地形分類(ちけいぶんるい)とは、土地の性質や成り立ちを把握するために、地表の形(地形)を何らかの基準によって同じ性質のものに分割・類別することをいう[1]。主な分類基準として、形態、成因、構成物質(土質・地質)、形成時代がある[2]。地域の適正な土地利用国土開発、防災計画、ハザードマップなどに先立つ基礎資料として、各種の地形分類図が作成されている。

分類基準 編集

地形分類の基準となる分類法は以下のものが挙げられる。

形態を基準とする分類 編集

対象とする地形の特定の量・角度・曲率などによって分類する方法。

  • 斜面の傾斜角による分類(平坦面、急斜面、緩斜面、崖など)[3]
  • 斜面の垂直断面形による分類(凸型斜面、凹型斜面、等斉斜面など)[3]
  • 斜面の水平断面形による分類(尾根型斜面、直線斜面、谷型斜面など)[3]

成因を基準とする分類 編集

対象とする地形が形成されるのに影響を与えた成因によって分類する方法。

土質・地質を基準とする場合 編集

対象とする地形を形成する岩石や砂の性質によって分類する方法。

  • 構成物質による分類(岩盤面、砂礫質面、砂質面、泥質面)[3]

形成時代を基準とする場合 編集

対象とする地形がどの時代に形成されたによって分類する方法。地形面形成の序列化を行うことで、地形単位ごとの時代対比が可能になる。

  • 形成時代による分類(更新世面、完新世面、下末吉期面、立川期面)
  • 形成順序による分類(現成面、新期面、古期面)

日本における地形分類 編集

日本では戦前での地形分類の研究は少ないが、東木竜七は1920年代から30年代にかけて地形分類の手法を用いた研究を数多く報告した[4]。例えば、九州の豊後地方の段丘について複数の侵食面に分けて、その成因について論じたものが挙げられる[5]

戦後になって、戦時中に荒廃した国土の水害対策、食糧増産などの各種課題に対して、土地の条件と性質を表現できる地形分類の提示方法が検討された。1952年に地理調査所(現 国土地理院)の中野尊正によって、地形分類の単位地形は「ほぼ同じ時期に形成され、ほぼ同じ形態と成因をもち、かつほぼ同じ物質で構成された地表部分」とされた[6]。以降、この基準を標準とした地形分類がなされるようになった。

災害対策としての地形分類 編集

1952年に資源調査会設置法に基づいた治山治水総合対策の調査が始まり、1956年に大矢雅彦により木曽川流域の水害地形分類図が作成された。この地図で”三角州”とされた地域が、1959年伊勢湾台風による高潮被災地と一致し、災害対策として地形分類図が注目されることになった[4]。翌年から、国土地理院により水害予防対策土地条件調査が行われ、洪水地形分類図(1:2.5万, 関東18面)が作成された[1]。この調査は、1963年から山地の分類を含めた土地条件調査となり、土地条件図(1:2.5万, 全国の主要平野部)が作成された[1]。1976年の長良川の水害(安八豪雨)をきっかけとして、河川局(現 水管理・国土保全局)、地方整備局と国土地理院により、河川堤防の管理を目的とした治水地形分類図(1:2.5万, 全国の国直轄一級河川)が作成された。

国土調査としての地形分類 編集

日本では、第二次世界大戦後の国土の狭小化、海外からの引揚者(約600万人)の受け入れの必要性から、土地の性格を把握することが必要とされ、国土の科学的な見直しが始まった。当時の課題としては、入植者のための開拓予定地の選定、食糧難打開のための土地改良、堤防などによる水害対策などがあった。その解決のために国土調査法が制定され、国土調査が行われるにあたって地形分類の基準が示されていくことになる。国土調査の目的は土地の効果的利用を見つけることにあり、そのために地形分類、表層地質、土壌分類、土地利用、水利用の5分野における調査を行い、それらを総合して土地全体の分類を行った。その中でも地形分類が重要な位置をしめ、現在では地形分類が一つの手法として確立している。

地形分類図の種類 編集

地形分類図には以下のようなものがある。

地形分類図 編集

以下のものすべてをまとめて「地形分類図」といわれるが、ここでは国土調査法に基づく地形分類図のことをいう。

昭和30年以降の経済発展の裏にあった都市の過密化、地方の過疎化現象、公害のような新しい問題をうけ、国土が将来も含め国民のための資源であるという考えのもとで、地域特性に合わせた自然環境の保全と文化的特性を配慮した国土開発のための基礎資料とすることを目的として国土調査が進められた。

水害地形分類図 編集

戦後の日本では、大河川の治水工事が十分にされていなかったことで洪水の被害が多かった。これによって河川の流域全体の土地利用や自然の変化の調査が行われるようになり、そこから水害地形分類図が作成されるようになった。水害地形分類図は洪水などの水害を受ける地域の地形に注目して作成され、分類された地形要素やその特徴を総合的に判断して水害、特に洪水の状態を推定することを目的としている。またこの地形分類図は水田の改良にも役立てられた。この場合に対象とされる地形要素としては、扇状地自然堤防後背湿地三角州などがある。

土地条件図 編集

土地条件図は、国土地理院によって制作されているものである。土地条件図に含まれる内容は、土地の性質、地盤の高低、われわれの生活との相互の歴史(干拓埋め立てなど)である。これらの情報から洪水や高潮など災害に関わる土地の性質を知ることができる。

土地条件図が作成されるきっかけは1959年の伊勢湾台風災害であり、1960年から全国の平野部を中心に整備されている[1]。初期の段階では水害から人々の生活を守るために土地を把握することが目的とされていたが、次第に地盤災害や山地斜面の危険度予測などさまざまな自然災害の防止のためや、土地保全、地域開発、土地利用の計画段階における基礎資料としても利用されるようになった。平野部の地盤高を等高線で表現したり、災害時に備えて官公署、救護機関、住民の避難所となりうる建築物などが示されており、地域の総合的な状況把握を可能にすることを狙いとしている。

国際的な状況 編集

世界的な規模でみると、地形分類は国際地理学連合 (IGU-International Geographical Union) という学会が中心的な役割を果たしている。地理学の発達の過程から、ヨーロッパがその中心であり、様々な専門分野の委員会によって構成されている。地形分類を開発途上国での開発、保全に役立てていくことができるのではないかという考えもある。

地形学図 編集

地形学図は、さまざまな目的のもとに作成される地形分類図の中でも、対象となる土地の地形に着目し、地形面の形態面での性質、地質上の性質をあらわす地形面分類図のことをいう。

脚注 編集

  1. ^ a b c d 熊木・羽田野 (1982). “地形分類と地形地域区分”. 国土地理院時報 56: 7-13. 
  2. ^ 中野 (1961). “地形分類-その原理と応用”. 地学雑誌 70: 53-64. 
  3. ^ a b c d e f 鈴木. 建設技術者のための地形図読図入門. 古今書院. p. 117 
  4. ^ a b 海津 (2018). “わが国における地形分類図の普及と展開”. 地理 63(10): 31-39. 
  5. ^ 東木 (1929). “日本内海西域周防灘南部の成因論”. 地理学評論 5: 16-41. 
  6. ^ 中野 (1952). “Land Form Type 地形型の考え -高知平野を例として-”. 地理学評論 25. 

参考文献 編集

  • 大矢雅彦編『地形分類の手法と展開』古今書院、1983年。ISBN 4-7722-1192-6 
  • 大矢雅彦ほか『地形分類図の読み方・作り方』古今書院、1998年。ISBN 4-7722-5013-1 

関連項目 編集

外部リンク 編集

地形分類の手法・活用

各種地形分類図の概要