星条旗 (国歌)

アメリカ合衆国の国歌

星条旗』(せいじょうき、: The Star-Spangled Banner)は、アメリカ合衆国国歌。歌詞は、1814年9月に当時35歳の詩人弁護士フランシス・スコット・キーによって書かれた[1]

The Star-Spangled Banner
和訳例:星条旗
Defence of Fort M'Henry
「マクヘンリー砦の防衛」(後の米国国歌になる詩)。1814年に大版(ブロードサイド)印刷され、現存している2枚のうち1枚。

国歌の対象
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

作詞 フランシス・スコット・キー(1814年)
作曲 ジョン・スタフォード・スミス(1780年)
採用時期 1931年
試聴
noicon
テンプレートを表示

歴史 編集

作曲の経緯 編集

 
 ?当時の星条旗1795年5月1日 - 1818年7月3日

1812年に始まった米英戦争のさなかの1814年9月、ボルティモアメリーランド州)のマクヘンリー砦での事である。フランシス・スコット・キーは、友人である医師を含む捕虜の交換交渉のためにイギリス帝国の軍艦に乗り込んだ。イギリス側の司令官は、最終的にはキーもその友人も解放することに同意した。

しかし機密保持のため、帝国艦隊が砦を砲撃する間、2人は軍艦内で抑留される事となった。激しい夜間砲撃の後、9月14日[2]の夜明けを迎えたキーらは、曙光の中で(“by the dawn’s early light”)、砦の上に星条旗(その当時は星15個、縞15本)が聳えるのを目にする。

激しい砲撃にも砦が死守された事に感銘を受けたキーは、直ぐさま「マクヘンリー砦の防衛」という詩の着想を得、持参していた手紙の裏に書き留める。2日後、ボルチモア市街に友人達と無事に戻った16日の夜、インディアン・クイーン・ホテル(Indian Queen Hotel)で推敲し、4節の詩に体裁を整え、複写を作成し、翌17日に周囲に披露した[3]

この詩はさらに、人気のあった酒飲み歌「天国のアナクレオンへ」のメロディに合わせてアレンジされ、同年10月14日にボルチモアのホリデー・ストリート・シアター(Holliday Street Theatre)で歌曲として初披露された後、“The Star-Spangled Banner”(「星条旗」)として出版された[3]。曲の「天国のアナクレオンへ」は、イギリスの作曲家ジョン・スタッフォード・スミスによって1780年に書かれ、英米で人気を得た曲である。アナクレオンは古代ギリシアの詩人で、恋愛や酒を題材にした詩を書いた人物。

国歌に制定されるまで 編集

『星条旗』は特に南北戦争中に人気を博した[4]。1890年ごろまでに軍隊の儀式において採用され、国旗の掲揚・降納時に演奏することが義務づけられた[4]

アメリカの正式な国歌を制定しようという動きは長くあり、『星条旗』もその候補であったが、ほかにも実質的な国歌とされている曲があった。1908年、議会は国歌の候補として4曲を選び、アメリカ議会図書館長のオスカー・ソネック (Oscar Sonneckに調査を依頼したが、その4曲とは『星条旗』、『コロンビア万歳』、『アメリカ』、『ヤンキードゥードゥル』であった[5]。1917年には陸軍および海軍は『星条旗』を儀礼における国歌に指定した[4]。最終的にハーバート・フーヴァー大統領時の1931年3月3日、『星条旗』が、アメリカ合衆国の国歌として正式に採用された[4]

使用 編集

その他 編集

星条旗よ永遠なれ (Stars and Stripes Forever)」は作曲家ジョン・フィリップ・スーザによる行進曲であり、全く別の曲である。こちらは、1987年12月に「アメリカ合衆国の行進曲 (National March)」に制定された。

曲はかなり広い音域を使用するためにうまく歌うのは難しい。高い音で歌い始めてしまうと最後近くの「free」のところの最高音の伸ばしを失敗してしまう。スポーツイベントなどで歌われる慣習があるが、有名人が失敗して批判されることも多い[8]。なお、イベントなどであえて曲調を変えて歌うこともあり、物によっては国歌という印象を覚えないこともある。

歌詞 編集

『星条旗』の歌詞には多少の揺れがあるが、何が正式なものかは定められていない。歌詞は4番まであるが、1番以外が歌われることは少ない。とくに3番は内容が強く反英的であることから通常は歌われない[9]

以下は第1番のみ掲載する。歌詞にいう「rocket」を日本語訳では「狼煙」「砲火」「砲弾」等と翻訳されるが、これはフォートマクヘンリーへの砲撃で発射されたコングリーヴ・ロケットのことである。

原文 編集

Oh(O) say can you see, by the dawn's early light,

What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming,

Whose broad stripes and bright stars through the perilous fight,

O'er the ramparts we watched, were so gallantly streaming.

And the rocket's red glare, the bombs bursting in air,

Gave proof through the night that our flag was still there;

Oh (O)say does that star-spangled banner yet wave

O'er the land of the free and the home of the brave?

日本語訳 編集

おお、君は見えるだろうか。夜明けの薄明りの中

黄昏の僅かな光の下に掲げられた我々の歓喜を浴びる誇り高きものが

その太い縞模様と輝く星々は危険に満ちた戦いを潜りぬけ

城壁の上で勇ましく翻っているあの旗を

ロケットの赤い光が、空中で破裂する爆弾が

我々の旗がまだそこに在るのを夜を徹して証明していた

おお、あの星条旗はまだたなびいているだろうか

自由の大地であり、勇者の故郷でもある場所で

メディアファイル 編集

音声 編集

動画 編集

星条旗のモノクロ映画。演奏と歌唱、歌詞テロップ
1944年のもの
星条旗のカラー動画。演奏、歌詞テロップ
1940年のもの

脚注 編集

  1. ^ ジョン・パウエル『ドビュッシーはワインを美味にするか? 音楽の心理学』早川書房、2017年、28頁。ISBN 978-4-15-209720-0 
  2. ^ Smithonian: THE STAR-SPANGLED BANNER
  3. ^ a b Smithonian: "Star-Spangled Banner and the War of 1812" 2013年9月14日閲覧
  4. ^ a b c d Star-Spangled Banner, Smithsonian Institution, https://www.si.edu/spotlight/flag-day/banner-facts 
  5. ^ “Other American Anthems”, The Life and Times of the Star-Spangled Banner, http://www.starspangledbannerlifeandtimes.com/OtherAnthems.html 
  6. ^ A Window In Time - Rachmaninoff Performs His Solo Piano Works, Telarc, (1998), https://www.discogs.com/release/1656130-Rachmaninoff-A-Window-In-Time-Rachmaninoff-Performs-His-Solo-Piano-Works  (Discogs)
  7. ^ a b Stephen Walsh (2006). Stravinsky, The Second Exile: France and America, 1934-1971. University of California Press. ISBN 9780520256156 
  8. ^ Why Is 'The Star Spangled Banner' So Hard To Sing?, ABC News, (2012-06-12), https://abcnews.go.com/Entertainment/celebrities-flubbed-national-anthem-star-spangled-banner-hard/story?id=16756113 
  9. ^ The Life and Times of the Star-Spangled Banner, http://www.starspangledbannerlifeandtimes.com/StarSpangledBanner.html 

関連項目 編集

外部リンク 編集