるから、Aは当該元職員への返済義務を負わないとしていた[45][46]。これによりAは、東京や大阪に小学校のときの同級生(北海道釧路市在住)などと旅行をし、大型リゾートホテルに連泊するなどしたほか、他の退所児童や児童養護施設に入所しているAの弟Mと高級焼肉店で飲食するなどして、恐喝した現金のほとんどを数ヶ月で使用していた[41][44]

横領(第18の)事件

退所児童A及びその姉は、2022年8月29日、合鍵を使用し施設の元職員の自宅に入室した。そして、施設の元職員が所有する40型のテレビ、ノートパソコンやiPhone12など、時価総額約30万円相当を無断で持ち出したとする裁判において、福岡簡易裁判所は、2023年4月17日、施設の元職員の申立てを認め退所児童Aの姉の銀行預金29万7152円を仮に差押える決定をした[19][47]。当該決定を受けた福岡銀行はAの姉名義の預金全額を北九州法務局に供託した[48]。なお、退所児童A(当時18歳)は、2023年4月11日においても、持ち出したとされる当該テレビ等は施設の元職員から無償譲渡されたものであると福岡県警察に主張し続けている[41]

この事件について退所児童Aの姉(当時29歳)は、2022年、施設の元職員に対し「お前はiPhoneを5円で買っている。SIMカードを返却するからiPhone本体は返さない」、「お前は弟(A)の体を触った」、「警察に訴える」、「お前に請求する権利はない」などと脅迫していた。このため施設の元職員は2023年4月に福岡県警察に当該被害の相談を開始するとともに、同年5月には退所児童Aの姉のみを被告とする民事訴訟を刑事告訴に先んじて提起した[49]

事件の年表

出来事
2000年 6月 男性職員Sが男子児童に身体的な虐待をした(第9の事件)。
2015年 1月頃 男性職員Xが男子児童Aに性的虐待をした(第4の事件)。
2017年 6月 男性職員Yが女子児童Eに性的虐待をした(第5の事件)。
2018年 9月 男性職員Xが男子児童Bに性的虐待をした(第3の事件)。
12月 男性職員Xが男子児童Dに性的虐待をした(第2の事件)。

第4及び第16~18の事件のAが児童相談所に身柄を移された。

2019年   2月 第1~第4の事件の男性職員Xが諭旨免職となった[8]
3月 男性職員Xが男子児童Cに性的虐待をした(第1の事件)
6月 男性職員Xが第1の事件の容疑により逮捕された[8]
7月 福岡県警察が職員Xの自宅等の家宅捜索を行った(第1~第3の事件)。

男性職員Xが第2及び第3の事件の容疑で逮捕された[12][9][10]

児童間虐待の加害児童が児童相談所に身柄を移された(第10の事件)。

8月 男性職員Xが第4の事件の容疑で書類送検された[10]
9月 本事件が北九州市議会で取り上げられた(第1~4の事件)[16][24]

施設長V及びWが住民監査請求の申立てを受けた(第13の事件)。

Wが虐待防止策の履行を1年以上放置していたことが発覚した(第15の事件)。

児童間虐待の加害児童が児童相談所に身柄を移された(第11及び12の事件)。

10月   男性職員Xが強制性交・児童買春などで起訴された(第1~4の事件)。
11月 男性職員Xは論告求刑で執行猶予付きの判決を求めた(第1~4の事件)。

男性職員Uの男子児童への身体的虐待が発覚した(第6~8の事件)。

男子児童間の性的虐待が公表された(第10~12の事件)。

Vは規定時間に就業しないほか、他施設の給食を食べていた(第14の事件)。

12月 男性職員Xに懲役8年の実刑が下された(第1~4の事件)。
2020年 1月 VとWが施設長を解任された(第13~15の事件)。
2月 男性職員Uが事実上退職に追い込まれた(第6~8の事件)。
4月 北九州市役所がアドボケイト(代弁者)[注釈 1]を配置した[50][51]
2021年 2月 施設の運営法人はWを被告とする訴訟を提起した(第13の事件)。
12月 福岡県弁護士会が施設の運営法人を訪問し人権救済勧告を執行した[16]
2022年 3月 施設の元職員が退所児童Aより脅迫を受けた(第16の事件)。
4月 施設の元職員が退所児童Aより現金を恐喝された(第17の事件)。
8月 退所児童Aは施設の元職員の自宅からTV等を持ち出した(第18の事件)。
11月 退所児童Aは脅迫罪で刑事告訴された(第16の事件)。
2023年 3月 福岡県警察は退所児童Aを脅迫容疑で書類送検した(第16の事件)。
4月 裁判所は、退所児童Aの銀行口座の仮差押えを決定した(第17の事件)。

裁判所は、Aの姉の銀行預金について仮差押えを決定した(第18の事件)。

5月 退所児童Aの姉のみを被告とする民事訴訟が提起された(第18の事件)。

被害児童との示談

施設の運営法人の理事会及び施設長は、男性職員Xによる事件について、男性職員Xの個人的な性的嗜好の問題であり運営法人側や施設側も被害者だとして、第1〜第4の事件の原因などについて、ほとんど運営法人の理事会で議論しなかった。また、男性職員UなどX以外の事件についても、被害児童やその保護者に対する慰謝料の支払いは一切行っていない[16][1]。ちなみに、男性職員X個人においては、2019年に一部の被害児童の保護者と示談を成立させている[52]

職員Xの刑事裁判

裁判の概要

男性職員Xは、勤務していた児童養護施設に入所していた男子児童A・B・C・D(前述の第1~第4の事件)に対する強制わいせつ罪1件、強制性交等罪1件、児童買春1件、児童ポルノ禁止法違反(製造)1件、児童福祉法違反(淫行させる行為)4件、計8件の容疑で起訴された[53][54][55][56]

項目   内  容   備 考
裁判所 福岡地方裁判所小倉支部 207号法廷
裁判長 鈴嶋晋一 福岡地方裁判所小倉支部
書記官 大石哲也 福岡地方裁判所小倉支部
検察官 鯰越敦子 福岡地方検察庁小倉支部
被 告 男性職員X 児童養護施設の元職員 
弁護士 水波知也 平和通り法律事務所
起 訴 2019年10月11日午前10時 207号法廷
論告求刑 2019年11月5日午後1時30分 207号法廷
認 否 男性職員X及び弁護士は起訴事実を全て認めた
情状証人 男性職員Xの父親のみ
判決日時 2019年12月3日午後1時30分 207号法廷
判決主文 懲役8年 求刑懲役9年
収監先 佐賀県内の刑務所 判決は2019年12月に確定

被告の認否

福岡地方検察庁小倉支部の鯰越敦子検察官は、2019年10月11日、男性職員X(当時43歳)は、勤務する児童養護施設に入所する男子児童らにタブレット端末で遊ばせる、旅行に連れて行くなどして親しくなった。そのうえで「自身の性欲を満たすため、嫌がる被害者に行為を要求していた」とし、わいせつな行為を長年続けていたと主張した。また諭旨免職後の2019年2月以降も、中学校近くの私道にXの自家用車を駐車して男子中学生に1回あたり数千円を提供して児童買春を続けていたとする、これら起訴状にある事実についてXは「間違いありません」と全面的に認めた。また、Xの担当弁護士も[注釈 2]、起訴内容を全部認めて争わないとしたうえで、次回の論告求刑で性犯罪加害者を対象とした臨床心理士の治療計画書を提出すること[注釈 3]及びXの父親を情状証人とすることを主張し、裁判所はこれを認めた[53][57][58]

論告求刑

福岡地方検察庁小倉支部の鯰越敦子検察官は、2019年11月5日、「犯行は自身の性的欲求を満たすためで指導員の立場を悪用している。被害者に与えた精神的苦痛も相当大きい」。「施設の職員が入所児童にわいせつ行為をしたということが、社会に与えた不安も大きい」と指摘し、懲役9年を求刑した。

他方、男性職員Xの弁護士である平和通り法律事務所の水波知也弁護士は[注釈 2]、Xの父親からXに対する情状証言及び臨床心理士からX(性犯罪加害者)を対象とした治療計画の証言をさせたうえで[注釈 3]、男性職員Xは「反省している。」などと述べ執行猶予付きの判決を求め結審した[59][60]

判決の内容

福岡地方裁判所小倉支部の鈴嶋晋一裁判長は、2019年12月3日、男性職員X(当時44歳)は入所児童を指導・監督する立場にあったうえ、被害男子児童4名に慕われていた面もあった。しかし被告は「児童指導員の立場を悪用して自らの性欲のはけ口として犯行に及んだものであり酌むべき点はない」と指摘した。その上で裁判長は、男性職員Xは「以前から同様の行為を繰り返しており常習性は明らか」、「職員から被害を受けた精神的苦痛は多大。(被害者の)将来への悪影響も懸念される」。「社会に与えた不安も無視できない。」などとし、Xに対して懲役8年(求刑懲役9年)の実刑判決を言い渡した[55][56][61][62]。なお、当該判決は2019年12月に確定し、Xは佐賀県内の刑務所に収監された[16][63][64]

社会福祉審議会の提言

北九州市社会福祉審議会は、2019年11月、次の事由により児童養護施設の施設長V及び施設長Wの解任を施設の運営法人に求めるべきと北九州市役所に提言をした[1][16]

<提言の概要>

  • 施設長Wは、男性職員Xによる指導記録の不記載、勤務時間外の不用意な居残り等について労務管理できていなかった。
  • 施設長Wは、事件発覚前・後において夜警を強化しなかったことから、入所する男子児童間の性暴力が見過ごされていた。
  • 男性職員Xから虐待を受けていた一部の被害児童は、男子児童間の性暴力においては、加害者に転化していた。
  • 施設長Wは、事件発覚前・後において心理療法担当職員2名を欠員させ、入所児童に対する心のケアができていなかった。
  • 施設長Wは、男性職員Xによる事件について、男性職員Xの個人的な性的嗜好の問題と断じ、あたかも施設や運営法人側も被害者であるとの誤った認識を持ち続けていた。
  • 運営法人の理事会においても、男性職員Xによる事件は、男性職員Xの個人的な問題と結論付け、当該事件の原因などについて、ほとんど議論しなかった。
  • 施設長V及びWは、日頃より高圧的な姿勢で職員に接していたことから、職員は施設長に何も言えない状態になっていた。
  • 運営法人の理事会は、適格性を欠いている施設長V及びWを放任するなど、内部統制システムが機能不全の状態に陥っていた。

弁護士会の勧告

第三者から「子どもの人権救済申立書」を受理していた福岡県弁護士会人権擁護委員会)は、2021年12月2日、施設の運営法人を訪問し「人権救済勧告」を執行した[16][65][66]。このなかで福岡県弁護士会は、施設が児童福祉法などが定める最低限の技術的基準を遵守していなかったために、男性職員Xによる加害を防止できなかったとした。また、被害を拡大させたことは被害児童が有する「人格権」(憲法13条)、「子どもの成長発達権」(児童の権利に関する条約前文、6条、19条)や、「虐待から保護される権利」を侵害することとなるとした[16][67]

市役所の勧告・指導

市役所の運営法人に対する勧告

2019年6月より特別指導監査を続けていた北九州市役所子ども家庭局は、前述の社会福祉審議会の提言を受け、社会福祉法などの規定に基づき、施設の管理体制の見直しを求める「改善勧告」を2019年11月27日に行った。なお、その内容は、2019年12月26日までに運営法人が北九州市役所に提出する報告書の内容次第では、新たに「業務停止命令」などの措置を講ずるとした厳しいものであった[17][30][68][69]

市役所の運営法人に対する指導内容

北九州市役所子ども家庭局は特別指導監査において次の事項を指摘した[17][70]

  • 運営法人の理事会の体制を改め、児童福祉の専門知識や経験を有するなど、理事の資質が確保できるような人材配置を行いガバナンスの強化を図ること。
  • 不祥事等の問題が生じた場合、速やかに原因の究明や再発防止の審議を行い、十分な対策を講じるなど、形骸化しない議事の活発化・透明化を図ること。
  • 内部統制システムが機能しているかを客観的にチェック・モニタリングするために、➀外部の有識者を加えた「第三者委員会」などを設置すること、➁提案書や改善勧告で指摘した問題点や課題を再検証すること、➂適切な施設運営の再構築及び児童の処遇向上に向けた改善策を策定すること。

市役所の施設に対する指導内容

北九州市役所子ども家庭局は特別指導監査において当該施設に対し主に次の事項の指摘をした[17][70]

  • 児童養護施設の長の資格として必要とされる適格性の要件を満たす人材を配置し、施設の管理運営体制の再構築を図ること。
  • 施設の管理運営や再発防止が適正に実施されるよう、内部統制に係る体制・システムを構築すること。
  • 虐待やケアの質を高める研修等を定期的、計画的に行い、職員の処遇スキルと倫理意識の向上を図っていくこと。
  • 職員から児童への暴力、児童間の暴力、児童から職員への暴力、これら3種の暴力に包括的に対応する具体策を検証すること。

再発防止策

運営法人の防止策

施設の運営法人は北九州市役所の改善勧告を受け次の対応策を実施した[16]

  • 理事長を含む3名の理事が退任し、児童福祉の専門知識や経験を有する理事を新たに就任させた。
  • 施設長V及びWを2020年1月に解任し、適格性の要件を満たす人材を同年同月に新たに就任させた。
  • 今回の事件の「原因の究明」、「再発防止策の策定及び実施」を行い再発防止策の徹底を図った。
  • 「内部管理体制の基本方針」に沿った業務実施を徹底するようにした。
  • 職員の育成は法人の責務と位置づけ、研修体系等を明確にし、体系に従った研修を実施するようにした。
  • 施設内に職員を主体とした「安全・安心委員会」(仮称)を設置した。
  • 運営法人の理事会とは独立した立場から、運営法人が定めた「内部管理体制の基本方針」などに基づく経営が行われているか、履行状況に関するモニタリングを行う「第三者によるモニタリング委員会」を設置した。

施設の防止策

施設は北九州市役所の改善勧告を受け、次の対応策を実施した[16]

  • 入所児童への性教育の実施。
  • 「権利ノート」を利用した人権教育の実施。
  • 「意見箱」の設置。
  • 児童相談所作成の「24時間子ども相談ホットライン」カードの配付。
  • 施設職員への性暴力防止研修の実施。
  • 施設職員への「報連相」の周知。
  • 「性暴力等の対応マニュアル」の作成及び研修の実施。
  • 被害児童・加害児童について新たに「自立支援計画」の策定。
  • 施設の安全点検の実施。
  • 児童自治会活動の活性化。

市役所の防止策

福岡県北九州市内にある児童養護施設7ヶ所の入所児童から本音を引き出し、保護などにつなげる「アドボケイト(代弁者)[注釈 1]」を配置した。アドボケイトは虐待などを受けても第三者に打ち明けづらい立場にある子どもの意思表明を支援するのが役割である。具体的には心理士などの資格を持つ相談員3名を福岡県北九州市にある「子ども・若者応援センターYELL(エール)」に配置し、2020年度より福岡県北九州市内に7ヶ所ある児童養護施設を毎月1回ずつ巡回している[50][51]

脚注

注釈

  1. ^ a b 「代弁」や「養護」を意味する「アドボカシー」の担い手。子ども、障害者や高齢者など、自分の意思を表示するのが難しい人を手助けする。子どもの意思表明権を保障する「マイク」とも例えられ、先進国では英国やカナダで導入されている。
  2. ^ a b Xが逮捕された2019年6月当時はベリーベスト法律事務所の稲葉清二弁護士が就いていたが、裁判前までには当該弁護士は解任され、平和通り法律事務所の水波知也弁護士(当時30歳・九州大学卒・登録番号55778)が就いた。
  3. ^ a b NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会が運営する「性障害専門医療センター」(SOMEC)が,裁判中の性犯罪加害者が,円滑に社会復帰をして再犯を起こさないことを目的として提供しているサポートプログラム(意見書・精神鑑定書・治療計画書の作成など)を利用していた。なお,意見書の作成には少なくとも200,000万円が必要である。

出典

  1. ^ a b c d e f g h 「提言書」(被措置児童虐待に関する調査審議). 北九州市社会福祉審議会 児童福祉専門分科会審査部会. (2019-11-26). pp. 1-4 
  2. ^ a b c d e f g 『子どもの人権救済申立書』福岡県弁護士会申立分、2019年9月17日、6-8頁。 
  3. ^ 社会福祉法人双葉会”. 社会福祉法人双葉会. 2023年10月23日閲覧。
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  15. ^ 『起訴状(事件番号:令和元年第1991号)』福岡地方検察庁小倉支部、2019。 
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 「勧告書」. 福岡県弁護士会. (2021-12-2). pp. 1,4-6,12-13,18 
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  18. ^ a b 『告訴状』(福岡県警は即日正式受理2023年3月までに書類送検した)、2022年11月16日。 
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参考文献

職員Xの刑事裁判

  • 判決書(事件番号:令和元年第1991号)福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部合議係 鈴嶋晋一裁判長
  • 起訴状(事件番号:令和元年第1991号)福岡地方検察庁小倉支部鯰越敦子検察官
  • 令和元年12月28日付け確定証明書(事件番号:令和元年第1991号)福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部合議係 大石哲也書記官

元入所児童Aの祖母の民事裁判

  • 答弁書(事件番号:令和4年(ワ)第687号)六本松中央法律事務所

元入所児童Aの姉の民事裁判

  • 決定書(事件番号:令和5年(ト)第09号)福岡簡易裁判所 山中金雄裁判官
  • 決定書(事件番号:令和5年(ト)第24号)福岡簡易裁判所 山中金雄裁判官

元入所児童Aの民事裁判

  • 決定書(事件番号:令和5年(ト)第02号)小倉簡易裁判所 清山智生裁判官

関連項目

国内の児童虐待事件

海外の児童虐待事件

児童虐待に関する映画

関連用語

その他

外部リンク

本事件の関連

その他