四の字

漢字文化圏における忌み数

四の字(しのじ)とは、漢字文化圏迷信において、音韻が通じることから「忌み数」である漢数字の「」のことである[1]

上海のあるビルエレベーター数表示、4, 13, 14階がないため、飛番(欠番)がある。

概要 編集

漢字文化圏のうち、声調のない日本語朝鮮語では漢字数字の「」(4)[2]と、死ぬことを意味する「」が同音であり、他の地域でも声調だけが違う。

日本語 [ɕi] [ɕi]
朝鮮語 [sɑ] [sɑ]
普通話 [sɿ˥˩] [sɿ˨˩˦]
呉語 sy3 si2/sy2
閩南語
台湾語
sù/sì sí/sú
客家語 si4 si3
広東語 sei3 sei2
ベトナム語 tứ tử

このため、漢数字の四を不吉と見なす迷信があり、二字が同音となる日本などで特に四が忌避される。死の連想を嫌う病院では特に忌避が強く、後述の通り病室の番号に「4」の数字を使用することは避けられる傾向がある。

日本 編集

歴史 編集

大和言葉訓読みでは、四は「ヨ」であり、むしろ「良(ヨ)い」に通じている。そのため漢字伝来前の日本・神道には四を忌む考え方は無く、事実として、『古事記』では、神を拝む際の最大の礼式は四度拝礼することと記述されている(出雲大社では今でも拍手は四度打つ)。

漢字が伝来すると、日本では平安時代から四を忌避することがあった。『小右記』天元五年(982年)三月十一日の条に、四人を忌んで五人にしたという記述がある[3]。これは4 を嫌った例だが、数ではなく音の「し」を忌むだけのほうが多かった。このため、和語数詞を使い、「四」(し)を避けて「よ」を用いることが行われた。例えば「四人」を「しにん」ではなく「よったり」あるいは「よにん」と呼んだ。

大永二年(1522年)に足利義晴祇園会を見物した時の記録である『祇園会御見物御成記』の献立には、「二、三、よ、五」と記されている[3]。また、重箱は四段のものが正式だが、上から順に一の重、二の重、三の重、与の重(よのじゅう)と呼び、四の重(しのじゅう)とは呼ばない。同様に、本膳料理で五膳あるいは七膳まである時、本膳、二の膳、三の膳、与の膳(よのぜん)、五の膳と呼び、四の膳(しのぜん)とは呼ばない。

四つを意味する Xi (四) は或語とは一緒に使はれない。それは死とか死ぬるとかを意味する Xi (死) の語と同音異義であって,異教徒は甚だしく嫌ひ,かかる語に接続した四つの意の Xi (四) はひびきがよくないからである。従って,その代りに‘よみ’の yo (よ) を使ふ。‘こゑ’でありながら主として使はれない語は次にあげるものであって,その他にも実例が教へてくれるものがある。
Do (度) は Xido (四度) と言はないで Yodo (よど) といふ。
Rui (類) は Xirui (四類) と言はないで Yorui (よるゐ) といふ。
Nichi (日) は Xinichi (四日) でなく Yocca (よっか) である。
Ri (里) は Xiri (四里) — 尻の意味にもなる — ではなく,Yori (より) である。
Sô (艘) は Xisô (四艘) でなく,Yosô (よそう) である。
Nin (人) は Xinin (四人) — 死人を意味する — でなく,Yottari (よったり) である。
Nen (年) は Xinen (四年) でなく,Yonen (よ年) である。
— ジョアン・ロドリゲス日本大文典』第三巻「数名詞に就いて:構成」、1604年[4]

その後、江戸時代には、「むつかしや四の字をきらふ旦那様」(1709年)、「四の字でも小つぶ四つは気にかけず」(1801年)という雑俳が詠まれ[1]、「しの字嫌い」(1768年)という古典落語も作られ、四の忌避を滑稽に感じる向きもあったことが分かる。

日本語の数詞で、4が「よん」になったのも「し」の忌避と考えられる。

数を呼ぶに、次のように云ふことがある、聞きちがわせぬ為である。
二百四十番(ふたひゃくよんじうばん)
四百七十九円(よんひゃくなゝじうきうえん)
— 大槻文彦『口語法別記』、1917年[5]

当時はまだ「よん」は一般的ではなく、「し」が使われていたことがわかる。ただしこれは東京の話で、大阪では江戸時代にすでに「よん」になっていたという[3]

事例 編集

 
4番を欠番とした駐車場の例。

現在の日本では、病院やマンションの部屋番号等で4の付く部屋はしばしば飛ばされ、例えば203号室の隣は205号室、313号室の隣は315号室となっている事例がある。一方で4階を問題にする例は少なく、3階の真上に5階を設ける高層建築は滅多にない。

一方で、日本のナンバープレートの一連指定番号は、下2桁が42, 49のものは要請がない限り払い出されない。それぞれ「死に」、「死苦」(あるいは「轢く」)を連想させるからである。御料車の「皇ナンバー」では4は欠番となっている。

日本のナンバープレートの希望番号では、「・・・○」「・○○○」「○0-00」「○○-○○」の○の数字(○は同じ数字)は4・6・9が1999年(分類番号3桁化先行地区は1998年)の制度導入当初から抽選対象番号にされていなかった。抽選対象番号はその後全国一斉ないし地域ごとに度々改正があり、また「・・・4」「44-44」については一般希望番号としてそれなりにある程度の希望者がいるものの、現行制度では抽選対象番号に4を含む番号は特定の地名のみのものも含めて存在せず、過去を含めても4を含む番号は制度導入当初の「12-34」を除いて抽選対象番号になったことがない。

兵庫県三木市では、病院行きの路線バスで使われる車両のナンバープレートに「42」から始まるものが複数存在したため、苦情を受けて一部のナンバーを変更するなど、物議を醸した例もある[6]

ただ、語呂合わせからあえて「4」を「死」と見立てつつも、「・471」「47-71」は、「死なない」となることから、抽選対象番号に指定されたことはないものの、人気ナンバーとなっている。希望番号導入時にブームとなった『頭文字D』の原作者しげの秀一の過去の著名作『バリバリ伝説』の主人公のバイクのナンバーがこれであった。また、希望番号ではない東京消防庁救急車がつけている事がTwitter上で話題となり、「幸運のナンバー」として注目されることになった。

鉄道車両の形式付与でも、4000系などの称は避けられる傾向にある。高松琴平電気鉄道ではかつて志度線長尾線向けの車両は2桁の形式だったが、30形(2代目)では番号が39に達した後は40番台を忌み番として避け、29、28、27と付番し、30形(3代目)では2両1組だったため37+38の次は29+30、27+28と付番していた。また、阪急電鉄では400番台・4000番台の旅客車への使用が避けられ、1964年には貨車の番号が4000番台に集約された[7]富士急行(現・富士山麓電気鉄道)では1971年に脱線転覆事故を起こした車両の番号末尾が「4」だったため、それ以降に投入された車両は末尾「4」を欠番としている。

他方、四と死の連想は、ビジュアル系ロックバンドやホラー小説作品などでは不吉さの演出などのために積極的に使われる。例えば坂東眞砂子小説死国』(四国と掛けている)がある。

一方で、欧米文化の影響で四つ葉のクローバーは縁起が良い。

日本では4の他、「苦」に通じる9も忌避される(408号室の隣が410号室、538号室の次は550号室など)。ただし「九」と「苦」が同音になるのは日本語のみであるため、日本以外ではこの風習は見られない。御料車の「皇ナンバー」では9は使われており、4ほど忌避されていない。

逆に迷信批判をしていた井上円了は、東洋大学の前身である哲学館の電話番号を不吉ということで余っていた444にしていた[8]

中国 編集

中国の軍用機の番号は、瀋陽 J-5のように、4を避けるために5から割り振られる。

ただし風水における四神などのように神聖視されることもある。

中国語では、「九」と「苦」は全くの別音になるので、中国には9を忌避する風習は無い。むしろ逆に、「九」は「久」と同音(普通話ではどちらも jiǔ)なので、中国では好んで使われる。

韓国 編集

 
大韓民国蔚山広域市のある病院のエレベーター、4階のボタンがない。

韓国では病院には一般に四階がない。他の建物で四階がある場合でも、エレベーターのボタンには4の代わりに "F" (four) が書かれていることがある。マンションなどの建物では3階のすぐ上が5階となっていることがある。

北朝鮮 編集

北朝鮮軍の旅団は「第4旅団」が欠けている。

ベトナム 編集

ベトナム語では「死(tử)」と類似音の「四(Tứ)」よりむしろ「惨(thảm)」につながる「三(tam)」が嫌われてきた。しかし、特に若い世代では漢語にもとづくnhất nhị tam tứ ngũ ...(ニャッ、ニー、タムトゥー、グー)という数の数え方では10まで数えられない者も多く、固有語によるmột hai ba bốn năm ...(モッ、ハイ、バーボン、ナム)が一般的な数の数え方になっているため、忌み数字はあまり知られていない。

その他 編集

香港シンガポールなどの漢字文化と西洋文化の混在する地域では、13と併せて嫌われることもある。そのため、12階の次が15階と飛番となっている建築物も存在する。

ストレス 編集

心理的ストレス心臓病を引き起こすことが知られている。中国人・日本人とアメリカ白人とを比較すると、前者には毎月4日に心臓病による死亡率のピークが見られるが、後者にはそのようなピークは見られない[9]。四の字の迷信による心理的ストレスが原因と考えられる。心臓病以外の死亡率は変化がない。

脚注 編集

  1. ^ a b 日本国語大辞典第二版編集委員会, ed. (2001), “四の字”, 日本国語大辞典, 6 (2 ed.), 東京: 小学館, pp. 425, ISBN 4-09-521006-0 
  2. ^ 日本語の「四」には他に「よ」「よつ」「よっつ」「よん」の訓読みも存在する。
  3. ^ a b c 鈴木博 (1998), “四の字嫌い — 「四」の音「シ」が「死」に通じることを忌む現象について —”, 国語学叢考, 大阪: 清文堂出版, pp. 1-35, ISBN 4-7924-1340-0 
  4. ^ Rodriguez, Ioão (1955), Arte da Lingoa de Iapam (日本大文典), 東京: 三省堂 
  5. ^ 国語調査委員会, ed. (1980), “口語法別記”, 口語法・同別記, 勉誠社 
  6. ^ “病院行きバスのナンバー 「42○○」が物議 三木”. 神戸新聞NEXT (神戸新聞社). (2014年8月23日). https://www.kobe-np.co.jp/news/backnumber/201511/0011512294.shtml 2023年1月26日閲覧。 
  7. ^ 山口益生『阪急電車』JTBパブリッシング、2012年。166頁。
  8. ^ 井上円了 迷信と宗教青空文庫
  9. ^ Phillips, David P.; Liu, George C.; Kwok, Kennon; Jarvinen, Jason R.; Zhang, Wei; Abramson, Ian S. (2001), “The Hound of the Baskervilles effect: natural experiment on the influence of psychological stress on timing of death”, BMJ 323 (7327), http://www.pubmedcentral.nih.gov/picrender.fcgi?artid=61045&blobtype=pdf 

関連項目 編集