81-765/766/767形は、ロシア連邦メトロワゴンマッシュ十月電車修理工場ロシア語版が製造を手掛ける地下鉄電車モスクワロシア語: Москва)の愛称を持つ。クラッシャブルゾーンを導入した前面、車内のLED照明、フリースペースの設置、wi-fi通信への対応など、モスクワ地下鉄を始めとする導入先の地下鉄で初となる要素が多数盛り込まれている[1][7]

地下鉄81-765/766/767形電車
"Москва"
81-765/766/767形(モスクワ地下鉄
基本情報
運用者 モスクワ地下鉄
バクー地下鉄
タシュケント地下鉄
カザン地下鉄
サマーラ地下鉄
製造所 メトロワゴンマッシュ十月電車修理工場ロシア語版
製造年 2017年 -
製造数 1,134両(2019年7月現在)
主要諸元
編成 5、6、8両編成
軌間 1,520 mm
電気方式 直流750 V
第三軌条方式
設計最高速度 90 km/h
車両定員 315人(着席37人)(81-765形)
329人(着席44人)(81-766形、81-767形)
車両重量 38 t(81-765形)
36 t(81-766形)
29 t(81-767形)
全長 20,120 mm(81-765形)
19,410 mm(81-766形、81-767形)
全幅 2,684 mm
全高 3,680 mm
台車中心間距離 12,600 mm
主電動機 TSA TME43-23-4(530 V、226 A、59.4 Hz、1,744 rpm)
主電動機出力 170 kW
出力 680 kW
制御方式 VVVFインバータ制御IGBT素子
制動装置 電気指令式空気ブレーキ回生ブレーキ
備考 主要数値は[1][2][3][4][5][6]に基づく。
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概要 編集

2012年から2016年にかけて、モスクワ地下鉄には空調装置LED前照灯(後期車)、VVVFインバータ制御を採用した81-760/761形電車(Ока)が導入されていた[8]。それに続く新たな車両を開発するため、2013年にモスクワ地下鉄はロシア各地の研究機関やトランスマッシュホールディングシーメンスアルストムボンバルディア・トランスポーテーションCAFなどの鉄道車両メーカーの技術者と共に次世代の車両の開発プロジェクトを立ち上げた。その中で81-760/761形の欠点の改善や乗客の快適性の向上などが行われ、車内外におよそ200箇所以上の革新的な技術が用いられる事となった。こうして設計・開発が行われたのが81-765/766/767形である[1]。最初の車両は2016年に完成し、翌2017年モスクワ地下鉄へ輸送された[5]

編成は片側に運転台が設置されている電動制御車81-765形、運転台がない電動車81-766形、主電動機が設置されていない付随車81-767形で構成される。車体はステンレス台枠や骨組は耐食コーディングを施した低合金高張力鋼で作られている。先頭部にはクラッシャブルゾーンが設置され、衝突事故時の運転手や乗客を保護する。前面左右の端に設置された前照灯尾灯LEDを用い、利用客の目が眩むのを防ぐため駅に近づくと自動的に明度を低くする機能を有する。連結面には転落防止のため大型の貫通幌(外幌)が設置されており、隣の車両との往来が可能である。両開きの乗降扉の幅は81-760/761形の1,250 mmから1,400 mmに拡大し、開閉時にはLEDによる照明や音によって注意が促される[1][2][3][4]

座席はロングシート(片持ち式座席)もしくはボックスシートで、先頭車には車椅子ベビーカーが設置可能なフリースペースが設置されている。車内各部に設置されている手すりはステンレス製だが大半が青色のプラスチックで覆われており、金属の冷たさから乗客の手を保護する。モスクワ地下鉄向けの車両は車内中央部にも手すりが設置されているが、乗客の往来の支障になる事が指摘され2018年以降デザイン変更が行われている[1][2][9][10]

車内には紫外線ランプによる空気濾過システムを搭載した冷暖房完備の空調装置が完備されている。照明はLEDを採用しており、消費電力が蛍光灯を利用した従来の車両より半減している。朝は白色、昼から夜にかけては黄色と乗客が快適に過ごせるよう色合いが時間によって変化する。またwi-fi通信や、充電用のUSBポート、目的地までの経路を検索することが可能なタッチスクリーンなど利用客の快適性を向上させる設備も多数搭載されている[1][2][9]

台車は81-760/761形と比べて軽量になり線路への負荷が減少している他、騒音を抑える吸音材を使った低応力構造が採用され、快適性が向上している[1][4]。電気機器はメトロワゴンマッシュが開発した、IGBT素子を用いたVVVFインバータ制御方式を用いる主制御器を含むKATP-3が使われており、81-760/761形のKATP-2から消費電力を35%削減し部品の見直しによりメンテナンスの簡素化も実現している。主電動機はオーストリア・TSA(Traktionssysteme Austria)製の誘導電動機であるTME43-23-4形(170 kw、1,744 rpm)を用いる。これらの主要機器や車内、停車時の車外の様子は監視カメラや自動診断システムによって管理されており、情報は運転台のモニターに表示される[1][4][11]

導入にあたりActive Citizenの公式ウェブサイトでオンライン投票が実施され、22万人以上から寄せられた応募の中から"モスクワ"が採用されている[1]

運用 編集

モスクワ地下鉄 編集

 
81-765/766/767形

2017年2月に最初の車両が到着し、試運転が行われた後2017年4月18日から営業運転を開始した。導入に合わせた路線の施設更新も実施され、最初の導入先となったタガーンスコ=クラスノプレースネンスカヤ線では枕木の更新が行われている[12]。当初はドアが開かない、オーバーランが頻発するなどのトラブルが多数報告されたが、これらはメトロワゴンマッシュの工場での修理により改善されている[10]

最初に導入された8両編成[注釈 1]に加え、2018年からは半自動ドア、電動制御車(81-765形)の座席のボックスシートへの変更などを実施した6両編成[注釈 2]81-765.2/766.2/767.2形が登場し、地上区間を有するフィリョーフスカヤ線へ導入された[13]。また同年には座席にモケットが張られた8両編成の81-765.3/766.3/767.3形が、2019年以降はブレーキシステムの改良が行われた8両編成の81-765.4/766.4/767.4形(Москва 2019)が製造されている[14]

2020年までに1,874両が導入される予定となっており、大量の車両を短期間に生産する必要がある事からメトロワゴンマッシュに加えサンクトペテルブルク十月電車修理工場ロシア語版2018年以降製造に参加している[15][16]

モスクワ地下鉄での運用時には第三軌条からの集電を行うが、導入前には全ロシア鉄道研究所で実施された試運転や鉄道見本市"Expo 1250"での公開走行が行われた際にはパンタグラフが搭載され、架線からの集電が実施された[注釈 3][17]

バクー地下鉄 編集

 
81-765.B/766.B形

2017年アゼルバイジャンの首都・バクーを走るバクー地下鉄は、メトロワゴンマッシュとの間に5両編成[注釈 4]を組む81-765.B/766.B形の導入に関する交渉を開始した。翌2018年に契約が結ばれ、同年4月20日から最初の2編成が営業運転を開始した。2019年にも2編成の導入が予定されている[6][18][19]

タシュケント地下鉄 編集

 
81-765.5形

2019年ウズベキスタン首都タシュケントを走るタシュケント地下鉄で建設中の環状線用の車両として81-765.5形(先頭車)および81-766.5形(中間車)による4両編成5本が導入された。これらの車両は2018年に発注が行われたもので、同地下鉄向けに仕様変更が実施されている。また、今後の延伸計画を踏まえて45編成の追加発注も予定されている[20][21]

カザン地下鉄 編集

 
81-765.4K形

ロシア連邦タタールスタン共和国首都カザン市内のカザン地下鉄には、2020年5月81-765.4K形(先頭車)および81-766.4K形(中間車)による4両編成1本が導入されている。これは前年の2019年に発注が行われたもので、制動装置は完全停止時も含めて空気ブレーキを併用しない電気指令式ブレーキが採用されている他、全車両に貫通路が設置されておりカザン地下鉄で初めてとなる編成全体が往来可能な車両である。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として自動空気消毒システムが搭載されている[22]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 編成の内容は"電動制御車+電動車+付随車+電動車+電動車+付随車+電動車+電動制御車"。
  2. ^ 編成の内容は"電動制御車+電動車+付随車+電動車+電動車+電動制御車"。
  3. ^ 全ロシア鉄道研究所に設置された実験線には第三軌条が設置されていないため。
  4. ^ 編成の内容は"電動制御車+電動車+電動車+電動車+電動制御車"である。

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i New-generation “Moskva” metro train enters service on the Tagansko-Krasnopresnenskaya Line ros.ru 2017年4月20日作成 2019年8月2日閲覧
  2. ^ a b c d 81-765/766/767 Метровагонмаш作成 2019年8月2日閲覧
  3. ^ a b Программа развития промышленного кластера метровагоностроения”. Геоинформационная система. Минпромторг России. 2019年8月2日閲覧。
  4. ^ a b c d “Вагоны метро серии 81-765/766/767 «Москва»” (ロシア語). Железные дороги мира (Москва: ОАО «Российские железные дороги»): 41-47. (2017-8). http://www.zdmira.com/arhiv/2017/zdm-2017-no-08#TOC-81-765-766-767- 2019年8月2日閲覧。. 
  5. ^ a b Moscow, 81-765 “Moskva” Roster 2019年8月2日閲覧
  6. ^ a b 81-766B Roster 2019年8月2日閲覧
  7. ^ モスクワっ子たちが大好きあるいは大嫌いな地下鉄の車両 ロシア・ビヨンド 2018年4月11日作成 2019年7月31日閲覧
  8. ^ Transmashholding completed delivery of Model ‘Oka’ cars to Moscow Metro 2016年12月27日作成 2019年8月2日閲覧
  9. ^ a b Вагон метро модели 81-765/766/767 «Москва» 2016年9月13日作成 2019年8月2日閲覧
  10. ^ a b Поезда "Москва" доработают с учётом мнений пассажиров и машинистов 2018年2月17日作成 2019年8月2日閲覧
  11. ^ Metrovagonmash Model 81-765 for Metro Moscow作成 2019年8月2日閲覧
  12. ^ New Moscow metro train enters passenger serviceMetro Report 2017年4月18日作成 2019年8月2日閲覧
  13. ^ Яркие дисплеи и двери с кнопками: на Филевской линии метро запустили поезд «Москва» 2018年7月3日作成 2019年8月2日閲覧
  14. ^ 81-767 “Moskva”Roster 2019年8月2日閲覧
  15. ^ Development of Moscow Metro, Moscow Central Circle and eco friendly transport Moscow Metro 2019年8月2日閲覧
  16. ^ Инновационная модель «Москва»: ОЭВРЗ начинает производство новейших вагонов 2018年4月19日作成 2019年8月2日閲覧
  17. ^ Moscow, car # 65025 2019年8月2日閲覧
  18. ^ Российский Метровагонмаш поставит вагоны нового поколения Бакинскому метро 2017年6月14日作成 2019年8月2日閲覧
  19. ^ Baku Metro orders 6 trains from Metrovagonmash RAILWAY PRO 2019年2月4日作成 2019年8月2日閲覧
  20. ^ Метрополитен получит пять «сквозных» составов из России Gazeta.uz 2019年7月7日作成 2019年8月2日閲覧
  21. ^ Павел Яблоков (2019年10月10日). “«Москва» теперь и в Ташкенте: метро в Узбекистане получило вагоны современного типа”. TR.ru. 2020年8月19日閲覧。
  22. ^ New TMH-Built Train Sent To Kazan Metro”. Railvolution (2020年5月22日). 2020年8月19日閲覧。