地球温暖化政策財団(ちきゅうおんだんかせいさくざいだん、英語: Global Warming Policy Foundation (GWPF))は、人為的要因による地球温暖化を緩和するために政府が想定している「極めて有害で損害を与える政策」に異議を唱えることを目的としたイギリスのロビー団体である[2]。GWPFは、地球温暖化に対する懐疑論を展開しているロビー団体だが[3][4]慈善団体として登録している。

地球温暖化政策財団
Global Warming Policy Foundation
略称 GWPF
設立 2009年
設立者 ナイジェル・ローソン
種類 ロビー団体
所在地 イギリスの旗 イギリスロンドン
重要人物 Terence Mordaunt, Benny Peiser
収入
158,008ポンド (FY 2011)[1]
寄付基金
325,842ポンド (FY 2011)[1]
職員数
3[1]
ウェブサイト www.thegwpf.org ウィキデータを編集
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慈善団体として登記しているため出資元を公開する義務はなく、情報公開要求も複数回拒否しており、実態は不明である。しかし、化石燃料業界や地球温暖化懐疑団体に出資している団体から資金を受けていることが報告されている。

概要 編集

歴史 編集

2009年11月、元財務大臣のナイジェル・ローソンを会長に設立された。理事は社会人類学者のベニー・パイザー英語版、会長は起業家のテレンス・モーダント英語版が務めている。いずれも地球温暖化懐疑論者として知られている。

2013年6月、ガーディアン紙のボブ・ウォード英語版は、GWPFが「英国や海外の気候政策に反対するキャンペーンの一環として、気候変動に関する不正確で誤解を招く情報を執拗に流布」しており、これは慈善団体の地位の乱用であると主張し、慈善委員会に正式な苦情を提出した。

2014年、慈善委員会は、GWPFが気候変動報道において公平性に関する規則に違反し、事実と意見を曖昧にし、偏向を誘導していると裁定を下した[5][6]。これを受け、GWPFは、既存の組織と並行してロビー活動を行うための非慈善団体を設立し、その名称を「地球温暖化政策フォーラム」とした[7]。GWPフォーラムは、GWP財団の100%傘下である。

2021年、ネット・ゼロおよび再生可能エネルギーに否定的なサイト「NET ZERO WATCH」を設置した[8]。このサイトにはCOP26の開催中止要求も掲載されていた[9]

資金源 編集

上述したように、慈善団体として登記しているため出資元を公開していないため、詳細は不明である。しかし、エネルギー企業から出資されていないと説明しているにもかかわらず、化石燃料関連業界からの出資を受けている自由市場主義シンクタンクのInstitute of Economic Affairsとつながりがある2名の個人(Neil Record、Nigel Vinson)からの出資が明らかになった[10]。また、多数の地球温暖化懐疑団体に出資しているドナーズ・トラストからも資金を受けていることが報告されている[11]

日本への影響 編集

経団連系の産業界に近い人物が多く在籍するNPO法人国際環境経済研究所のウェブサイトにおいて、GWPFの記事が翻訳掲載されている。GWPFをシンクタンクとして紹介し、評論家・翻訳家の山形浩生により邦訳され、気候変動に関する記事のすべてにキヤノングローバル戦略研究所杉山大志の解説が付されている[12]

活動 編集

組織の最初の活動は、2009年11月に起きた気候研究ユニット・メール流出事件の追求である。事件発生当初、地球温暖化人為論の根拠が捏造されたものであるかのような報道をされたことで懐疑論者達は色めき立ち、その一端が、ローソン会長が独立調査を要求したGWPFであった[13]。しかし、すぐにメール内容に問題がないことが判明し、2010年4月には問題なしで終結し、逆に問題の捏造だと攻撃者は批判された。GWPFにおいても、英気象庁に調査要求を却下された[14]

2009年11月にGWPFのウェブサイトが開設された際、ウェブサイトの各ページのロゴグラフィックに使われている「21世紀の世界平均気温」のグラフは、選択された2001年から2008年までの期間において緩やかに低下していることを示していた。タイムズのハナー・デブリンはグラフ値の誤りを見つけるとともに、もし2000年から2009年までの期間が選ばれていれば、気温の低下ではなく、上昇が示されただろうと指摘した[15]。また、ガーディアンのボブ・ウォードもグラフの誤りを指摘し、20世紀の気温の傾向を省くことで、歴代最高気温年トップ10のうち8年が今世紀であるという事実を覆い隠していると述べた[16]。これを受けGWPFは「グラフィックデザイナーによる小さなミス」と弁明し、修正された[16]

公式サイトには、数多くの人為的な地球温暖化とその影響に関する科学的知見に懐疑的な記事が掲載されている。それらの内容には指摘もなされている。例えば、地球温暖化の予測シミュレーションに用いられる気候モデルが、過去の対流圏(地表から数キロ上空)の気温上昇を大幅に過大評価しているという記事が2018年に掲載された。記事の内容は査読論文に基づいていたが、その論文自体に恣意的な文面が見られるとの指摘を気象学者がしている[12]

脚注 編集

  1. ^ a b c GWPF, "Financial Statements Year Ended 31 July 2011". Accessed: 7 June 2012.
  2. ^ “Miliband-Lawson clash on climate”. BBC News. (2009年12月6日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8398103.stm 2022年8月27日閲覧。 
  3. ^ Nigel Lawson's climate-change denial charity 'intimidated' environmental expert”. web.archive.org (2014年5月11日). 2022年8月27日閲覧。
  4. ^ Frederick F. Wherry、Juliet B. Schor『The SAGE Encyclopedia of Economics and Society』SAGE Publications, Inc、2015。 
  5. ^ Lord Lawson and his climate change sceptics broke charity bias rules”. The Independent (2014年9月30日). 2022年8月28日閲覧。
  6. ^ Operational Case Report The Global Warming Policy Foundation (1131448)”. assets.publishing.service.gov.uk. 2022年8月28日閲覧。
  7. ^ Climate change deniers haul out a daft conspiracy theory about Attenborough’s new programme”. Grantham Research Institute on climate change and the environment. 2022年8月28日閲覧。
  8. ^ Don’t put climate activists on trial, CPS urged”. the Guardian. 2022年8月28日閲覧。
  9. ^ Climate Science Denial Group Rebrands as ‘Net Zero Watch’”. DeSmog (2021年10月11日). 2022年8月28日閲覧。
  10. ^ Multi-millionaire backers of climate change denial think-tank revealed”. The Independent. 2022年8月27日閲覧。
  11. ^ Leaders of net zero backlash are funded by US oil money”. openDemocracy. 2022年8月27日閲覧。
  12. ^ a b 組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心(江守正多)”. Yahoo!ニュース. 2022年8月28日閲覧。
  13. ^ Climate change scientists face calls for public inquiry over data manipulation claims”. www.telegraph.co.uk. 2022年8月27日閲覧。
  14. ^ Climate change champion and sceptic call for inquiry into leaked emails”. the Guardian (2009年11月23日). 2022年8月27日閲覧。
  15. ^ Climate sceptics: are they gaining any credence?”. the Guardian (2009年12月4日). 2022年8月27日閲覧。
  16. ^ a b Climate change denial is the new article of faith for the far right”. the Guardian (2009年12月2日). 2022年8月27日閲覧。

外部リンク 編集