品川心中(しながわしんじゅう)は、落語の演目の一つ。

解説 編集

品川遊廓を舞台にした噺である。前半では女郎と客の心中がテーマとなっているが、後半では自分を騙した女郎に客が仕返しを目論む展開となる。現代では前半のみの話で終了させ、後半の下げの部分までの話をするやり手がほとんどいない。

『井関隆子日記』天保11年(1840年)の2月の条に、原話と思われる記述がある[1]。また、上方落語では桂文太が「松島心中」の題で松島遊廓を題材に改作し演じた。

1940年(昭和15年)9月20日警視庁は内容が卑俗的で低級であるとして、品川心中を含む53演目を上演禁止(禁演落語)とした[2]

あらすじ 編集

ここでは話の前半を、後半をに分けて説明する。

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品川の女郎「お染」は、行事の金が出来ないために下の女から馬鹿にされるので、死ぬことを決断する。1人で死ぬのは嫌なので誰か道連れをつくることを考える。なじみの客から道連れを選び、少々ぼんやりしている貸本屋の金蔵と一緒に死ぬことに決める。早速金蔵を呼び出したお染は無理やり金蔵に心中を承知させる。

翌日の晩、いざ心中という時にカミソリで首を斬るのを金蔵が嫌がるので、外の桟橋から身投げをすることにする。桟橋でなかなか飛び込もうとしない金蔵をお染が突き落とし、自分も飛び込もうとしたところに、店の若い衆が「金が出来た」という知らせを伝えに来る。お染は死ぬのが馬鹿馬鹿しくなって店へ戻ってしまう。

遠浅だったため死にそびれた金蔵は親方のところへ行くが、親方の家では博打をしており、戸を叩く音で「役人だ」と早合点して全員大騒ぎ。尋ねてきたのが金蔵と分かり安心するが、1人びくともしない者がいた。その者を褒めると「いやとっくに腰が抜けております」。

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翌朝、金蔵が親方に経緯を話し、怒った親方は金蔵とともに、お染への仕返しを考える。

金蔵は、お染を尋ねていき、部屋で「白い団子が食いてえ」などと、気味の悪い話をする。しばらくして、お染を訪ねて来た人があると店の者が呼びに来る。出て行くと、親方と金蔵の弟という二人連れが来ており、金蔵の通夜に来てもらいたい、という。

驚いたお染が、そんなはずはない、と、親方を連れて部屋に戻ると金蔵の姿はなく、蒲団に金蔵の位牌が入っている。親方は金蔵が化けて出た、このままではお前は取り殺される、頭を丸めたほうがいい、と脅し、お染の髪を剃ってしまう。そこに金蔵が現れる。悔しがるお染に「お前があんまり客を釣るから、魚篭に(比丘尼)されたんだ」。

バリエーション 編集

3代目三遊亭圓馬は後半まで演じ、お染が「よく見やがれ。これはかもじ(入れ髪)だ」と言い返すサゲを用いて『入れ髪』の演目で演じていた。

ちなみに、この「下ろしたと見せかけて実はかもじ」という展開は、類似する『星野屋』のくだりにもあり、こちらでは「かもじ」以降も策略の応酬が続くようになっている。

映像化 編集

映画『幕末太陽傳』のエピソードとして登場している。小沢昭一が金蔵(ただし表記は「金造」)を演じ、左幸子がお染を演じた。小沢の演技のうまさが高い評価を得ている。

また、落語を主題にしたテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』でも映像化されており、主人公らの生き方が一変するようなストーリーとなっている。

題材にした作品 編集

ヘヴィメタルバンド人間椅子の13thアルバム『瘋痴狂』(2006年)には、この噺を題材とした曲が収録されている。

この噺を元に麦人が脚本を書き下ろし、2012年2月から3月にかけ、麦人・森うたうのユニット「うたう麦」によって同名の語り芝居として上演された。

小説・コミック化作品 編集

柳家喬太郎監修、小説落語シリーズの最終第5巻

脚注 編集

  1. ^ 『落語の鑑賞201』 85頁。
  2. ^ 低俗と五十三演題の上演禁止『東京日日新聞』(昭和15年9月21日)『昭和ニュース事典第7巻 昭和14年-昭和16年』本編p773 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年

参考文献 編集