契約理論(けいやくりろん、: contract theory)とは、サービス取引に関する当事者間の合意事項である契約に着目し、契約の締結や履行の管理に費用がかかったり、契約当事者間で保持する情報が異なったり(Hidden Information)、契約の履行を監視する機構が不完全であったり(Hidden Action)、情報を処理する能力が限定的である(限定合理性)ために生じる諸現象を説明するミクロの理論である。

契約理論の扱う問題 編集

契約理論は、契約の当事者の間で情報が非対称的に所有されていることから生じる問題を扱うものと、情報処理能力の限界または契約履行を司る制度の不完全性によって情報が不完備となることから生じる問題を扱うものとに分けられる。

情報の非対称性からは、逆選抜モラル・ハザードといった問題が生じる。この問題に対して契約理論では、経済主体に正のインセンティブを与えるような契約はいかにして作れるかということを扱っている。

他方、制度の不完全性や限定合理性からは、不完備契約という問題が生じる。将来起こりうることのすべてを予見して、起こりうるすべての事態への対処を契約に書き込むことはできない。そこから、後で生じた事態に合わせて契約の当事者が行動を変える機会主義の問題が発生する。機会主義的行動を予想すると、特定の取引に特殊的な投資が不適切に抑制されるという問題が生じる。この問題に対して契約理論では、関係的契約を扱っている。

ただし、「契約理論」という言葉は便宜的に使われているということには注意が必要である。ゲーム理論の発展また応用で築きあげられた逆選抜モラル・ハザード、またその発展形として作られたメカニズム・デザイン不完備契約などの総称として使われているが、個々のモデル自体は全く異なる特徴を持っているといえる。その異なるモデルをまとめたいがために用いられる呼称が「契約理論」となる。また、学者によってはシグナリングなども「契約理論」に含める場合もある。

その他に、情報の経済学企業理論インセンティブ理論、Theoretical I.O. などの呼び方がされることがある。

参考文献 編集