愛逢岬

日本の静岡県南伊豆町にある岬、または観光施設

愛逢岬(あいあいみさき、座標)は、静岡県伊豆半島最南部にある[1]。また、岬の近くを走る静岡県道16号下田石廊松崎線に面した観光施設は「あいあい岬」(座標)と呼ばれ[1]、そのすぐ近くには東海バスの「愛逢岬」バス停座標)がある[2][注 1]。「奥石廊大根展望所」とも呼ばれる[7][8]

「あいあい岬」の所在地は賀茂郡南伊豆町入間1839-1で[注 2][3][4][10]石廊崎の西方に広がる奥石廊崎(奥石廊)にある観光名所の1つである[11]。また愛逢岬について、「奥石廊」の通称であるとする文献もある[12]

概要 編集

 
愛逢岬付近を走る県道下田石廊松崎線から見たヒリゾ浜。奥に見える大きな島が「大根島」。

愛逢岬のある奥石廊一帯は、数百万年前の海底火山の噴出物が広く分布しており、岩石海岸険しい海岸線が特徴的な一帯である[13]。周辺には火山活動で形成された火山角礫岩層が隆起し、荒波によって削られた波食地形が広がる[14]。「奥石廊大根展望所」(あいあい岬)の真下には、北から順に「ボウムキ」(座標)「新宿(しょいのり)」(座標)「トビ根」(座標)「小棚」(座標)「棚」(座標)という岬が、その対岸近くにも「アミダ」(座標)や「ゾウガネ」(座標)「ケサカ」(座標)と呼ばれる岩礁がそれぞれありイシダイモロコなどが釣れる磯釣りのポイントとして紹介されている[7]

「あいあい岬」は石廊崎と中木の間の海岸の海食崖上に位置する[15]。県道沿いに売店・駐車場・トイレが設置された施設であり[16]、展望台も整備されている[17]。駐車場は大型車2台分、普通車20台分があるが、大型バス駐車場はない[18]。伊豆西南海岸の複雑な海岸線と駿河湾を眺望できる展望ポイントとして知られ[16]波勝崎も見渡すことができる[19]。狩野謙一・伊藤谷生 (2016) は愛逢岬を「西伊豆の海岸沿いでは最高クラスの展望台」と評している[15]。美しい夕日が見えることでも有名である[17]

 
愛逢岬周辺の空中写真。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。2013年8月11日撮影。

愛逢岬展望台から下田石廊松崎線沿いに約300 m西方には「ユウスゲ公園」(座標)があり[20]、同公園内には愛逢岬の名に由来する「幸せを招く鐘」が設置されている[21]。その一帯は「池の原」と呼ばれる高原で、険しい海岸線が特徴的な奥石廊にあって[13]中期更新世に活動した「南崎火山」という火山の噴出物(玄武岩質の溶岩流スコリア丘)による緩やかな草原の丘が広がるエリアである[15]。愛逢岬の正面には「大根島」という無人島がそびえ、周囲の雄大な海岸線を一望できる[11]。この大根島は周囲一帯では最大の島で、石廊崎安山岩層の水中自砕溶岩で構成されている[15]。また愛逢岬からはヒリゾ浜が見下ろせるが[22]、岬からヒリゾ浜まで泳いで渡ることは禁止されている[23]

「愛逢岬」バス停はピンクのハート型になっており、記念撮影スポットとして人気を集めている[24]。これは、愛逢岬が龍宮窟(下田市)や恋人岬伊豆市)とともに伊豆半島における「恋のパワースポット」とされていることから、2019年4月以降に東海バスがバス停の形をハート型にリニューアルしたものである[25]。なお、バスの停車本数は1方向あたり1 - 2便/日と少ない[26]

歴史 編集

奥石廊崎は石廊崎とともに、南伊豆町にとって重要な観光地である[19]。「あいあい岬」では2011年(平成23年)3月末まで、約20年間にわたって伊豆急物産(伊豆急ホールディングスの子会社、現:伊豆急コミュニティー)が売店を経営していた[16]。しかし石廊崎ジャングルパークの閉園(2003年)などにより、県道下田石廊松崎線の交通量が大幅に減少したことなどが原因で、「あいあい岬」の売店は赤字経営が続いたため、伊豆急物産は2011年3月限りで売店を閉店した[16]。その後、管理上の問題から売店の建物(鉄骨平屋建て、面積約96 m2)・駐車場を所有する伊豆急不動産がバリケードを設置して駐車場を閉鎖する可能性が浮上したため、南伊豆町は同年7月に伊豆急不動産と賃貸契約を交わすことで駐車場・トイレを引き続き利用できる状態にした[16]。その後も売店施設の利用が課題となっていたが[27]、2012年(平成24年)7月14日には南伊豆町観光協会が、伊豆半島ジオパーク構想と連携した伊豆地区初のジオパークビジターセンターを売店施設内に開設し[28]、同日から同年12月末までの来場者は2万1025人を記録した[29]。それ以降は毎年4万人が訪れ、大型バスのコースにもなっており[30]、2017年(平成29年)7月23日に来場者20万人を達成した[31]。同センター内ではジオパークに関する展示(半島の成り立ち、近隣ジオサイトの解説パネル、町内外で採取された岩石の現物など)だけでなく[32]、土産・軽食の販売も行われていた[33]。同年時点で、ジオパークセンターの年間売上額は1,000万円超に達していた[34]

2012年10月17日に奥石廊崎を訪問した静岡県知事川勝平太は、愛逢岬で自然景観の美しさを形容した詩を詠み、翌2013年(平成25年)1月にはビジターセンター入口付近の壁に、川勝の詠んだ詩を森清範清水寺住職)が揮毫した額が展示された[29]。2019年(平成31年)4月1日に「石廊崎オーシャンパーク」が開園したことに伴い、ビジターセンターはあいあい岬からオーシャンパーク敷地内に移転した[33]。このため、あいあい岬の売店は同年3月18日から閉鎖され[30]、建物は伊豆急物産に返還されたが、土地の賃借・管理は引き続き南伊豆町が行うこととなり、あいあい岬のトイレと駐車場は引き続き開放されていた[35]。同年4月27日にはNPO法人「伊豆未来塾」の運営で店名を「夕日のカフェ」と改めて店舗の営業が再開され、閉店前と同じく喫茶・土産販売などが行われた[30]。その後、2023年(令和5年)9月には伊豆の自然に魅了されてイギリスから移住した夫婦がオーナーとなり、伊豆の自然をコンセプトにした土産物店兼カフェ「サウスポイント カフェアンドギフト」が開店した[36]

メディアでの紹介 編集

2019年4月 - 6月にかけて行われた「静岡デスティネーションキャンペーン」の宣伝のため、東日本旅客鉄道(JR東日本)が同年3月から放送したテレビCM大人の休日倶楽部『伊豆半島ジオパーク編』」では、伊豆半島のジオサイトの1つとして愛逢岬が取り上げられている[37]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 同バス停はかつては「奥石廊崎」という名前だった[3][4]。遅くとも2000年2月時点まではこの名称だったが[5]、2002年6月時点では既に「愛逢岬」に改称していた[6]
  2. ^ 南伊豆町入間字池之原1839-1とする資料もある[9]

出典 編集

  1. ^ a b るるぶ伊豆'24 2023, 特別付録「伊豆ドライブ&エリアMAP」16頁.
  2. ^ ゼンリン 2023, G-1.
  3. ^ a b 『ゼンリン住宅地図'92 静岡県 賀茂郡 南伊豆町』1992年1月、東海善隣出版、52頁E-5「入間1839-1 あいあい岬」「奥石廊崎〔バス停〕」
  4. ^ a b 『ゼンリン住宅地図'96 静岡県 賀茂郡 南伊豆町』1996年1月、ゼンリン東海、52頁E-5「入間1839-1 あいあい岬」「奥石廊崎〔バス停〕」
  5. ^ 『ゼンリン住宅地図2000 静岡県 賀茂郡 南伊豆町』2000年2月、ゼンリン東海、52頁E-5「入間1839-1 あいあい岬」「奥石廊崎〔バス停〕」
  6. ^ 『ゼンリン住宅地図 200206 静岡県 賀茂郡 南伊豆町』2002年6月、ゼンリン東海、52頁E-5「入間1839-1 あいあい岬」「愛逢岬〔バス停〕」
  7. ^ a b 「108 アミダ・新宿(しょいのり)(中木)(南伊豆町)」『航空写真で見る 静岡の海釣りベストポイント312』(初版発行)静岡新聞社、2008年10月25日、78頁。ISBN 978-4783807629国立国会図書館書誌ID:000009722130全国書誌番号:21501974 
  8. ^ 「下田」『静岡県道路地図』22号(5版1刷発行)、昭文社県別マップル〉、2021年8月1日、92頁。ISBN 978-4398630490NCID BC08557148国立国会図書館書誌ID:031544833全国書誌番号:23572377  - 92頁C-5に「奥石廊大根展望所」がある。
  9. ^ South Point Cafe&Gift”. 南伊豆町企業ポータルサイト. 静岡県南伊豆町商工会. 2023年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月31日閲覧。
  10. ^ 奥石廊崎(愛逢岬)”. 南伊豆町観光協会(Minami-izu Tourism Association). 南伊豆町観光協会. 2023年12月31日閲覧。
  11. ^ a b 奥石廊崎”. 南伊豆町ホームページ. 南伊豆町 (2002年4月25日). 2023年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月31日閲覧。
  12. ^ 南伊豆を歩く 2020, p. 9.
  13. ^ a b 伊豆半島ジオパーク > 南伊豆エリア:石廊崎・池の原ジオサイト > ユウスゲ公園:海底火山の記憶を一望する天然のテラス”. 伊豆半島ジオパーク. 一般社団法人 美しい伊豆創造センター. 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  14. ^ 『伊豆新聞』2011年2月1日伊東版1頁「伊豆ジオパーク 世界認定を目指して(10)=第1部・主なジオサイト 伊豆最南端の特異な海岸美 石廊崎・池の原 (南伊豆エリア)」(伊豆新聞本社)
  15. ^ a b c d 狩野謙一 & 伊藤谷生 2016, p. 425.
  16. ^ a b c d e 『伊豆新聞』2011年7月28日下田版3頁「奥石廊売店の活用検討 駐車場は引き続き利用可―南伊豆町」(伊豆新聞本社)
  17. ^ a b 愛逢岬(あいあい岬) | 静岡 おすすめの人気観光・お出かけスポット”. Yahoo!トラベル. LINEヤフー. 2023年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年12月31日閲覧。
  18. ^ あいあい岬夕陽のカフェ”. ハローナビしずおか 静岡県観光情報. 公益社団法人 静岡県観光協会. 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  19. ^ a b 伊豆新聞』2012年7月12日下田版3頁「記者コラム=奥石廊にジオビジターセンター」(伊豆新聞本社)
  20. ^ 『伊豆新聞』2013年12月6日下田版3頁「さあ冬支度 南伊豆・奥石廊崎でココスヤシこも巻き」(伊豆新聞本社)
  21. ^ 『伊豆新聞』2016年1月1日伊東版6頁「伊豆の穴場(1) 公園内に「幸せ招く鐘」 南伊豆町・愛逢岬」(伊豆新聞本社)
  22. ^ 『伊豆新聞』2016年1月1日号伊東版6頁「伊豆の穴場(1) 公園内に「幸せ招く鐘」 南伊豆町・愛逢岬」(伊豆新聞本社)
  23. ^ 『静岡新聞』1997年7月26日朝刊1頁「南伊豆の岩場の6人を救助 高波で海岸に戻れず(海難事故)」(静岡新聞社)
  24. ^ 『伊豆新聞』2022年11月28日伊東版6頁「空見たことか(151)=南伊豆町・あいあい岬 雄大な自然展望、最南端の駐車場」(伊豆新聞本社)
  25. ^ 『伊豆新聞』2019年4月4日下田版1頁「恋のパワースポット・標識もハート型に 「龍宮窟」バス停―下田」(伊豆新聞本社)
  26. ^ 愛逢岬 停留所通過予定時刻表” (PDF). 東海バス (2023年6月30日). 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  27. ^ 『伊豆新聞』2011年8月4日下田版3頁「記者コラム=奥石廊「売店」の復活を」(伊豆新聞本社)
  28. ^ 『伊豆新聞』2012年7月7日下田版1頁「奥石廊にジオ拠点―伊豆初のビジターセンター、14日開設」(伊豆新聞本社)
  29. ^ a b 『伊豆新聞』2013年1月11日下田版1頁「愛逢岬の絶景詠む 貫主揮毫、知事の詩展示―奥石廊崎ジオセンター」(伊豆新聞本社)
  30. ^ a b c 『伊豆新聞』2019年4月27日下田版7頁「店名改めきょう再開 未来塾運営「未来のカフェ」―南伊豆」(伊豆新聞本社)
  31. ^ 『伊豆新聞』2017年7月24日下田版1頁「ジオセンター来場者20万人を達成 南伊豆、世界認定調査に弾み」(伊豆新聞本社)
  32. ^ 『伊豆新聞』2019年1月23日下田版1頁「石廊崎の魅力アピール 新ジオパーク・ビジターセンター―南伊豆」(伊豆新聞本社)
  33. ^ a b 『伊豆新聞』2018年4月27日下田版3頁「ジオセンター、石廊崎へ 来年4月オーシャンパーク内―南伊豆」(伊豆新聞本社)
  34. ^ 平成29年3月定例会 南伊豆町議会会議録 平成29年2月27日開会 平成29年3月16日閉会”. 南伊豆町. p. 89 (2017年2月27日). 2024年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月1日閲覧。
  35. ^ 『伊豆新聞』2018年11月23日下田版1頁「あいあい岬、本年度末で売店閉鎖 駐車場、トイレは開放―南伊豆」(伊豆新聞本社)
  36. ^ 『伊豆新聞』2023年9月21日下田版6頁「自然に魅せられ20年超 英国から移住の節、念願の店舗開業―南伊豆」(伊豆新聞本社)
  37. ^ 『伊豆新聞』2019年3月9日伊東版1頁「1面コラム 潮の響=DC前に盛り上がる観光協会」(伊豆新聞本社)

参考文献 編集

関連項目 編集

座標: 北緯34度36分34.1秒 東経138度49分27.7秒 / 北緯34.609472度 東経138.824361度 / 34.609472; 138.824361