日本車輌製造製北アメリカ向け気動車

日本車両製造が北アメリカ向けに展開していた気動車

この項目では、日本の鉄道車両メーカーである日本車輌製造北アメリカの鉄道路線向けに展開していた気動車について解説する。アメリカの安全基準や環境基準に基づいた設計を採用した車両で、2019年の時点で2つの鉄道事業者が運用している。日本車輌製造による公式のブランド名は存在しない[1][2][4]

日本車輌製造製
北アメリカ向け気動車
SMART向け車両

UPエクスプレス用車両
基本情報
運用者 ソノマ・マリンエリア鉄道(SMART)、ユニオン・ピアソン・エクスプレス(UPエクスプレス)
製造所 日本車輌製造
製造年 2014年 - 2015年
製造数 SMART
14両(2両編成7本)
UPエクスプレス
18両(3両編成4本、2両編成3本)
主要諸元
編成 2両 - 3両編成
軌間 1,435 mm
設計最高速度 SMART
127 km/h
UPエクスプレス
144.8 km/h
車両定員 SMART
着席79人(A車)
着席79人(B車)
UPエクスプレス
着席60人(A車)
着席53人(C車)
車両重量 SMART
67.575 t(A車)
67.586 t(B車)
UPエクスプレス
69.99 t(A車)
70.988 t(C車)
全長 26,120 mm
全幅 3,180 mm
全高 4,450 mm
台車 ボルスタレス台車
車輪径 914.4 mm
機関 カミンズ QSK19-R
機関出力 567 kw
出力 567 kw
制動装置 電気指令式ブレーキ(機関ブレーキ、コンバータブレーキ併用)
備考 主要数値は[1][2][3][4]に基づく。
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開発までの経緯 編集

行き過ぎたモータリーゼーションの弊害として生じた自動車による渋滞、都市環境の悪化への対策から、アメリカ合衆国カナダなど北アメリカでは鉄道の見直しが進んでおり、鉄道を軸とした都市交通計画が積極的に推進されている。だが、直ぐに大規模な鉄道インフラを整備する事は難しいため、既存の貨物鉄道を整備した上で通勤列車を走らせる方法が最適だと考えられ、その中で非電化区間でも走行可能で、編成の組み換えが容易な気動車が注目されている[5][6]

既に2010年の時点でシーメンスドイツ)のデジロシュタッドラー・レールスイス)のGTWなど世界各国の鉄道車両メーカーの気動車が導入されており、アメリカ国内でもコロラド・レールカー英語版や破産後にその業務を受け継いだUSレールカー英語版が気動車の製造を手掛けていたが、アメリカの厳しい安全基準に加えて環境対策を施したディーゼルエンジンを搭載し、更に保守性も向上させた、北アメリカ市場向けの標準型気動車は存在していなかった。そこで日本車輌製造はこれらの条件を満たした気動車を開発し、住友商事を介して2010年から展開を実施した[7][8]

概要 編集

車体はアメリカの耐衝撃性基準(Tier I)に準拠した設計になっており、車体はオーステナイト系ステンレス鋼、流線型の前面は繊維強化プラスチック(FRP)によって構成される。編成は片運転台式の車両を繋いだ2両編成を基準としており、以下の車種によって構成される[1][2]

  • A車・B車 - 先頭は流線形・非貫通式。導入先によって車椅子対応のトイレの有無は異なる。
  • C車 - 車椅子対応トイレ付きの先頭車。先頭は貫通式で、中間車としての運用も考慮されている。

エンジンはカミンズが開発・製造した、アメリカ合衆国環境保護庁(EDA)のTier 4[注釈 1]ヨーロッパにおけるステージIIIBなどの環境基準を満たした"QSK19-R形"(567 kw、760 HP)を各車両の床下に1基搭載している。エンジンは6気筒式でコモンレール燃料噴射システムを採用し、環境対策に加えてアイドリング状態からの高速加速を実現させるための高速なトルク応答を備え、駅間距離が短い通勤路線でも十分な性能が発揮できる。エンジンの大きさも内蔵型電源モジュール内に収納できるほどに小型化され、車内レイアウトなどに支障をきたさない構造となっている[4][9][10]

導入 編集

ソノマ・マリン地区鉄道公社 編集

アメリカカリフォルニア州ソノマ群マリン郡を結ぶ通勤鉄道として2003年に設立されたソノマ・マリンエリア鉄道(Sonoma–Marin Area Rail Transit、SMART)は、2010年に最初の顧客として日本車輌製造製の気動車を18両発注した。そのうち実際に製造されたのは14両で、2017年の開業時から営業運転に用いられている[注釈 2][5][11]

編成はトイレが設置されている"A車"と自転車用ラックが設置されている"B車"を組み合わせた2両編成を基本としているが、先頭車を増結する事による3両編成も用いられている。車内には段差がなくバリアフリーに対応している他、開業時の時点で総延長69 kmという長距離を走る事からB車にはバーカウンターが設置されている。導入に関して、2016年7月に車両火災が発生した際にカミンズ製のエンジンのクランクシャフトに欠陥が見つかった結果、2017年4月までにエンジンを交換・修繕する作業が実施され、営業運転開始が当初より遅れた要因の1つとなった[1][3][12][13]

ユニオン・ピアソン・エクスプレス 編集

2015年6月6日から営業運転を開始した、カナダトロント中心部とトロント国際空港を結ぶ、メトロリンクス(Metrolinx)英語版が運営する空港連絡鉄道であるユニオン・ピアソン・エクスプレス(Union Pearson Express、UP Express)は、開業に合わせて日本車輌製造製気動車を導入している。編成は貫通扉付きの車両(C車)を中間に挟んだ3両編成(A車 + C車 + A車)が4本、2両編成(A車 + A車)が3本で、導入車両数は計18両となる[2][10][14]

SMART向け車両と比べて寒冷地を走るため、各種ヒーターの強化やスリップ防止用の設備など耐雪・耐寒性を重視した仕様となっている。内装についても、SMARTより短距離を走る事、空港連絡鉄道に用いられる車両である事から自転車用ラックやバーカウンターは設置されておらず、代わりにカナダの基準に基づいた荷棚や大型荷物を収納可能な荷物スペースが設置されている。列車便所は中間に連結されるC車に存在する[2][15]

ただし、導入開始の時点でユニオン・ピアソン・エクスプレスには将来的な路線電化の計画が存在しており、電化が完成した際は日本車両製造製気動車は電車によって置き換えられる予定となっている[10][16]

その他 編集

2014年の時点でトライメット英語版マサチューセッツ湾交通局も導入を検討していたが、2018年をもって日本車輌製造がアメリカ市場から撤退したため実現する事は無かった[1][2][17][18]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 排気ガスに含まれる粒子状物質量を90%、窒素酸化物を80%削減する基準。
  2. ^ 2017年6月29日に運賃無料の仮開業が実施され、同年8月25日から正式に営業運転を開始した。

出典 編集

  1. ^ a b c d e アメリカ・SMART向けディーゼルカー”. 日本車輌製造. 2019年11月10日閲覧。
  2. ^ a b c d e f カナダ・Metrolinx向けディーゼルカー”. 日本車輌製造. 2019年11月10日閲覧。
  3. ^ a b 日本車両・住友商事 北米向け新型標準ディーゼルカーを開発・販売”. 日本車輌製造 (2010年12月16日). 2019年11月10日閲覧。
  4. ^ a b c CUMMINS QSK19-R TO POWER NIPPON SHARYO DMU TRAIN DESIGNED FOR NEW TRANSIT ROUTES IN NORTH AMERICA - ウェイバックマシン(2014年8月12日アーカイブ分) Cummins
  5. ^ a b 日本車両・住友商事 北米向け新型標準ディーゼルカーを開発・販売”. 日本車輌製造 (2010年12月16日). 2019年11月10日閲覧。
  6. ^ 米国カリフォルニア州在鉄道公社SMART向けにディ-ゼルカー18両を受注”. 住友商事 (2010年12月16日). 2019年11月10日閲覧。
  7. ^ Brian Solomon (2017-5-29). Field Guide to Trains: Locomotives and Rolling Stock. Voyageur Press. pp. 66. ISBN 978-0760349977 
  8. ^ US Railcar”. 2019年11月10日閲覧。
  9. ^ William C. Vantuono (2014年4月25日). “Toronto, SMART DMUs will get Cummins Tier 4-compliant power”. Railway Age. 2019年11月10日閲覧。
  10. ^ a b c THE PROJECT / VEHICLES - ウェイバックマシン(2015年3月18日アーカイブ分) Union Pearson Express
  11. ^ Mark Prado (2017年6月26日). “SMART offers free ‘preview’ service starting Thursday”. Marin Independent Journal. 2019年11月10日閲覧。
  12. ^ Derek Moore (2016年10月14日). “SMART spurred by engine failure on Toronto rail car to replace engines on its brand-new cars”. The Press Democrat. 2019年11月10日閲覧。
  13. ^ Mark Prado (2017年4月5日). “SMART commuter rail waits for testing perfection before launch”. Marin Independent Journal. 2019年11月10日閲覧。
  14. ^ Is Tronto's air-rail link the priciest in North America?”. BlogTo (2014年12月11日). 2019年11月10日閲覧。
  15. ^ 日本車両・住友商事連合 カナダ・オンタリオ州鉄道公社向けにディーゼルカー12両を受注”. 日本車輌製造 (2011年4月1日). 2019年11月10日閲覧。
  16. ^ Ben Spurr (2019年9月24日). “Metrolinx planning major overhaul of UP Express that could include station renovations, new trains”. The Star. 2019年11月10日閲覧。
  17. ^ WES Ridership and Fleet Requirements”. TriMet (2014年4月9日). 2019年11月10日閲覧。
  18. ^ 友田雄大 (2018年7月26日). “日本車両、海外生産撤退へ 米イリノイ州の工場8月閉鎖”. 朝日新聞. 2019年11月10日閲覧。

外部リンク 編集